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双子出産記#8 双子が生まれた日(前編)
出産予定日の前日。
日中はいつもと変わりないルーティンでNST検査や心拍の確認をしてもらって、夕方に主治医による内診がおこなわれた。内診台に乗り、寝転ぶだけでも子宮で内臓が圧迫されて、息が浅くなる。もう身体の限界だなぁと、つくづく感じる。とにかく早く産みたい。
入院病棟には分娩室が2つあり、ナースステーションから遠い方が入院中の診察に使われることが多い。この日もその分娩室での診察で、つまり内診台ではなくて分娩台に乗ってエコーや内診を受けた。明日もこうやって、部屋は違えど分娩台に乗って、こんな視野で、ついに産むんだよなぁと、しみじみとした気持ちになる。
「お、子宮口、3~4㎝開いてるね。」
嬉しそうに主治医が言う。意外ともう開いてきているらしい。
「いい感じ。この調子です、さらに刺激しておきましょう」と、主治医がいうやいなや、下半身に激痛が走った。
いわゆる「内診グリグリ」というやつ。長男の時は破水スタートだったので、初体験。噂通りの痛さで、顔が歪む。
しかし私の腕には張り止め点滴の針がしっかりと刺さっている。あれ?刺激するくらいなら、張り止めはもういらなくないか?矛盾してない?
「あの、刺激するのに、リトドリン(張り止め薬)続けるんですかね?」
「うーん、そうだねー。今夜には取ってもいいかもね。」
出産当日まで張り止め点滴をし続けることに抵抗があったので、主治医の返答に少しホッとした。
経腹エコーもして、2人ともちゃんと頭位のままのことを確認。逆子になっていないし、健康状態も問題なし。明日はこのまま経膣出産できそうだ。
分娩台からおりて、下着を履く。
「今日から明日までの流れは確認して、また後でご説明しますね」
分娩室なのでカーテンがなく、主治医は少し離れたところでこちらに背を向けて話してくれていた。あ、今じゃないんだ。と思ったけれど、「お願いします、ありがとうございました」と先生の背中に向けてお礼を言う。
「いや〜ついに明日ですね。いよいよですね、頑張りましょう!」
主治医の明るい声が分娩室に響く。
先生とはこの1ヶ月毎日顔を合わせ、一緒に「双子を経膣で産む」ということを目指してきた。同い年で親近感も湧き、すっかり同志のような気分だ。私たちの間には、体育祭や受験の前日みたいな、少しの緊張とそれにともなう高揚感が漂っていた。
○○○
夕食前に、主治医が改めて病室に説明に来てくれた。
「リトドリン、明日の4時まで続けることになりました」
えーーーーーー?!?
点滴、抜かないのかーい!!!!!
昼間の会話から一転、やはり夜勤帯に出産にならないようにしようという病院側の意向が強く、張り止めの点滴は今夜も続けるという。今夜で終わりかも、と期待しただけに、落胆が大きい。
ていうか、あのグリグリ、意味あった?
下腹部のズーンとした痛みがテンション落下に拍車をかける。
悶々としたけれど、夜勤の人手不足のときに双子出産は危険だから、と言われたら、拒否はできない。それにまぁ、先生の立場と気持ちも少しわかる。自分も仕事で社外の人と「こっちの方向でいきましょうか〜」みたいに同意してたのに、社内で合意が取れず、「ほんとすみません〜」って覆したこと、ある。わかるよ、あるよね、そういうこと。
言い渡された計画によると、翌朝4時に助産師さんが起こしに来てくれて、陣痛室へ移動。そこでようやくリトドリン点滴を抜く。そしてシャワーを6時半から浴びて、7時から診察を受け、朝食を8時から食べ、9時から促進剤を投与するらしい。5時間で真逆の効果の薬を入れて大丈夫なんだろうかとますます不安。でももう、後には引けない。ここまできたらやるしかない。このボコボコと肋骨やら膀胱やらを蹴りまくっている暴れん坊たちなら、きっと元気に頑張ってくれるはず。先生たちのことも、子どもたちのことも、そして自分のことも信じるしかない。
夕食後に夫と電話して明日の予定を伝え、少し読書をして、日記を書いて、22時には寝ることにした。(大部屋は21時消灯だが、数日前に移動した個室では好きな時間まで点灯OKだった)
明日の夜眠るときは、もうこのお腹の中に子どもたちはいないんだなぁと気づく。三位一体でいるのも、あと少し。寝ているときに、地震か?と思う程の胎動で起こされるのも、肋骨を蹴られて涙が出そうなほど痛むのも、もう最後なのだ。早く産んで楽になりたいけれど、自分の身体の中に命を2つも抱えている不思議な感覚がなくなるのは少しだけ寂しい。
予定日前日の夜はもっとそわそわするかと思っていたけれど、意外と落ち着いていた。いろいろな不安はあるけれど、やっと明日、双子たちに会えると思うと嬉しい。お腹に手を当てて、2人の頭があると言われたあたりを撫でる。
「やっと会えるね、がんばろうね」
双子に思いを馳せているうちにまどろみ始め、いつのまにか眠っていた。
〇〇〇
朝4時。予告通りに夜勤の助産師さんが起こしに来てくれた。もう出産を終えるまで自分の部屋には戻らないので、飲み物や暇つぶしグッズ、タオルや着替えなどもまとめて陣痛室へ持っていく。安産祈願もしっかり握りしめ、いざ、出陣…!
と、気合い十分に陣痛室へ移動したけれど、点滴を抜く処理はすぐに終わり、「シャワーの時間まで、ゆっくり寝ておいてくださいね」と助産師さんは部屋を出ていった。えっ、全然眠くないのだが。もう出産に向けて頭がギンギンに冴えてしまって、眠気は1ミリも残っていない。出産に備えて寝ておかなきゃ…と思うが思うほどに全く眠くならず、あきらめて本を読んで過ごした。
6時半になり、シャワー室へ向かった。この1ヶ月ずっと腕に繋がれていた点滴がない。カラカラと点滴台を押して歩かなくていいのだ。
入院してからの1ヶ月間、ずっと点滴をしたままシャワーを浴びてきた。脱衣所に点滴台を置き、少しだけシャワー室の戸に隙間をあけて、チューブをシャワー室まで伸ばして入る。これが邪魔で、慣れるまで結構洗いづらい。さらに点滴に繋がれたままでは服の着脱ができないので、シャワーの前後に脱衣所でナースコールを押して、助産師さんに点滴を1度外してもらって腕をパジャマの袖から通し、またすぐ付け直してもらう必要がある。
これら全てを腹囲100cm越えのしゃがむことすら困難な身体で、かつ脱衣も着衣も含めて30分以内で行うのは至難の業だった。
だからこの日の朝、久しぶりなんの点滴もない状態でシャワーを浴びれることは、ものすごい贅沢をしているような気分になった。
点滴を気にせず自由に身体中を洗えるし、いちいち助産師さんを呼ばなくていい。さらに早朝で予約の枠外なので、30分を意識しなくてもいい。ゆっくりシャワーを浴びれるって、なんて気持ちがいいんだろう。出産前にちょっとしたご褒美をもらった気分だった。
○○○
全身さっぱりして、ドライヤーで髪を乾かしていると主治医が診察にきてくれた。陣痛室の隣の分娩室へ案内され、エコーで双子の様子を最終チェック。大丈夫、しっかり2人とも元気そうだ。
「よし、じゃあ刺激しますよ〜力抜いてね。」と、またグリグリとやられる。痛い。昨日より痛い。というかグリグリが長い、まだやんのか、いたいって、いたいってば、いってえぇぇえぇえええええ………!!!力、抜けるかぁぁぁぁああああぁぁ!!!(心の叫び)
グリグリが終わると、主治医が手袋を外そうと手を上げるのが見えた。おいおいおいおいおい、ちょっと待ってよ、あなた、それ、血まみれじゃないかい!?!?!!!?
さっきまで私をグリグリと痛めつけていた主治医の手が、べったりと血に塗れている。そして目が合うと、「卵膜はがしといたんでね、進むと思いますわ」と主治医はドヤ顔で笑った。(本当はただの優しい笑顔だったかもしれない。でもこのとき私は痛みを与えた主治医に少なからず恨めしく思っていたのでドヤ顔にみえた)
え、笑顔で血まみれになってるの怖。てゆかこんな血まみれになりつつ「力抜いて」なんて言ってたの?!?産婦人科医、血に慣れすぎてて怖すぎる。そして主治医はどちらかというと「サービスでマッサージしときましたよ」くらいの感じで言っていて、でも私からしたら激痛とともに血まみれにされており、とてもありがとうございますと言える気分ではないけれど主治医は善意でやってくれたわけで……
と一瞬にして頭の中であれやこれやが駆け抜けた結果、
「あーーー、、、なにより、です。(真顔)」
と自分でもちょっとよくわからないリアクションをして、分娩室から陣痛室へと戻った。
○○○
陣痛室に戻ると朝食が部屋に届いていた。お腹が空いているのでいつもより美味しく感じる。卵膜を剥がした影響か下腹部が痛いけれど、余裕で完食。
食事を終えると10分おきに張りをともなう定期的な痛みがでてきたが、生理痛くらいの痛みで
まだまだ陣痛とは違う感じがした。
時計を見ると7時50分。
4時から起きているので、まだこんな時間か、と思った。
今思い返すと、この日は私の人生で1番長い一日だった。
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