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お客さんが値段を決めるお店のはなし#7
秋の兆しが心地よい10月初旬、たこ焼き屋さんを開店しました。
月に一度だけオープンする「値段をお客さんが決めるお店」でありコンセプトは「つながりを育むたこ焼き屋・カオパス」の経緯はこちらからどうぞ。
この日はゆるりと始まった。
色々と大変な週が明けた月曜日、意識散漫なままで開店準備に向かう。
10時の予定が10時半と遅れて行ったお店には「欽ちゃん」親子が待っていた。
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数ヶ月前「欽ちゃん」からお店に行きたいという連絡をいただいて調整していたけどタイミングが合わず、満を持しての登場。
プロの映像監督をされている流れで「カオパス」の撮影がしたいというのを「そんなもんありがたいしかないでしょ」と受け入れつつこの日を迎えたんだけど、この人京都から日帰りでカオパス撮影の為だけに8時間かけて車で来てくれた(笑)。
人間生きていると何が起こるかわからないもんです。
半年ぶりくらいに会ったので話したい気持ちもありながらも、お店の準備に取り掛かる。
めちゃくちゃ本気な撮影機材で撮影を室内外でしてもらっていたら、11時には3組のお客さんが流れ込んできた。
一人目のお客さんは「浅香光代さん(通称)」
2回目の時にふらりと入ってこられて、ここじゃ書けないような下ネタをぶちかまして行かれた方なので忘れたくても忘れられない人。
「待ってましたよ」から始まり、他のお客さんを巻き込んでのトーク。
他のお客さんも楽しそうでめちゃくちゃいい空気感。
最後、お釣りがないからと「欽ちゃん」の子供達にたこ焼きを奢ってくれる「浅香光代さん(通称)」
こういう「粋な人」いいなぁ。
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この日は他のお客さんともたくさんコミュニケーションが取れる日だった。
薬膳料理をされているお二人組とは「味の向こう側」の話で共感してもらえて本当に嬉しかったしヒントをもらえた。
しばらく途切れない状態が続いてひと段落というタイミングで「浅香光代さん(通称)」がお友達を連れて戻ってきてくれた。
すると「あんた、飲み物買ってきなさい大きいボトルのやつ」と言われたので買いに行く。
それをコップに注いでお渡し、ひと通りお友達がお食事されお会計をしたら5個で1500円だった。
すると「光代さん(通称)」が
「いい、ジュースでもお茶でもコップに入れてだして300円、400円っていえばお客は払ってくれるの、お店ってのは用意して必要な時に提供するからお金いただけるんだから飲み物は必ず用意しなさい」
と教えていただいた。
なるほど、5個1500円(たこ焼き単価300円)は飲み物代も含めてだから飲料水は客単価を上げる好手ってことか。
などと「わかっていたけど、面倒くさがってやらなかったこと」に気づかせてもらえた。
てことで今月の出費です。
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在庫があったので消化する感じで済んだのは助かった。
計算が読みにくいのが干し椎茸を2リットルの水出しをするのだけど、丸一日つけておくと1.5リットルになってしまうので水を足す、その分薄くなるのを避けて干し椎茸の量もあえて増やしておく部分が正確な原価出しも、配合面でも難しい。
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今回はたくさんの方々に食べていただいた。
というか「欽ちゃん」の子供達がめっちゃリピートして食べてくれた。
子供の舌はかなり正直なので、子供がたくさん食べるというのは個人的に最高の評価をいただいた気分だった。
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特筆すべきは前述した1個単価300円。
これは飲料水との掛け合わせで生まれた値段だけれど、ここまでジャンプするとなると飲み物とのセットは超有効打だ(原価率も低いし)。
なぜ今までやらなかったんだろう。
単純に「たこ焼きだけの単価」を求めることに固執してしまっていたからだ。
「ハローエベバリホーム?」とマーティの父親に頭をこづきながら聴くビフよろしく自問自答したい気分だ(バックトゥザフューチャー観てね)。
「ちょっと待てよ、ビールとセットならどうなるんだ」と欲が出てくる。
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やっぱり赤だけど、今回の営業で何かステージが変化した感覚を得た。
まず一つ目は常連さんが定着したこと。
来てくれたお客さんはほぼ一度来た人かきてくれた人が連れてきた人だった。
もちろん初の人もいたけど、皆勤賞のお客さんはやっぱりきてくださった。
二つ目はこのたこ焼きのポテンシャルを改めて知れた。
今までお客さんと僕の作ったレシピのたこ焼きの味についてお話しする機会はなかったんだけど、今回は多くの人から「今まで食べてきたたこ焼きとは明らかに違う」という意見をいただけた。
飲食系の方にも言ってもらえたのは自信になる。
実は少し実験したかったことを営業後やってみた。
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このたこ焼きの可能性を最大化させるための実験。
次回は6個ワンプレートでトリュフソース、塩辛ソース、カレーソースとスタンダードを選んでもらって、ワンドリンク付きで1000円のプレートにしようかなと考えている(お客さんに値段を選んでもらわなくなるという革新…革新じゃなく普通に戻るだけか)
追加のたこ焼きについては好きなだけの値段を払ってくださいでもいいかな。詳細は考えよう。
たこ焼きがたこ焼きではなくなる瞬間を今見ている気がする。
それが達成されるには市場に受け入れられるかどうかだけだ。
「お客さんに値段を決めてもらうお店」は多くの仲間との出会いのハブだったのかも知れないし、これからも可能性を探すプラットフォームなのかも知れない。
始まった当初見えてた風景と全く違う風景が今広がっている。
続けるというのはこういうことなのかも知れない。
ただただ、お客さんとたくさんの実験を楽しみたい気持ちでいっぱいだ。
こんな気持ちはなんだか初めてのような不思議な感じだ。