【MeWSS論文コラム】Outlineの作成
「観察研究論文の進め方」で、Outlineの骨格を作りました。
ここであらためて、Outlineとは何かを考えつつ、その完成まで持っていきたいと思います。
Outlineとは、箇条書きで書かれた論文の原稿です。その目的は論文の「内容」を固め、かつそれを共著者に理解してもらうことにあります。一方論文ドラフトは、投稿できる状態に近い論文の草稿で、雑誌のスタイルに合わせて作ります。Outlineと論文ドラフトとは、文章の形が箇条書きであることや、スタイルや章の順番などが違うくらいで、含まれる内容やそのボリュームはほぼ同じです。
なぜ最初から論文ドラフトを書いてそれを共著者に見せないのか。
第一に、項目名を多用して箇条書きにした方が、構成や内容が理解しやすいからです。
第二に、文章の形に作り上げると文章そのものが気になってしまって、内容へのコメントより文章への指摘が多くなりがちだからです。その結果内容が固まるまでにとても時間がかかってしまいます。最悪の場合、英語が気に入らないという理由で、共著者にきちんと読んでもらえないということもあります。日本人が書く英語の論文ではよくあることなのですが、英語Nativeの国でも基本的にはOutlineから論文を作成します。
書いている著者ご自身にとっても、内容を固める前に表現や文章が気になり、似たような文章を探したり英語を調べたりするのに時間がかかってなかなか先に進まなくなってしまう、という問題も発生します。考察に従ってテンポ良く内容を作っていくために、最初のOutline(他の人には見せない、自分用)は日本語で書き始めてもいいです。「観察研究論文の進め方 その1」で、ガイドラインのチェックリストを埋めましたが、日英混合、もしくは日本語だけかもしれない書き込みを、そのままOutline原稿にコピーしましょう。箇条書き文章なので、最後に自動翻訳システムで英語化してもそれほどおかしな文章にはならないと思います。
英語論文の場合、Outlineの最終形態は英文です。英語論文を書くのに自動翻訳システムはとても便利で有用ですが、日本語できっちりと文章を書いてしまうと、いい英語に翻訳されにくいですよね?内容を固めるのに日本語を多用するのは構いませんが、すぐに英訳することを考えて、なるべく日本語文章を作り上げすぎないうちに翻訳した方がいいと思います。これをベースにドラフトを書くと、剽窃も回避しやすいです。
ガイドラインの項目名や番号も付けておいたままにします。こうすることで、この論文がガイドライン通りの構成になっていること、ガイドラインで求められている項目は全て含んでいることが、一見して共著者に分かりやすくなります。共著者の中には論文ガイドラインにあまり慣れていない先生もいらっしゃることがあります。こういった先生方に対してガイドラインの説明をしつつ、MethodsやResultsに含む事柄をご納得いただくのにも便利です。
ちなみに論文ドラフトでは、ガイドラインからコピーしてきた項目名の多くは削除、統合、もしくは変更されます。投稿雑誌の規程に沿うことで、項目の順序が変わる可能性もあります。しかし、記載位置を書いたチェックリストを投稿時に一緒に提出するよう求める雑誌もありますし、ドラフトの修正作業後半になって、うっかり重要な内容を削除してしまう危険もありますので、チェックリストのメモを残しておくことがお勧めです。
Discussionに項目名を入れることも有効です。「結果の概要」、「他研究との比較」、などと項目名を入れてそこに内容を書くと、文章が出来上がっていなくても何を言おうとしているか分かりやすくなります。論文ドラフトではこの項目名は削除します。
図表はOutlineの段階で完成させた方がいいですが、一部作成途中としてもいい場合もあります(例えば、学会発表で作成した図を書き直して使用する予定ですが、Outlineではとりあえずスライドの画像を置いておきます、とか)。内容を固めるために図表は大変重要ですので、体裁は完全に整っていなくても全部ご用意ください。
参考文献は、論文本文に番号を付けて、巻末にまとめてリストを並べるのが多くの雑誌のスタイルですが、Outlineの段階では、読む時にいちいち巻末に移動するのが面倒な場合があります。私は、文章中の番号のところにコメントボックスを付けて、そこに参考文献情報を入れることが多いです。
なおアブストラクトは、Outlineの段階では、私は作成していません。内容を固める前にアブストラクトも書いてしまうと、内容が変わった時にまた作り直さなければなりません。まずOutlineで内容と構成を固め、共著者からも同意を得てから、1st Draft作成時に用意するのが効率的です。共著者に対しては、アブストラクトは1st Draft作成時に書きます、とコメントを入れるか説明しておくと、指摘されずに済みます。
最後に、Outlineファイルの最初にタイトルページを作りましょう。論文タイトル、著者、その所属、および投稿雑誌(ターゲットジャーナル)情報をここに書きます。タイトルもOutlineの段階で決まった方がいいですし、共著者が自分の名前と所属を確認できる機会の数は多い方がいいです。さらに、タイトルページがあることでより論文らしく見え、確認する共著者の本気度にも影響します。
まとめます。
(1)Outlineは、論文を組み立て、内容を固めるために作成する。論文ドラフトの前に、Outlineで共著者から内容についての同意を得ておく。
(2)共著者に内容を理解してもらうために、ガイドラインの項目や番号は表記したままにして、参考文献も分かりやすい記載(ページを行ったり来たりしないで済むようなもの)にする。
(3)タイトルページをつける。
効率よく論文作成していくためには、内容に対する共著者からのご意見を、Outlineでなるべく多くもらっておいて、それを論文ドラフトの初稿(1st Draft)に反映させることがとても大切です。そのためにはできる限り丁寧にOutlineを作り込む必要があります。私は、論文作成の中でOutlineが一番重要だと考えています。Outlineで内容が決まり共著者の同意を得ておけば、その次からのドラフト作成はかなりスムーズに進むはずです。