統合失調症患者の一人暮らしを支えて:「親亡き後」の住まいをどうするか

昨年、統合失調症を患う一人娘を残して、私のいとこが他界してしまった。シングルマザーだったいとこは、自分が死んだ後のことを案じながら、娘を私に託して逝ったのである。

精神障害者のお子さんを持つ親御さんは、例外なく、自分が死んだ後の子供の生活について心配しているに違いないと思う。私は、精神病に関する知識は皆無で、福祉にも関係したことのない人間だったが、試行錯誤しながら統合失調症の娘の世話をしている。私のつたない経験が、同じように苦しむ親御さんたちの役に立つかもしれない、そんな思いで書くことにする。初回は、「親亡き後」、統合失調症患者が一人暮らしをする住まいをどうするかについてである。

娘(40代女性)の状況
10年ほど前に統合失調症を発症し入院。退院後は通院と投薬を継続。私が観察する限り、本人の精神状態は安定しているように見える。母親の死を、私が告げた時も冷静だった。ただし、生きる意欲は徐々に減退していると感じる。
障害者手帳2級を所持。
障害年金・自立支援医療制度による給付金を受給(8万円弱/月)。
障害支援区分2と認定される。ただしヘルパーさんが自宅に来るのを嫌がるので、まだ利用していない。
本人の財産管理能力に不安があるため、法定後見制度(補助)を利用している。家庭裁判所の決定により弁護士の方にお願いしている。

いとこは亡くなる前に、娘が通院する病院から至近距離(徒歩数分)に、住居を娘名義で購入してくれた。これには、私は本当に感謝している。いとこが娘のために生前準備してくれたことの中で、「大正解」だったのがこの住まいである。いとこの人生後半の最大の課題は「自分の死後、娘が困らないようにするために資産を残すこと」であった。そのために、休日返上で働き、徹底した節約を心がけていた。そして娘名義の住居を残してくれたのである。

現在の娘の住まいは病院から徒歩5分ほど。しかもスーパーやコンビニも徒歩圏内にある。彼女が自分一人で行くことができる場所はごく限られている。徒歩圏内の病院やスーパー、コンビニ、あとはタクシーを利用して行く市役所のみである。タクシーは、自力で電話して予約できるようになった。不便なのは、郵便局が近くにないことである。郵送の必要があるときは、私が宛名を記入して切手を貼った封筒を渡して、スーパーにあるポストに投函してもらっている。

いとこが亡くなった後も、何の支障もなく、この娘は歩いて病院に通院している。遠方(片道2時間以上)に住む私にとっては、これだけで安心できる。そして何かと災害の多い昨今、私は「何かあったら病院に駆け込みなさい」と、この娘に言い含めている。生真面目な彼女は「自分の避難場所は〇〇小学校だよ」と言う。他人と接することが何より苦手なこの娘が、人でごった返す避難場所でサバイバルできるとは到底思えない。「何かあったら病院へ」を、繰り返しこの娘に伝えるようにしている。彼女が体調を崩した時も、とりあえずこの病院に行けば、ソーシャルワーカーの方もいるし、何か対応してくれるだろうと思っている。

この娘は人混みに行くことが出来ず、公共交通機関を利用することも無理である。そこで、いとこは、病院へ徒歩で行ける住居を探し始めた。病院の近くに住めば、自分が死んだ後も、病院との縁が切れずに娘にとって大きな助けになると考えたのである。

この住居のおかげで、娘は一人で通院を続け、何とか一人で暮らしている。これだけで遠方に住む私の精神的・物理的負担がどれほど減ったことか。いとこの英断には本当に感謝している。

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