組織のデザインから徹底的に共創する。マネーフォワードが提供するクライアントワークの実態
マネーフォワードといえば、家計簿アプリや法人向けの経理、人事労務サービスを提供している事業会社だと思っている方が多いと思います。
それはもちろんそうなのですが、実はクライアントワークの部署があることをご存知でしたか?
マネーフォワードにはエックスカンパニーという、金融機関や事業会社と新しい価値を共創する組織があります。
マネーフォワードがクライアントへ提供するデザインは、UIを整えることや機能を改善するだけではありません。
もっと根本から企業課題に対して向き合えるように、組織づくりからサポートしています。
実際にどのようなことを行っているのか、エックスカンパニーに所属する井村さんに詳しく話を聞きました。
顧客の課題をデザインで解決に導く、エックスカンパニー
── エックスカンパニーでは、具体的にどういった仕事をするのでしょうか?
金融機関様が抱えている課題を解決、コンサルティングするという形で案件に入ります。
デザインコンサルティンググループは2023年にスタートした新しいデザイン組織です。
元々エックスカンパニーではマネーフォワードが持っている「アカウントアグリゲーション」という技術を使い、銀行の預金管理のアプリを作るなどBtoBtoXの領域でご支援させていただく中でサービスデザインも提供していました。そして昨今デザインのニーズはより高まってきています。
弊社でもUIデザインやコミュニケーションデザインなどブランディング含め、より広いデザイン領域で「デザインを価値提供する」ことに本格的に力を入れていこう、といった流れで設立された組織です。
── 金融関係の企業には、デザインがどのように役立つのでしょうか?
たとえば自分たちが考えたソリューションを誰も使ってくれない場合、それはUIなどの見た目を改善すれば解決する、といった簡単な話ではありません。そもそもユーザーは自分のニーズに合致しているサービスを使おうとするため、なにか使う理由がないと使ってくれません。
それは金融機関様におけるサービスも同じで、別の金融機関様のアプリのほうが便利となれば、ユーザーは当然そちらの口座に乗り換えます。
DXなど時流に逆らっていては生き残れなくなってしまうので、私たちがノウハウや技術を提供し、顧客の本質的なニーズを把握し、その上でなにが必要になるのかをクライアント様と一緒に考えます。
これは一例ですが、コールセンターやお店に電話をかけてもなかなか繋がらないというのは、ユーザー体験をすごく下げてしまい、最悪そのサービスや会社、お店から顧客が離れてしまうリスクがあります。
ただ、「コールセンターや電話はそういうものだ」という固定観念があるため、現状は提供者の都合でユーザーにとって不便な状況になってしまっているケースが見られます。そういった場合にも、我々がデザインアプローチによりユーザー視点を持ちデザインすることで、知らず知らずのうちにユーザーが離脱していることを突き止め、改善案を提案できます。
このように我々が暮らしの中で日々何気に受けているサービスでも、ユーザーの体験を中心にデザイン設計していくと、改善できることがまだまだあります。
── たしかに、金融機関だからしょうがないと思って済ませていることは数多くありました。
スマホアプリなどもそうですが、ネットを使った新しいサービスはそういったデザインの力をうまく使っていることが多いですね。
ユーザーが不便だと感じないような作りにしようとしています。
そういったところに力をいれている会社が伸びているのが現状です。
なんらかの金融機関の口座を持っていたとしても、スマホでは使えなかったり、対面だと手数料を多く取られたりするのであれば、ネットサービスに移行するのが一般的なユーザー心理だと思います。
それに対し、適切なUIやUXが考えられていない古いサービスからは、今後の優良顧客となり得る若い層をはじめに、ユーザーが離れていく現象がすでに起こっています。
── ユーザーとしては便利なほうがいいですからね……!
そうですよね。
ただ、それらの危機意識から「とにかくDXしないと」という思いで相談されることもあるのですが、デジタルに慣れていない世代もいるので一気にすべてデジタル化するとサービスを使えなくなってしまう人も出てきてしまいます。
そのため、なにをIT化してなにをアナログで残すかを考えなくてはなりません。いまはまだ店舗も必要です。
こういったことも含め、我々はデジタル化を単に推し進めるだけではなく、クライアント様が抱える顧客やアプローチしたいユーザーにとって最適化されたプロダクトやサービスのユーザー体験設計を行っています。
── どういった課題をもった会社からの依頼があるのでしょうか?
主に銀行、保険会社、証券会社とお取引させていただいているのですが、弊社の営業からはっきりと「これを作ってください」と言われることもあれば、「漠然となにかをやらないといけないことはわかるが、なにをしたらいいかわからないので相談から」というすごく抽象的な依頼が来ることもあります。
それはそれでデザインは本質的な課題を見つけることを得意とするので、まずはヒアリング、そしてワークショップをしながら、なにが本質的な課題で誰に対してこれからなにをやらないといけないか、というのを整理していきます。
そこで見つかった課題に対して、「次のフェーズではアプリを作りましょうか」と具体的な提案に落とし込んでいくこともありますし、逆に「やらない」という選択肢になることもあります。
また中には開発だけの案件もあれば、データを抽出/分析する案件もありますので、デザイン以外の領域は他の専門部署が対応することも多くあります。
── エックスカンパニー内のデザイナーはどういった業務を行うのでしょうか?
エックスカンパニーのデザイン部は、自社開発プロダクトに関わるプロダクトデザイングループと、私が部長を務めるデザインコンサルティンググループは、ユーザーの体験設計からビジネス面へ価値提供を行うサービスデザインチームと、インターフェースの設計からプロジェクトマネイジメントなど物作りを行うプロダクトデザインチームの大きく2つに分かれます。
サービスデザインチームはクライアント様にヒアリングを行い、まず誰に対してなにが必要か考えるところから始めます。
そこから調査や要件を洗い出す作業を行い、それに基づいてワイヤーフレーム、プロトタイプの制作、そしてユーザビリティテストを行うのが基本の流れです。
プロダクトデザインチームにはUIデザイナーが所属していて、色やアイコンなど具体的な見た目を構成しユーザーにとって使いやすいインターフェースを作ることと、部分的にコミュニケーションデザインやデザイン周りのプロジェクトマネジメントを担当することもあります。
人材育成は組織デザインの一種
── サービスやデジタルプロダクトの開発以外には、どのようなサポートをするんですか?
クライアント様と話していると、企業によってさまざまな課題を抱えておられることがわかります。
特に金融機関様は業務上致し方ないと思うのですが、トラディショナルな体制で新しいことを取り入れにくい環境になりがちです。
そういったクライアント様にはまず最初に「デザイン人材育成プログラム」を提供させていただいています。
── 「デザイン人材育成プログラム」とはどのようなことをするのですか?
まず、人材育成プログラムの対象者はデザイナーではありません。
エンジニアやSE、企画部や商品開発部の方、採用担当者など、あらゆる職種に向けてデザイン思考の考え方や業務への活かし方をレクチャーさせていただいています。
デザインの考え方は、人を相手にしている職種ならどんなものにも適応できます。
デザインは課題解決を行いますが、その課題の対象は「物」ではなく必ず「人」です。
対象が人であれば職種、業種問わずすべての課題に適応できるのがデザインのいいところであり、便利なところだと思います。
── これをデザイナーが教えるということは、これもデザインのひとつになるのでしょうか。
そうですね。
組織を支えているのは人なので、人材育成は組織デザインの一種という捉え方をしています。
こういったことは従業員だけでなく、ステークホルダーにも伝えていくことによって組織の風土が変わり、その企業様が提供するサービスもよりグロースしやすくなると考えています。
プログラム自体は会社ごとにカスタムしていて、我々デザイナーがプロダクトやサービス開発を共創しながら並走してデザインをレクチャーすることもあります。
デザイン人材育成をしていると「デザインってこんなこともできるんですね!」と驚かれることがすごく多いですね。
「速い馬」ではなく「自動車」を。イノベーションは組織文化の醸成から生まれる
── マネーフォワードでは組織文化の醸成もデザインコンサルティングのひとつに組み込まれていますが、具体的にはどのようなことをやるのでしょうか?
カルチャーやビジョン、ミッションなど組織文化の定着はマネーフォワードの強みのひとつです。会社の指針が社員に浸透していますし、それに共感できる人が集まっています。ですので、我々のそういった強みを他の会社様にも活用していただけるのではと考え、コンサルティングでもこれから力を入れていこうとしているところです。
特に金融機関様はお金を預かるという性質上、絶対にミスや間違いは許されない仕事です。そうでなくては誰もお金を預けようとしないので正しいことなのですが、新しいことを始めるには失敗はつきものとなります。リスクを嫌う文化があるとどうしても新しいものを取り入れにくくなる側面があり、組織に歴史があるほどチャレンジを避ける傾向は出てくるかと思います。ただ、社会がグローバル化し、技術の進化はさらに加速しているので新しいものを取り入れていかないとどのような業種でも衰退してしまいます。その為には組織も変化していく必要があります。
文化や行動指針、自分たちが大切にしていることなどの定義から始めて、経営者も社員の方々も一緒に方向を定め一丸となって向かっていくことが、組織デザインの肝だと感じています。
── なるほど、そのように組織文化としてベースになる方向性を持っていると、チームとして団結できそうですね。
デザイン人材育成のプログラムの中でも「自分たちの会社を見直そう」というカリキュラムを組むことがあります。
実は社員が自社のミッションやビジョンを覚えていたり、意識できていたりする会社はとても少ないです。しかしミッションやビジョンがないと、指針が数字の目標やお金儲けのことばかりになってしまいがちで、数字だけを追っていくと、人の性質や行動もすべて数字でしか見なくなり、昨今よくニュースで取り上げられる企業の不正問題などのような結果が起こりえます。よく鷹の目と例えられますが、数字だけでは見えないことがたくさんあります。
── 数字では見えないことというと、どういったことでしょうか。
これは弊社代表の辻もよく取り上げる話なのですが、アメリカの車メーカーのフォード社のエピソードで、まだ自動車がなく馬で移動していた時代の話です。当時の一般市民に「あなたがいま一番欲しい乗り物はなんですか」とアンケートを取ったとしたら、ほとんどの人が「より速い馬が欲しい」と答えると思います。ここでもし数字だけを追っていたとしたら、顧客のニーズをそのまま受け取ってどうやって速い馬を作ろうか、と考えるでしょう。
ただ、フォードはそこで「速い馬」の開発ではなく、「自動車」というイノベーションでニーズを満たしました。本当に必要だったのは、馬の改良ではなく「速く移動できる手段」だったのです。
こういった逸話を知っている人はいるかと思いますが、実際にその立場になったら皆さんデータをみて「速い馬」の提供を考える人がほとんどなのではないでしょうか。自分たちは発明していると思っていても、「速い馬」はユーザーから見たら現在の延長線でしかありません。「速い馬」ではなく「自動車」を生み出す為には企業様の中からイノベーションが生まれるような構造に変えていく必要性がありますし、世界的に見て今の日本全体が弱っている理由のひとつだと思っているので、使命感を持って我々は業務に取り組んでいます。
── そこでデザイン思考が活かされるわけですね。
サービスデザインはそこに強みがあり、「馬ではなく、自動車を作らなければ」ということを発見できる技術です。いままでの形式にとらわれず、ユーザーのニーズを前提にどうやってサービスやプロダクトを当てていくかということを根本からデザインしていきます。
これを実現するには、ある程度の予算が必要です。企業様が予算を出していただけるからこそ、私たちはその技術を提供することができます。だからこそ、まずデザインへの予算の投資が重要であると知っていただかないと、実現できないのです。そのためには組織の価値観の変革も必要ですし、企業活動の中でのデザインの重要性を理解していただく必要があります。そこで始めたのがデザイン人材育成というプログラムです。
── イノベーションを生むための土壌づくりなんですね。
そうですね、そういったことをクライアントに提供し、どんどん新しい目線で体験を設計できればと思っています。
そしてその先には、さまざまな金融サービスの登場で世界的な競争に立っている日本の金融機関を元気にしていきたい、という思いがあります。そのさらに先には、日本の再設計と言いますか、世界に負けない日本にする、というのが最終のミッションです。
── かなり大きな目標があるんですね……!
その目標に対して、まず自分たちが目先でできることはデザイン人材育成などの組織のデザインだと思っています。そして、デザインを学んだ人たちが実際に仕事の中でどう活用するか、というところのサポートです。とにかく今は、一歩一歩進めていっています。
さいごに
マネーフォワードの共創事業は、プロダクト開発にとどまらず人材や組織のデザインにまでコミットしています。根本的な課題解決にじっくり取り組んでいきたい方にとってはとても刺激的な環境ではないでしょうか。金融機関には、まだまだ取り組まなければならない課題がたくさんあり、私たちもこれからどんどん活動の場が増えることを期待しています。
マネーフォワードではサービスデザイナー、プロダクトデザイナーを積極採用中です!こちらのポジションをより詳しく知りたい方は、ぜひカジュアル面談などでお話ししましょう。
また金融に限らず何かの課題感を抱えている企業様がおられれば、一緒にその課題を解決する為のサポートをさせていただきますので、まずはお問い合わせください。