ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #10 本当はすごく恨んでる
この曲についてはいくつか書くつもりですが、今回は詩について注目。
実は前曲、Im Rhein..と、この詩との間には作曲されていない六つの詩がある。そのひとつ目、つまり前曲のすぐ後の詩で詩人は彼女はあんたなんか愛していない、それどころか大嫌いだと言うのだ。
しかし詩人はそんなこと言う彼女の口が可愛い💖と、おめでたいこと言ってます。本気にしていない。
ところが六つ目、つまりこのIch grolle nichtのすぐ前の詩では彼女は知らない男の元に嫁ぐのだと。
僕の心よ、恨むんじゃない
ここで、恨まない、grolle nichtという言葉が初めて出てきて、この7Ich grolle nicht に繋がっていくのです。
このgrollen(恨む)という言葉。grという二重子音が恨んでる感じが出てますね。グルルル〜ッと、犬が唸ってるみたいな、オノマトペ的な。根深い感じがします。
英訳でI don’t complain となっているものを見ました。complainって、ブツブツ文句を言ってる感じで、私の中ではずいぶん印象が違うんですが。軽い。
Das weiss ich längst (とっくに知っていたさ)
ハイネのオリジナルは第二連の冒頭に書いています。
ところがシューマンのは第一連の最後になるように作曲しています。
フィッシャー ディースカウ編集の詩集では、シューマンの作曲に従ってDas weiß ich längstは一連の最後に書かれています。(私が冒頭に書いたのもそれに倣いました)
でもそうすると、詩のリズムが不自然な感じになってしまうんですが...
仕方ないか。
いずれにしても彼女の心が離れていたことを「とっくに知ってた」なんて、大した強がりだこと。
ちなみにこの詩の次の詩は(作曲されていない)これを引き継ぐように
と始まります。つまりまだまだ、ものすごく恨んでますよね。やだやだ(苦笑)