美しいコンポジションのために知っておくべき基礎①アスペクト比の効果を知る
さて、美しいコンポジションは多くの美しいものを鑑賞し、実践することでその能力を高めることができます。
今回からは美しい映画のコンポジションについて説明したいと思います。
まずは映画のコンセプトを決める重要なアスペクト比について知りましょう。
「アスペクト比」は、画面の高さに対する画面の幅を表したものです。
映画の基本アスペクト比は以下の様になります。
現在のハリウッドでは1.85:1 または 2.35:1 で撮影されたものが多いです。
しかし、歴史上、最も長い期間映画に使用されたアスペクト比は4.3
この画面サイズを見ると多くの人が懐かしい雰囲気を感じるのではないでしょうか?
その他によく聞くのが16:9だと思います。このサイズは今日、パソコンの画面に使われている比率となります。その理由から、ハイビジョン、4Kと踏襲され、最も我々が見慣れた画面比率となりました。
映画の雰囲気と美を設定するアスペクト比
ある特定のアスペクト比は、映画、テレビ、ホームビデオなどと同義語になっているため、一般の人でも、アスペクト比に対する完璧な理解や知識がなくても、それぞれの違いをなんとなく理解できる方も多いでしょう。
さて、利便性によって標準となった16:9ですが、我々は映画館に行く度にさまざまなアスペクト比で撮影された映画と出逢います。
例えばこちらの映画、この映画は4:3で撮影されています。
こちらはキャラクターが箱に閉じ込められているような閉塞感を与える狙いがあります。また古いポラロイドで撮影されたような雰囲気を出すために特別に角が丸く加工されています。
この効果によって、まるで思い出の中の様な世界を表現することに成功しています。
近年、話題になったタランティーノの『ヘイトフル・エイト』
こちらは西部劇が最も盛んに作られた50年、60年代の雰囲気を出すために『ベンハー』と全く同じ 2.75:1 で撮っられたことが有名です。
これは非常に横長の画面で、被写体を映すとき上下の空きが無いため、室内空間や人物のアップを写す際、大変窮屈に見えます。
この映画はほとんどが1箇所での室内劇となっております。その閉塞感を最大限まで引き出すという狙いもあったのでしょう。
面白い例ではこちらがあります。
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
こちらは、なんと作中のダイナミック感を出すためにいわゆるトリックアートのように、アスペクト比を調整する黒バーを利用しています。
そして、アスペクト比で近年最も話題になったのがこちらの映画では無いでしょうか?
『グランド・ブダペスト・ホテル』は作中の3つの時代によってアスペクト比が劇中で変化します。
これらのレートはそれぞれの時代で最も一般的な比率となっています。
この劇中の比率変化は観客に明確に時代が変わったことを知らせる他に各時代の雰囲気をより引き出す狙いがあります。
そのため、アスペクト比の決定でよく使われるのが、劇中の時代に合わせる方法です。特に1920〜1980年の各年代を当時使用されていたアスペクト比を使用することでその時代感を出したりします。
アスペクト変化で表す心理術
例えばこちらの作品。『オズ はじまりの戦い』では明らかな意図を持ってアスペクト比の変化が一表現として使用されています。
前述したように画面は極端に正方形に近くても横長になりすぎても閉塞感を感じます。そのため、縦横の広がりは開放感を生みます。
上記と似た表現として使用されているのがグザヴィエ・ドランの『マミー』のこのシーンです。
主人公の閉鎖的で行き詰まっていた世界が広がる瞬間を表しています。ちなみにこの映画で使われているのは1:1の特殊な比率です。
クリストファー・ノーランは『バッドマン begins 』で意図的にショットごとにアスペクト比を変えています。
実はIMAX撮影のアクションモノには戦闘シーン等でアスペクト比を変えることが多々あります。これはアスペクト比の違いが与える心理効果を狙っているからです。
最後にこちらの映画を紹介しようと思ったのですが、ひょっとしたら日本公開されていないのでしょうか?
『It Comes at Night』では現実と悪夢のシーンでは比率が変わります。
そしてネタバレになるので閲覧要注意なのですがラストシーンではどんどん画面が上下に潰れていきます。
それは、何度も言うように、上下が潰れた横長の画面は閉塞感を生み出すため、主人公が追い詰められていく心理効果を最大限引き出すためです。
さて、ここまで様々なアスペクト比とその効果、意図を持った使用法の具体例を紹介してきました。
最後に各比率がどの年代で使われていたかの表をご紹介して終わりたいと思います。
*今回の参考動画:こちらの動画では歴史等にも言及しているので、よかったらご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?