【専門家インタビューvol.1】現役職員に聞く、児童相談所の役割と実際とは?
日常生活の中でも耳にする機会の増えた、「児童相談所」という名称。そもそも、児童相談所とはどのような場所なのでしょうか。ここでは、現役の職員として働かれているYさんに、児童相談所がどのような役割を担っているのか、どのように利用すればいいのかなどについて、お話しいただきました。
——児童相談所について、どのような機関なのか、教えていただけますか。
「家庭」という、私的な密室の中で暴力の問題が起きるとき、一番弱い“子ども”にその矛先が向きやすい。そしてその結果、子どもが命を落としてしまう。その予防や問題解決のための「公」の機関、行政機関が、児童相談所です。子どもの安全・人権を守るために、私的で密室な空間である「家庭」に「公」が入っていくというのは、とても難しく、繊細なことの連続です。その難しいことに、でも、子どもたちのためになんとかしなくちゃ、という情熱をもって頑張れる専門家がいるのが、児童相談所ですね。
——児童相談所への虐待相談は、どこから来ることが多いですか?
一番多いのは、警察からの相談です(令和4年度で相談総数の51.5%)。
夫婦間のトラブルで警察へ相談にいった場合に、その夫婦の子どもが面前DV(※)、あるいは、実際に身体的・心理的虐待を受けていることが疑われるということで、警察から児童相談所に連絡があることが多いですね。
その次に多いのは、近隣からの通告です。泣き声や叫び声などで虐待を疑い、189(児童相談所虐待対応ダイヤル)にかけてくださる方が増えました。
家庭への訪問は、まさにIさんのケースのように、「近隣から通告があったのでお話を聞かせてください」と言って、直接アポなしでご家庭を訪問し、背景を説明します。
最近は、189が始まって「通告があると児童相談所が訪問に来る」と認知されはじめていることもあり、私たちの訪問に対して「そういうことなら」と応じてくださる家庭が増えました。もちろん、以前のような「何をしに来たんだ!」というような拒絶的な反応をされることもありますが、徐々に減ってきた印象です。
近隣からの通告があった場合、どのご家庭か児童相談所では特定ができないので、私たちスタッフは一軒一軒、訪問して説明してまわります。その時に、「大変ですね」「お疲れ様です」と労ってくださったりすることもあります。
子どもたちの通う学校でも最近では、児童相談所についての授業があったり、パンフレットを配っていたりします。 例えば、友だち同士の会話の中で家庭の話になった時に、「それは児相に相談した方がいいやつなんじゃない?」という流れになること、(当事者ではなく)相談に乗った子どもの親御さんが児童相談所に連絡をしてくれることなどもあります。少しずつ認知が広がってきているのを実感しています。
——児童相談所の職員の、やりがいや、難しさを教えていただけますか。
実は、良かったなと思えるのは、かなり時間が経ってからです。支援した子どもたちが大きくなって、何年も経ってから、その後どうなって、どのように状況が良くなったかが分かる。私は今の職場が長くなってきたので、今やっていることがゆくゆく何につながるのか、ある程度見通しが持てます。でも、若手職員はその見通しも持てない中で、今やっている支援が本当に子どもたちのためになっているのかわかりません。それでも、モチベーションを保つのが難しいなか、必死に頑張っています。なので、支援した子どもたちが、その後状況が良くなっている、元気になっているとわかるのは、とても嬉しいです。
——Iさんのケースをどう思われますか。
私たちがよく出会うケースです。
父親が、子どもに対して心理的・身体的虐待を「勉強を教える」という文脈の中で行っているというものは、地域にもよりますが、増えてきている印象です。Iさんの夫への児童相談所のアプローチ(近所から通告があった、という形式)も、どのように介入していくか考えた上での、ありうる方法だと思います。
ただ、私たちが介入するご家庭は、調査や指導の結果、ご両親からお子さんを離すケースの方が多い。親のそばにいるとお子さんの安全が守れない、親が養育するのが難しいようなケースです。私たちは、お子さんのその後の生活、例えば特別養子縁組、里親探し、児童福祉施設への入所、関係部署への連携などに、日々奔走しています。お子さんや親の話を聞き、説明し、話し合うことに、時間をかけています。
児童相談所は、民間サービスではなく行政機関なので、ユーザーのニーズを汲み取った支援というだけではなく、「公」として介入しなければならないことが多々あります。その介入は公権力の行使ですから、ある意味暴力的にもなり得ますので、私たちは非常に繊細に気を遣いながら業務を行っています。
Iさんは、ご自身で働かれていて稼ぎもあり、夫からお子さんたちを守ろうとする気力や行動力もおありです。児童相談所の立場からすると、実はこういったご家庭は相対的には“介入度合いが低い”方です。もちろん、ご本人が大変苦しい経験をされたのは、重々理解しているんですが…。ですので、当時の児童相談所の職員が「自力で離婚してください」という、一見突き放したような言い方をしたことも、大変申し訳ないとは思いつつ、理解できる部分もあります。
——では、児童相談所は、子どもに関わる悩み事であれば何でも相談できるんでしょうか?
これまでは、児童虐待についてのみお話してきましたが、全国の児童相談所では基本的に、17歳までの子どもに関する、
①養護相談(虐待、保護者の養育困難など)
②保健相談(乳幼児の発育など)
③障害相談(身体障害・知的障害・発達障害など)
④非行相談(犯罪行為、触法行為など)
⑤育成相談(不登校、しつけなど)
などを受け、援助や支援を行っています。
ただ、少し難しいのが、自治体によっては、児童相談所の力を入れている部分や特徴が異なるという点です。「子育て支援」が自治体によって全く異なるのと似ています。
例えば、私の勤務する児童相談所は、①養護相談(児童虐待の対応)に強い。一方では、⑤育成相談(不登校などの相談)については、うちよりも教育支援センターの方が専門としています。このようなことは、一般の方にはなかなか分かりづらいところです。そのため、せっかく相談に来ていただいても、「ここではなく、〇〇に行ってください」と他の窓口/機関を紹介する羽目になってしまいます。
「同じお話を何度も窓口でさせてしまうのは時間も気持ちも負担がかかり申し訳ない」という思いで、詳しくお話を伺う前に「ここではなく、〇〇に行ってください」とお伝えしているのですが、一般の方からすると「話もろくに聞かず、たらいまわしにされた」という気持ちになるのも理解できます。とても葛藤する部分ですね・・・。
——困りごとを抱える方にもっと気軽に専門機関を頼ってほしいものの、せっかく頼っても上記のように「たらいまわしにされた」という気持ちになり、頼ることを諦めてしまう人がいるのも現状です。児童相談所の立場で、私たちに何かお伝えいただけませんか。
無責任に聞こえるかもしれませんが、くじけないで相談してほしいです。
体の不調と同じで、「頭が痛い」というときに行くべきは、内科なのか脳外科なのか神経外科なのか…せっかくどこかを受診しても症状が良くならず、別の科に行くということもあると思います。ですので、お子さんに関するお悩みでしたらまず、児童相談所にご連絡ください。もしお住まいの自治体によって窓口が異なる場合はご案内しますので、そちらにご相談ください。あなたの支援を行う専門機関に、くじけずつながっていただきたいです。
もちろん、私たち行政機関や専門機関側が、いかに連携するか、お困りごとのある方への対応をスムーズに行うか、わかりやすくするか、が、とても大事だと思っています。それには様々な壁があるのですが・・・私もくじけずにトライし続けます。
本当は、医療でいう”総合診療科”のような、あらゆる可能性を見て「あなたの支援を行うのは〇〇です」と案内してくれるようなものが、行政や福祉側にもあるといいですよね。
<編集後記>
Yさん、貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。児童相談所が持つ公的機関ゆえの難しさ、職員の方々としても歯がゆさを感じられている部分、そして、難しい仕事ならではの喜びややりがいなども、率直にお話しいただき、めとて側の理解も深まりました。葛藤を抱えながらも発してくださった、一般の方への「くじけないで…」というメッセージが、非常に印象的でした。
めとてでは、今後も、困りごとを抱える方々と、専門家・専門機関が、もっとわかりやすく・やさしくつながれる社会を目指し、専門家や、専門機関の中にいる人へのインタビューを続けていきます。