アトモスフィアとリテーリング
はい、Kazumiです。今回はこのAtmosphereという概念について話していきたいと思います。この概念は、小売店舗やEC店舗などの雰囲気や環境を構成する感覚という文脈で扱われています。
#1 概念
一般的な "Atmosphere"の意味は、https://ejje.weblio.jp/content/atmosphereからわかる通り、大気、雰囲気、空気、気分、ムード、、という意味です。しかし、このKotlerが定義をしているAtmosphereは違う意味を持ちます。
上のpdfの論文では、
"the intended atmosphere is the set of sensory qualities that the designer of the artifical environment sought to imbue in the space."
と定義されています(51ページ下段)。これを和訳すると「人工環境の設計者が空間に吹き込もうとした一連の感覚的性質」となります。
これは五感と同じ意味ではありません。「感覚(五感が主ではあるが、一部)をとおしてとらえられるもの」とされます。
Kotlerは下の図のように説明しています。
五感とは、「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚」となります。当然ながら空間そのものに「味覚」はありませんので、それを除いた4つが五感と解されます。
そして、図からよくわかるように、これら五感はアトモスフィアに対して直接影響を及ぼすものではありません。"An atmosphere is seen, heard, smelled, and felt, but not tasted."と論文中で書いています。しかし同時に、アトモスフィアの中の遺産(記憶とかのような文脈)は味覚を想起させることができます(例えば、観光地の景色からその旅行先のレストランで食べた料理の味を思い出す、とか)。
#2 なぜ「アトモスフィア」は重要なのか?
まず、大前提として、「アトモスフィア」、そして「アトモスフィア・デザイン」という概念は、すべての販売業者や社会に対して平等に重要、というわけではない。
例を考えてみよう。日本なら「銀座」の飲食店に求められるアトモスフィアと「銀座」のスーパーやドラッグストアに求められるアトモスフィアは異なるし、重要性も異なる。一方、京都の飲食店(料亭とか)に求められるアトモスフィア(景観とか)や一般的なスーパー、自動販売機に求められるアトモスフィアは異なるが、重要性はとても高い(京都の景観に関する条例に縛られている)。
国外においても、イタリアのミラノのアトモスフィアとフランスのモンサンミッシェルのアトモスフィアは平等に重要ではない。同時に田舎と都市も重要さが異なる。
けれども、アトモスフィアはマーケティングの変数として重要な意味を持っているのは明らかなのである。これが適切な場面は4つあるという。
①主に財・サービスを購入または消費する場面、または販売業者がデザインの選択肢を持つ場面
②競合するアウトレットの数が増えていく中ではより適切となる。
③製品や価格の違いが小さい業界でより適切となる。
④新規製品が異なるクラスまたは異なるライフスタイルの購入者グループを対象としている場合。(例:iPhone)
#3 アトモスフィアはどのようにして行動に影響を及ぼすのか?
因果関係連鎖について
論文中では、アトモスフィアの因果関係の連鎖について上のように言及している。この因果関係連鎖には議論の余地があると考えられ、ほかの研究者がこの因果関係連鎖について調べていると考えられるが、ここではKotler(1974)の弁でお話ししたい。以下はp53の英文をもとにしている。
(注)読む限り、上の因果関係連鎖はKOTLERの仮説である。
購入する対象はある程度の感覚的品質によって特徴づけられた空間の中に溶け込んでいる。それらの感覚的品質は販売者による空間の一部として設計された可能性と空間に内在している可能性の二つがある。
それぞれの購入者は、この空間の一定の品質しか知覚しない。つまり、その知覚は必ず選択的な注意か、歪曲されるか、もしくは保持されるかであり、おおよそ原形のまま伝達されるわけではない。
アトモスフィアの知覚された品質は、各個人の情報および情緒状態に影響を与えることができる。
その購入者の、修正された情報及び情緒状態はその購入確率を高める可能性がある。
購買行動に影響を与えるパスについて
アトモスフィアは、少なくとも3つのパスをとおして購買行動に影響を与える。
①Attention-creating medium(注目を創出する媒体)
→売り手はその空間の存在を際立たせるために、色彩・騒音・働きかけを使う。
②message-creating medium(会話を創出する媒体)
→潜在的/顕在的な顧客に対してその空間の存在について様々なことを表現する。
→アトモスフィアは、店舗の潜在ユーザーと会話をするのに適切であり、その会話はその顧客の関与度合いに寄って変化する。
→アトモスフィアは購買者に差別化された刺激を与え、ほかの類似の競合と違うと思わせ、潜在ユーザーにその空間の存在を認識させることが可能だ。
③affect-creating medium(影響を与える媒体)
→際立たせられた色彩、騒音、手触りなどは、購買確率に対して好意的に寄与する直感的な反応を引き起こす。
#4 おわりに
Kotler(1974)はこの後に様々な例(ショップからレストランなどなど)及びリサーチクエスチョンを述べて締めています。
とはいえ、「アトモスフィア」について理解が進んだのではないでしょうか。
現在、これは実店舗に限らず、ECだったりメタバースだったりにも当てはまると思います。ECであれば、その雰囲気だったり、見る場所(シーン)と合致するものだったりすると購買確率が上がるなどが考えられそうです。
ぜひ経営またはマーケティングにも活用してみてください。
以上、Kotler(1974)の「アトモスフィア」に関するペーパーでした。