お前はどうなんだ?
「この本の作者はなんでこんなに俺の事を知っているんだろうね」
「何がっていや、だって俺の事ばっか書いてるし」
「俺しか知らないことも書かれてるから俺の話なんだってこれは」
初めて彼に会った時、こんなに太陽が似合わない人もいるんだなと思った。夏真っ盛りなのに青白い肌をした彼は、太陽の下に出たのが今日で初めてといったふうだった。そしてどこまでも常識知らずで、悪く言えば途方もなく自己中心的だった。 口から出てくる言葉一つ一つに飾りもオブラートもなく、やがて人を傷つけるんだろうと思った。
「お前は人のことを本当に大切に思ったことがないんだろうね」
そしてやけに勘が良かった。
彼は人との別れを心の底から悲しむ人だった。離れていても近況報告ができてしまうこの時代に彼はSNSを一切使わなかった。彼の中で別れや旅立ちの重さは、電話がなかった時代のそれから全く変化していなかった。それなのに人とはいつか別れてしまうという暗黙の了解に対して一粒の理解もなかった。
「人生に意味はあるし、それこそがお前の不幸の連鎖の原因だよ」
彼は僕が人生で出会った人の中で名前に「冬」がつく初めての人だった。夏に生まれて、秋が好きで、春に死んだ。