滅魚

文章の練習

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自己紹介 1

大学を卒業して社会人になりたての頃、自分はある女性に大変気に入られておりました。この女性は、いわゆる美人でもなく、とり立てて可愛いわけでもないのですが、いかにも明るい、いい顔立ちをしていました。自分は彼女の気に入るように、精一杯の誠意を尽くしたつもりですが、彼女から愛されていると思うたびに、自分は彼女を欺いているような、後ろめたさを感じました。彼女は、自分はあなたに気があるのだ、とたびたび言いました。しかし自分は、それに答える言葉を持っていませんでした。なぜならば自分は、彼女

    • 雲真っ赤出血

      ・就活対策何もしてないのになんか内定出てて怖い。学歴と顔しか見てないだろ。 ・今日道端で見かけた人達が手に持っていたもの: キモエコバッグ、ちいこ犬、赤ん坊、杖、スプライト、ベッド、掃除機。 ・過疎ってるゲームサーバーで君と2人きりだった。それで仲良くなれて、毎日そこで会うのが楽しみだった。ある日君が知らないアバターとチャHしてるのを目撃するまで。 ・学園祭に行ってきましたよ。ううん、彼女と。ううん、君の知らない子。 ・サンタクロースの存在の真偽について小学生が公園で

      • 溶ける

        上京する前、高校生の頃まで自分が使っていた実家の部屋を掃除していたら、ずいぶんと埃を被ったバラの形をした赤いアロマキャンドルが出てきた。最初は誰のものかと思ったが、そばに置いてあった手紙を読んで、当時の彼女にもらったものだと思い出した。当時はライターを持っていなかったので火を灯すことができず、どんな香りかも知らないまま押し入れに保管してしまったのだ。上京した後にそれらが親に見つかるのは恥ずかしかったので、東京に持っていく荷物の段ボールの隅に、こっそりとタオルに包んでキャンドル

        • 同じ空の下でも結局離れ離れだし

          「どれだけ長電話したって、心は一つになんてならないな」 汚い字でびっしり埋められた日記帳はその一言を最後に途絶えていた。 何気なく続いていた習慣が、こんなに突然終わることってあるんだ。日記を書いたって誰に見せる訳でもなければ自分で見返す訳でもないのに、無駄に紙を消耗してしまうのが貧乏性には耐え難かったのだろうか。濡れた指で石に書くような日記だったらもっと続いていたのかもしれない。それなら、いくら日記を書いても書いた先からどんどん消えていってしまって、誰にも言えない秘密だって跡

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        自己紹介 1

        マガジン

        • ほんとうのこと
          1本

        メンバー特典記事

          8/26 手帳類図書室

          ・東京へ行きました。2週間のうちに、2回も…… ・東京の電車はほんとうに難しい。何が難しいって、車内に動画広告とかがあって、それに気を取られて動画見るのに集中してしまうとつい乗り過ごしてしまうから ・電車が駅に到着する前、「ファーーーー」って音を鳴らしながら強めにブレーキかけるの、何?毎回人轢いたのかなって心配になるけど、実際には1回も事故とか起きてない。じゃあなんで鳴らしたの? ・駅での待ち合わせで先に到着して待ってくれてる女の子の腕にデコピンして合流してる男がいた。

          8/26 手帳類図書室

        記事

          妖人

          大学に入ったばかりの18歳という時期は、世界がまことにおもしろく見えたものである。 大学を歩くと、一方には、将来に備えて勉学に励む学生がいたかと思うと、もう一方には、新歓で知り合った女の子達の家を転々とするエロティシズムの実践家がいた。学生運動家、マルチ会員、カルト信者のような男が悠々と大学に出入りしていたかと思うと、授業には出ずに部活にだけ参加する真面目で不真面目な学生も、学内をうろつきまわっていた。キャンパスライフという人生における特大イベントを目の前にして、思春期の男

          8/26 手帳類図書室

          ・東京へ行きました。2週間のうちに、2回も…… ・東京の電車はほんとうに難しい。何が難しいって、車内に動画広告とかがあって、それに気を取られて動画見るのに集中してしまうとつい乗り過ごしてしまうから ・電車が駅に到着する前、「ファーーーー」って音を鳴らしながら強めにブレーキかけるの、何?毎回人轢いたのかなって心配になるけど、実際には1回も事故とか起きてない。じゃあなんで鳴らしたの? ・駅での待ち合わせで先に到着して待ってくれてる女の子の腕にデコピンして合流してる男がいた。

          8/26 手帳類図書室

          タビニウム

          財布の中に覚えのない恋みくじが入っていて、開くと大吉だった。 一体何年前のものだろう。 僕はまた、後ろ向きに進むボートを漕ぐ。 かつて並んで進んでいた友達の姿はとっくに見失った。 タビニウムという元素がある。正確には、存在していると僕が思い込んでいた。それは何の役に立つわけでもない元素なのだが、タビニウムを思い浮かべるだけで、なぜか元気が湧いて、胸に渦巻く不安な気持ちがどこかへ行ってしまうような、そんな元素だった。今となってはもはや、どんな形をしていたかさえも思い出せない

          タビニウム

          6月18日

          同じような日々が延々と続く中、自分の生活は周囲の時間とはまるで別の流れを辿っている気がする。気がつけばすでに6月に突入しており、一瞬のうちにその半ばを過ぎてしまった。 多くの同級生たちは就職して、新たな生活を始めた。以前はSNSで繋がってさえいれば同級生の近況もある程度把握できるつもりでいたが、もはやそうではないらしい。各々の生活が忙しくなってSNSに共有する余裕もないんだろう。 春風に舞って美しく、儚げに宙を漂っていた綿毛たちが、今ではもう地に根を張り始めている。儚さは

          6月18日

          えつこ、500字

          やくしまるえつこの「わたしは人類」 今まで背景とか知らずに聴いてたけど、これ微生物の塩基配列から作った音楽で、さらにその音楽を変換して元の微生物の染色体に組み込んだらしい。 凄いというか、この人一体何やってんの??? みたいな気持ちになる。 やくしまるえつこが好きな曲のリストが公開されてたから色々聴いてみたけど、それらの多くがジャズで驚いた。勝手に電子音楽とかばっか聴いてるイメージあったから。 しかもそのリストに入ってる曲のほとんどはYouTubeで再生数1万以下のもの

          えつこ、500字

          サブカル失格

          またもう一つ、これに似た遊戯を当時、自分は発明していました。それは、ポップカルチャーとサブカルチャーの当てっこでした。躁鬱はサブカルだけど、腰痛はポップ。晴れはポップで雨はサブカル。しかし、雷はポップ。 「君には、タバコというものが、まるで興味ないらしいね」 「そりゃそうさ、お前のように、サブカルオタクでは無いんだから。おれは酒は飲んでも、オーバードーズを神聖視したり、不健康を目指したりなんかはしねえよ」  神聖視しているのではない、目指しているのではない、と心の何処かで幽

          サブカル失格

          さいならさいなら

          なんか自分なりに生活を送っているうちに文章を書かずに2ヶ月くらい過ぎてしまって、上手な文章の書き方どころか何を書けばいいかさえ分からなくなってしまった。 自分には生活というものの形がてんで分からず、最近は生活の輪郭をなぞろうと自傷のようにピアスをあけたりODしたり海外に住んだりタトゥーを入れたり筋トレしたり白湯を飲んだり鳩に餌をやったり猫の眼球を舐めたりしていたのですが、先月はホストクラブで働いていました。 スカウトされてなんとなくホストになって、テキトーに1ヶ月働いてたん

          さいならさいなら

          もう会えない

          視界がぼやけてまぶたが涙を押し出そうとした瞬間、耳障りなクラクションの音が頭に響いた。涙を引っ込めて目を開けると、車道の真ん中に私が立っていた。眉をひそめて訝しげな顔つきで車から降りてくる運転手と目が合って、慌てて歩道へ駆けた。早朝、放射状に金色を帯びた紺色の空には鳥の群れが高く舞い飛び、遠くで犬の鳴き声が反響している。冷たい空気を胸いっぱいに取り込んだ私は徐々に落ち着きを取り戻して記憶を辿る、またいつもの夢を見ていたのだ。まただ、また夢遊病が出た。 完全に一目惚れだった。

          もう会えない

          お前はどうなんだ?

          「この本の作者はなんでこんなに俺の事を知っているんだろうね」 「何がっていや、だって俺の事ばっか書いてるし」 「俺しか知らないことも書かれてるから俺の話なんだってこれは」 初めて彼に会った時、こんなに太陽が似合わない人もいるんだなと思った。夏真っ盛りなのに青白い肌をした彼は、太陽の下に出たのが今日で初めてといったふうだった。そしてどこまでも常識知らずで、悪く言えば途方もなく自己中心的だった。 口から出てくる言葉一つ一つに飾りもオブラートもなく、やがて人を傷つけるんだろう

          お前はどうなんだ?

          火を守る者に関するリサーチ

          日本の伝統的な舞踊、神楽に登場する口をすぼめて曲げたおかしな顔をした男は「ひょっとこ」と呼ばれる。ひょっとこはその表情から道化、まぬけの役として登場するすることが多いが、ひょっとこの語源はかまどの火を守るために火を吹く役目であった「火男」であるとされている。火の粉で髪が燃えないように頭巾を被り、目に灰が入らないように目を細めて火を守るのだ。 通夜とは葬儀の前日に行われる儀式で、葬儀まで故人を一晩中守るという意味が込められている。通夜では一晩中寝ずに故人に寄り添う「夜伽(よと

          火を守る者に関するリサーチ

          何色の鳥が好き?

          カエルさんはミミズを食べるとそのミミズの記憶や感情が分かるって言ってた。この前、誰かに襲われて死にかけてたミミズがいたから「このミミズは今どんな気持ちなんでしょうか?」と訊ねると、カエルさんは「気持ちなんてどうだっていいんだよ」と言ってミミズを食べませんでした。 「人の気持ちなんて、人がどの色の鳥を好きかというのと同じなんだ」 そういうものなのか、白色で口が黒い鳥が好き、灰色から淡い青色に変わる鳥が好き、翼と胴体の境目が分からないような真っ黒い鳥が好き。たったそれだけなの

          何色の鳥が好き?

          ラブレター案その3

          愛しのソフィアへ リボンのついたハリネズミ 庭に咲いたクチナシ 不真面目な僕の先輩 やさしい人 今日は何を食べましたか あたたかく暮らしているなら、僕はうれしい 慈愛に満ちた泡のようなあなたの 寝ぼけた声を思い出すだけで ほんとうに、心の底から、 僕はうれしい

          ラブレター案その3