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都市の新関係性論 クリエイティブネイバーフッドという代替案

自分の世界に没頭しがちで、扱いにくい
 トロント大学教授のリチャード・フロリダは著書「クリエイティブ都市論」(2009 ダイヤモンド社)内で、都市と居住者の性格との関係性について次のように述べている。以下、引用する。

 全米の大都市圏は、外交的地域、保守志向地域、経験志向地域の3つに分類できる。
 まず、シカゴに代表される「外交的地域」は、社交的で人づきあいが得意、チーム行動や新しいことに挑戦するのを好む人に向いている。健康的でパーティ好きな都市住民のイメージ。南部や南西部に多い「保守志向地域」は、勤勉で人がよく、頼り甲斐があり、隣人との強い絆や地域社会への参加を望む人、現状維持を好み、規律を重んじる人に向いている。コミュニティを大事にしたい模範的市民のイメージ。そして、ニューヨークに代表される「経験志向地域」は、孤独を厭わない人、権威に対して懐疑的な人、知的、創造的、感情的インパクトのある経験を求めている人に向いている。さらにこの地域の興味深いところは、創造的であると同時に自分の世界に没頭しがち、ともすると扱いにくい、不安や不安定性を抱えている人に向いている一方で、新たな出会いを求めている人や友人作りが得意な人、保守的な価値観を持つ人、標準的な仕事を求める人には不向き。例として挙げられるのはウディ・アレン。

 以上の調査は、パターン化して曲解することの危険性と背中合わせではあるものの、それでもユニークであることに変わりない。さて、ここで注目したいのは、「経験志向地域」が持つ性格特性だ。同氏によると、そこは自らの欲望に正直で、自分の世界に没頭することを最優先する姿勢、つまり消費行為よりも創造行為を、受動的態度よりも自主的に行動を起こす挑戦的態度を志向する者にとっては居心地がいい場所である反面、積極的に出会いを求めたり、外交的・社交的な人にとっては不向きである、との指摘だ。
 これは、先述した(スタートアップ拠点都市Beyond!)クリエイティブネイバーフッドのエートスと重なる。つまり、安易な「交流」よりは、何かを創造するために自分の世界に没頭したい自立した者同士が、必要に応じて柔軟に交わり相互作用をもたらす、連携進化というムードをもつ街である。

絆づくりよりも自らの欲望を優先する者に開かれた場所
 ここで指摘したいのは、「交流」の質の問題だ。
 先述(スタートアップ拠点都市Beyond!)のクリック研究所を設計したHOK社の担当技術責任者デビット・キングは、「コラボレーションとは、自分の専門外の人間と話すこと」だと言う。遺伝学者と脳科学者、情報学者と免疫学者が交流することで、新たな光明がもたらされるのだと。また、予防医学研究者の石川善樹氏は、三菱地所のオウンドメディア内インタビュー(「TOKYO INNOVATION RESEARCH」)で次のようにコメントしている。
「東京のある有名な大規模複合施設では、コミュニティマネージャーのような存在がいて、テナント同士を交流させるために、さまざまな取り組みをしています。ただ、交流は行われているのですが、そこから何かが生まれているようには見えません。単に交流したことで終わっているような気がします。(中略)単なる交流は、知の深化はあっても探索につながっていないのだと思います。もともと興味のあることについて深掘り(深化)するだけで終わってしまうのです」

 このように同氏は、知的生産性を高めるためには、知を深めることに加えて知の範囲を広げることの重要性を指摘する。互いに分かり合える、あるいは興味関心を等しくする「お約束のコミュニティ」を超えて、異分野に道場破りのごとく侵入するラジカルなコラボレーションの可能性だ。極論すれば、コミュニティよりコ・ラーニング、交流よりも出会い頭の衝突の重要性である。それは、あくまで知的生産を前提とした衝突であり、何かを生み出す、あるいは、自らの挑戦的創造行為にとって価値ある前進をするための共振への好奇心だ。単なるネットワーキング系の交流とは一線を画す。
 後者の交流にももちろん意味はある(優劣の問題ではない)。ネットワーキングを通じて、思わぬ第三者に到達できたり、相手の姿勢に影響されてこちらのモチベーションが強化されたり、未知の情報がもたらされることも少なくない。場合によっては金曜のディナーの相手が見つかるかもしれない。しかしそれは、何かを生み出すことを前提とした交流とは質が異なる。
 改めて言うが「優劣」の問題ではない。明確にしたいのは、交流の質の違いを認識すること。社会的包摂や相互扶助を醸成させるための社会関係資本を高める交流と、連携進化をもたらす創造資本を高める交流とは、明確に区別・意識する必要がある。地域コミュニティ論やいわゆる「まちづくり」の現場で言われる「つながり」や「関係人口」と、クリエイティブネイバーフッドで歓迎される「コ・ラーニング」や「共創人口」とは明らかに交流の質が異なるのだ。クリエイティブネイバーフッドとは、友人づくりよりも、自分の欲望を優先し一人没頭する者に開かれた、アナーキーでラジカル、わがままなネイバーフッドなのである。

蛇足 -ボーリングは一人で楽しめ(※)
 J.ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」の中に以下の一節がある。アーバンネイバーフッドで菓子屋を営む店主ジャッフェの台詞だ。
「同じ興味を持つ二人の客が同じ時に居合わせたなら、話題を持ち出して、二人が望めば話が続けられるようにすることはあります。いや、でも紹介はしませんね」。
 また、システム工学専門の佐久間康富 和歌山大准教授は共著「無形学」(2017 水曜社)の中で次のように述べて、われわれが陥りがちな、関心のある者同士だけの単なる繋がりの非発展性に警鐘を鳴らす。
「他者との交流による自己変革の覚悟と仕組みが準備されていないと、現役世代(編集部注、「過疎地を訪れる外部からの若者」)を受け入れても『新たな価値』は生まれることはない。(中略)他者を受け入れ、隣り合う他者に積極的に関わり、自己を解体するような揺らぎへの可能性を開きつつ、他者を受け入れることが重要である」。
 これこそ都市ならではの関係性のリテラシーであり、創造する者のマインドセットだと痛感する。隣人関係も相互扶助も大切だ。でもゴールはそこではない。そろそろ、イノセントに繋がる行為は辞めにしないか。

※ボーリングは一人で楽しめ
 政治学者ロバート・D・パットナム(1940〜)の2000年の著書「孤独なボウリ     ング -米国コミュニティの崩壊と再生」より。米国の社会関係資本(ソーシャル
 キャピタル)の衰退に警鐘を鳴らした。

text:吹田良平
photo (top): OGATA


MEZZANINE Vol.4 都市の新関係論  クリエイティブネイバーフッドという代替案(2020.5.29発売)

Chapter3では、都市政策の代替案として、「クリエイティブネイバーフッド」を掲げる。「関係性」、「テクノロジー」の二つの側面から検討を加えていき、街のマインドセットやコモンウェルス(共通善)を明らかにする。

Interview
中島隆博(東京大学 東洋文化研究所 教授)
広井良典(京都大学 こころの未来研究センター 教授)
ドミニク・チェン(早稲田大学 文学学術院 准教授)
日本電信電話株式会社
嶂南達貴(scheme verge株式会社 CEO)
吉村有司(東京大学 先端科学技術研究センター 特任准教授

MEZZANINE編集長プレゼンツ
ブックフェア「本屋で都市を編む」開催中

@紀伊國屋書店 新宿本店 2020.9.17〜10.22


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