めちゃくちゃ面倒くさい政府統計調査に協力してみました
このnoteは元ベンチャー執行役員の専業主婦(1年目)が仕事やキャリア、人事、育児、社会人MBAなど雑多に思うことを書き連ねるものです。
私がやらなきゃ誰がやる
先日、玄関の掃き掃除をしていたら女性3人組がご近所のお家を申し訳なさそうに訪問しているのを見かけた。昨今、強盗事件も多いのでちょっと特殊なその雰囲気に気を配って見ていたら、どうやら区から業務を委託されている人っぽい。そこで、「ああ、そういえば数週間前に封書が届いていたな」と思い出す。厚生労働省からのお便りで、政府統計調査の対象地区に選定されたので協力してほしいみたいな内容だったなぁ。
数分後、我が家の玄関チャイムも鳴った。
ドアを開けると先ほど見かけた区からの方で、職員・保健師・歯科衛生士(?)というような組み合わせでの訪問だった。
以下3種類の統計調査に協力してほしいとのことだった。
生活習慣調査
家族全員分の調査用紙に、食習慣や飲酒、運動、喫煙(受動喫煙を含む)の回答をする。A4用紙4ページ程度。
栄養等摂取量調査
家族全員分、特定の1日に摂取した食品全部を記録し回答する。
食材ごとにグラム単位で記入。
万歩計を配布され1日ポケットに入れて歩数を記入。
身体調査
身長体重だけでなく、血液検査や歯科検診も含まれる。
指定の日に近所の公民館で受診する。
もちろん、無報酬。
・・・・これ、相当時間に余裕のある人しか引き受けないだろうな。
思わず「これ受けてくれる方いないですよね・・・困ってますよね・・・」とお声がけしたら3人の女性が祈るような表情で「・・そうなんです」と。
さんざん仕事でも大学院の研究でも統計調査にお世話になった。
人事の仕事では忙しい従業員にアンケートの回答などをお願いするときに肩身狭い思いをした。
私には、今、時間がある。
膨大な調査票を手に、私は顔を上げて言った。
「3種類、全てやります」
実際にやってみた
生活習慣調査票の回答はすぐに終わった。私を含めた3人分の1日の食事回数や飲酒回数、睡眠時間、喫煙状況、通学路で受動喫煙に合うかなんかも回答した。5分ほどで終了。夫や娘の分は私が質問する形で記入した。
難関は栄養摂取状況調査票だ。
数日前から気合を入れて、なんならその1日はグラム数を図りやすいメニューにしようとまで考えた。夫と娘にも「明日1日は全部口にしたものはグラムを測るから!」と念押しし万全の準備を整えた。
こういう調査票は鉛筆で書くのよ。ボールペンじゃだめなのよ。
私は元人事だ。総務も幅広くこなした、事務をこよなく愛する元人事である。事務作業は得意中の得意である。
調査員の方を驚かせるほど細かく精緻な調査票を作ってやろうと意気込んだ。
当日の朝、娘は最近シナモントーストが好きなので、食パンの耳を切り落とした状態でパンの重さを測るため秤にかける。乗せるバターも、シナモンも、お砂糖も、フライパンで焼く油までグラムを測った。
自分が食べる納豆もタレまで測り、サラダもレタスときゅうりとドレッシングの分量まで測った。後から調査員の方が困らないように使った食材は全てパッケージの写真まで撮影した。
朝食を食べない夫には、ドリップするコーヒーの量を測るように言った。
昼食はフルリモートの夫と毎日食べる。グラムが測りやすいようにサラダと和風パスタというメニューにし、朝食同様にすべての材料や調味料までグラムを測る。冷凍の食材を使った場合は(冷凍)と記した。生の野菜と冷凍野菜ではきっとグラムが違うから。昼は給食を食べる娘については学校の給食メニューを確認し、転記。帰宅した娘にはどの程度残したかも確認した。
夕飯はかぼちゃのサラダとお味噌汁、鮭のトマトソース煮込み。朝食と昼食で慣れた作業なので夕食はスムーズだった。お味噌汁は、いつも翌朝も食べられるように多めに作るので、夕飯で食べきらなかった残分もパーセンテージで記した。
間食で食べたクリスピークリームドーナツも、娘が飲んだコーラも。全て全て書き写した。
夫のポケットと自分のポケットに忍び込ませた万歩計もしっかり歩数を確認し転記した。私は毎日腕にFitbitもつけているので「誤差なし」とキムタクばりに確認も行った。
これが元事務系職種のプロであり、現プロ専業主婦(見習い)だ。
どや!!!
ここまでやり切る人はいるか!!!
満を持して、公民館へ
別日。完璧に書き写した書類を抱えて、いざ公民館へ向かう。
この日は調査票の提出と、身体測定がある。
公民館へ着くと、調査員の方が10名ほどいた。だが調査を受けている人は1人もいない。私が帰るまで結局誰も来なかった。そりゃそうだろうな、こんな面倒な調査ほぼほぼ断られたであろう。でも私はとても前向きに調査に向き合っている。この調査にこれほどまでに強い好奇心と貢献意欲の塊で臨む人はいるだろうか。自信満々に受付で調査書類を提出し、身体調査へと向かった。
静まり返った会場で「身長・体重・腹囲・血圧の測定に加え、問診があります。・・・あと、血液検査も・・・2本取りますがよろしいでしょうか?」
再び申し訳なさそうに念を押すように問われたが、私は清々しいほどの顔で
「もちろんです」と答えた。
会場にいた調査員全員から総立ちで感謝を伝えられた。
「こんなことくらい、いつでも協力しますよ」
「皆さまこそ、本当にお疲れ様です」
私は笑顔で答えた。
待ち時間も全くないためスムーズに調査が進行した後、続いて会場の奥に案内された。そこには、大御所感のある佇まいをした歯科医師がいた。
「ここではね、普段の歯科検診とは全く違うものを違う手順でやるんですよ。WHOの基準に則った形で非常に丁寧に診させていただきます。わざわざこの調査にご協力いただくんですからね。あとね・・・ちなみにね・・・WHOの基準を翻訳したのは僕なんですよ。フォッフォッ。」
見た目だけでなく本当に偉い先生だったようで確かに今までにないくらいめちゃくちゃ丁寧に歯と歯茎を診てくれた。
「貴重な機会を有難うございます。先生のような方に歯を診ていただけて光栄です。」そんな会話をしながら、トータル20分ほどで全ての検査が終了した。
ものすごく良いことをしたような気持ちの私は最後の椅子に案内された。
今日の御礼を深々と伝えられ「最後に提出した書類の最終確認をさせてください」と声を掛けられた。
私の完璧な書類を見てくれましたか。
びっくりしただろうな。
こんな完璧な書類見たことないだろうな。
だって私は期日内に書類を全然出さない人に何度もリマインドを繰り返し、丁寧な書き方見本を幾らつけても間違えまくりの書類を出されることが日常茶飯事だった元人事ですもの。
貴方達の気持ちが誰よりも分かるから。
書類というものは見本と向き合い真心こめて書けば完璧に書けるのよ。
向かい側に座る女性がとても丁寧に書類を見ながら1つひとつ項目を確認している。かつての私のようだ。
私は食い気味に
「夫、朝は食べないんです。コーヒーだけで。」
「お豆腐はこの写真の銘柄です」
補足も完璧にこなした。
そして、一呼吸おいたタイミングで調査員の方が仰った。
「あのぉ・・・・大変申し訳ないですが、お夕飯に召し上がられたお味噌汁はお味噌入れられましたよね・・・?」
「・・・はい?」
「お味噌とお水は何グラム入れられましたか?」
お味噌?
お味噌汁の欄にお味噌と水の量、書いてなかった?
調査票に目をやると、確かに味噌と水の量を書き忘れていたのだ。
この日、私の全てを費やして完璧に仕上げたつもりだった調査票。
味噌汁の項目に、まさかの味噌の分量を書き忘れていた。
味噌のパッケージの写真まで取って、普段は目分量で入れている味噌をわざわざ一般的な味噌汁のお味噌の分量のレシピをネットで調べたうえで秤にかけて「誤差ナシ」と確認までしたのに。
そして悲しいことに、どんなに記憶を遡っても40歳になったばかりの私の脳みそは測った味噌の分量までは覚えていなかったのだ。
味噌のバカ!!脳みそのバカ!!
動揺しながら「あああ本当にごめんなさい、覚えていないです・・・何グラムだろう・・・でも味噌は入れてます。」辛うじて伝えた。
「いえいえ、ここまで丁寧に書いてくださったので・・・一般的なグラム書いておきますね」
長い長い統計調査が終了した。
思ったこと
覚悟はしていたが、とにかく膨大な情報量を相当な気合を入れて記入しなければならない。よっぽど時間的にも精神的にも余裕のある人ではないと協力できないだろう。
統計はどのように取ってもサンプルに限界があるものではあるが、これは属性が偏るだろうなと改めて思った。一般の人ほど忙しくて回答できないよ。
でもこの調査に協力できるくらい私は今身体的に健康で、精神的に余裕があるんだなと確認することができた。
いつか頭の良い人達が整理しながら政策とか、研究とかに使ってくれて世の中のためになりますように。
それだけで私は満足です。
※御礼の品として災害時に使える携帯用水タンクと携帯トイレ、歯ブラシとフロスをいただきました。