尾道での日々④〜23時にはじまる古本屋〜
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2017年7月の記録。
夜11時から店を開ける、という古本屋があった。
尾道ラーメンを食べたあと、店を出て皆で商店街を歩く。
店内にいた別のお客さんたちはいつの間にかいなくなっていた。帰って寝るらしい。気が付けばそんな時間になっていた。
朝から移動の連続で疲れがたまっていた。古本屋のために眠気に負けまいと、夜の商店街を歩いた。
3時間前のにぎやかな商店街はどこかに消えていた。その代わり、寒色の蛍光灯が味気なくシャッター街を照らしていた。時折、新しいバーなどに明かりが灯っているのを見かけたが、内輪の会合のようなものであろう、旅行者の私に扉は開かれていないと感じる。
ゲストハウスのおじさんが、本屋が開く11時まで待とう、と知り合いのバーに連れて行ってくれた。東ドイツのヴィンテージをテーマにしたお店だった。席はカウンターに6席ほど。こじんまりとした店内、濃い木目調の床と壁、流れているBGMはドイツの60年代のバンドらしい。
懐かしいような雰囲気の店内に熱いジャスミンティーも相まって、私は半分眠りながら知らない人のおしゃべりの音をただぼーっと聞いていた。
目の前にあった『Germany for artists』というドイツ語文法の初歩解説の本をペラペラとめくってみる。しかしそれはどうでもよかった。
隣席に座る関東から来たという学生は、ゲストハウスのおじさんとマッシュヘアのマスターに上手い相槌を打っていた。頭が良さそうだなあとぼんやりと眺めていた。
11時になったと同時に本屋を目指してバーを出る。残ったのは先ほど案内してくれた尾道の学生と、関東から来た学生だ。彼らと私3人でさらに夜が深まった街を歩く。不思議だ。たったさっき会った人たちなのに、こんなふうに冒険の仲間になるなんて、あまりにも青春小説の主人公だと思った。(そういうタイプではないので自分がやっていることに恥ずかしくなった)
その本屋は路地の奥まったところにあった。矢印と店名がブリキ板に描かれていて、私たちを導いてくれた。遊び心満載の案内板に眠気が醒める。
店は昭和初期の診療所を改装したものであり、さほど年齢も変わらなさそうな大学生風の男性が店番をしていた。
古本屋、それは夜の尾道であった。外には夜の静けさがどっぷり満ちていた。明かりが灯されているたったひとつのお店の中に、これでもかというほと本が身を寄せ合って並んでいた。
私は興味がありそうな本を手に取りながら考えていた。
隣の二人は何者なんだろう。どんな人で、今何を考えているんだろう。
古本屋に不謹慎だな、と思いながらも、一緒に夜道を歩くにはあまりにも目の前に現れた冒険者たちの方が本よりも気になってしまった。
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