劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD 感想まとめ【S6:第二営業所での再会】
■第二営業所の面々が、天空不動産の世界をリアルにする
第二営業所のシーンはいつ見ても楽しい。特に劇場版はそうである。何回見ても何か新しい発見がある。各俳優陣がそれぞれの役を愛し、徹底的に演じ込んでいるからだと思う。
栗林歌麻呂は、春田が帰ってきたことがとにかく嬉しいのか、いの一番に抱き着きに行く。「休みなんていらないでしょ。働いて働いて」と軽口を叩けること自体が楽しくてたまらないし、ドラマのときは「俺先輩だぞ」とちょっと疎ましさすら見せていた春田も「うるせえよ」とは言いながら、じゃれつき合う。春田がジャスティスに「プリーズコールミー、ジャスティス!」と自己紹介を受けていれば、その後ろで「ハルティス! マロティス!」と、そんな二人ちょっかいを出すタイミングを見計らっているのもまたマロだ。ドラマ以上に仕掛けていこうとする金子大地と、春田に絡んで突っ込まれるのが楽しくて仕方がない栗林が重なって見える。
武川政宗こと眞島秀和は、どんなシーンでも常に武川に対し全力だなと思う。武川はコメディを担っているが、彼自身が面白おかしいというよりは、真面目で必死すぎるところがつい面白く見えてしまうという、非常に難しい匙加減のキャラクターだと思う。劇場版では更にそれが顕著だったこともあり、賛否両論だったと個人的には思っているのだけど、私は眞島秀和のお芝居を見ていると全て納得させられてしまう。武川が幸せならなんだって良いじゃないかと思わせられる説得力、熱意がある。
劇場版で好きなのが、この第二営業所における瀬川舞香との一瞬の掛け合いである。牧が本社に異動になったことを知らなかった春田が「牧は先週本社に戻ったんだ」と聞き驚きを隠せずにいると、瀬川は「知らなかったの!? お付き合いしているのに」と咄嗟にカミングアウトしてしまう。その瞬間、武川は瀬川を睨みつけ口をつぐませる。春田と牧がお付き合いしていることに一切の疑問を抱かず、当然のように言葉にしてしまうのは瀬川らしいし、二人の関係を知らない人間を前にカミングアウトしてしまった瀬川を引き留める武川もまたいかにも彼らしい。脚本にはこうしたやり取りは一切書かれていないものの、こうした個々の登場人物たちのやり取りから、キャラクターが深掘りされ、天空不動産の世界観がより生き生きとリアルになっていくのだと思う。
■それでも春田は黒澤のことが好きだ
劇場版を見ていて感じるのは、春田にとっての牧と別れていた1年間の重みである。牧に対する想いはもちろんのこと、その間、自分のことを見守ってくれた黒澤に対しても、恋とは違うにせよ、信頼関係や愛情があるのだということを強く感じさせる。その一端がこの営業所での再会シーンである。黒澤に駆け寄り、帰国を報告する春田と黒澤の一瞬の間、嬉しくて嬉しくて堪らない、褒めて欲しくて堪らないという春田の表情と、それを見てもう一度抱きしめるのを我慢できなくなってしまった黒澤に、二人の一年間が垣間見える。ただの上司と部下に戻った二人だとしても、それでもきっと公私ともに自分のことを育ててくれた黒澤は春田にとって大切な人であろうし、黒澤にとっても春田は未だに可愛くて仕方がないのだろう。
個人的に、劇場版の黒澤はまだ完全に春田の失恋を吹っ切れていないと思っている。もちろん、彼には彼の矜持があり、ドラマのラストで春田の背中を押し送り出した時点で、もう春田への未練は見せないと心に決めていることだろう。それでもどうしても春田への想いが忘れられず、記憶を失い自制が外れてしまったことで、もう一度恋に落ちてしまったのが劇場版だったのではないかとも考える。
◇個人的なみどころ
第二営業所ではホワイトボードに毎月の営業成績を貼り出しているが、このシーンでは「6月」と記載がある。一方、次に出てくる春田の実家のカレンダーでは「7月」になっている。
このふたつから、春田の帰国日は6月30日で、牧が本社に異動したのは6月23日の週? ジャスティスは牧とのバーターで配属となったのか? など想像するのがまた楽しい。