特定厨という妖怪は力を失った

むかしむかし。
特定とはインターネット上で最強の切り札であり、それを使いこなす特定厨は、人に迷惑をかける妖怪として恐れられていた。

「お前の学校や職場を特定してお前の人生めちゃくちゃにしてやるぞ!」というのがお決まりのフレーズで、目をつけられてしまえば最後、顔から住所から下手すると家族まで全てが晒されて、インターネットに公開される。
かつてのインターネットには特定厨がたくさんいた。
彼らは集合知による脅威的なほどの知識と執念を持って、特定に勤しんでいた。
彼らは現代に顕現した妖怪そのものだった。
本当にクソみたいな話だけど、人の人生を破壊することで快楽を得る妖怪は、確かにインターネット上に存在していたのだ。

ちなみに特定というのは触りだけなら簡単な作業だ。
今だとGoogle画像検索に画像を突っ込めば大体答えが出てくる。
その人の生活範囲や行動パターンを読むことが出来れば、比較的簡単に絞ることはできる。
そこからは地道な作業になるけど、対策されていなければ答えらしき物を導き出すのは容易だろう。
集合知を用いれば、尚更簡単になる。

しかし現代において、特定厨は力を失った。

世の中に手の内がバレた。やりすぎてしまったのだ。
特定するだけならともかく、それを公開すること、そしてそれを利用して嫌がらせをすることなどは、今では警察に捕まるような行為であり、立派な犯罪だ。
インターネット越しだろうが、今の時代は簡単に貫通して法的処置を取られる。
かつてはインターネット越しであれば、こちらは安全というのがインターネットの常識だったから、その常識が変化していると言えるだろう。
今の時代、人の権利を無闇に害すことは、インターネット越しだろうか犯罪として認識されている。

特定手法もある程度共有されるようになってきたから、対策もされるようになってきた。
対策されてしまうと、特定はかなり脆い。
そもそも特定とはいうけれど、インターネットで素人が行なっている人探しをそう呼んでいるだけだ。
インターネットの普及によって素人でも比較的容易に人探しが出来るようになったというだけだ。
素人仕事だから、簡単に対策されるようなことで無力になってしまう。

何より、人を貶めて快楽を得る人種がいることが明るみに出てしまった。
そしてその人たちが捕まって、実際は本当にただの人間だということも露呈してしまった。
正体が暴かれてしまった妖怪は、脅威ではない。
人が化けているだけの妖怪なんて、怖くはないからだ。

こうして現代に生まれたインターネット妖怪「特定厨」は退治されました。
妖怪を退治したのは人間の英雄ではなく、世間という妖怪でした。

ここで一曲。

石鹸屋 - 東宝萃夢想 ~saigetsu~



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