アフターコロナ時代にHIPHOPは生き残れるか?
コロナウイルスの世界的パンデミックによって、この日本でも経済的打撃が著しい。自分の周りのダンサー稼業をしている仲間もイベントの中止やスタジオ型レッスンと、人が密集してナンボの商売のため、失職してしまっている現状だ。
私自身も地元でのレッスンは全てクローズの状態であるが、並行して営んでいるレコード屋稼業は、収益はスズメの涙ほどではあるがなんとか稼働はしている。できる仕事があるだけ精神的にはまだ救われている方だ。
さて、今回のテーマである「アフターコロナ時代にHIPHOPは生き残れるか?」というお題だが結論を先に言うと、”生き残ることができる”と思っている。
ただしこれには少し条件が必要だと思っている。
先ずは、なぜ生き残ることができるかを自分なりに考察したかと言うと、まず一つにSTREETまたはGHETTO生まれのカルチャーだと言うことが挙げられる。
つまりこのカルチャーは元々今の経済的成功の状態を目指して生まれたものではそもそもないと言うこと。BRONXの一角の団地内で妹の誕生日を祝うためにジャマイカ仕込みのDJシステムを用いてパーティーをしたところから全ては始まり、続けてきたことによってMCingやB-BOYingが付け足されていった。
そこに集う人たちは、経済的優位性がないものの、さらにパーティーを最高のものにしようと工夫していった結果、NY各所でムーヴメントが派生し、その熱量は様々な機会を通して国内だけでなく世界中に広がりムーブメントになった。それは80年代の日本にも例外なく(というか早い段階で)情報は伝えられた。
余談だが、お茶の間レベルでその当時最先端のカルチャーを紹介したのは、先日惜しくもコロナ肺炎で亡くなった志村けん※1さんと、風見慎吾※2さんだと思う。
※1:カトちゃんケンちゃんごきげんTV内でDJのコント(レコードを早回しする)を田代まさしとやっている。
※2:涙のTAKE A CHANCEというヒット曲は、「BREAK DANCE」という認識を伝え、背中で回るバックスピンは当時小2だった自分も真似した記憶がある。ちなみにバックダンサーとして参加していたのは日本でのBREAKINGの第一人者でありROCK STEADY CREW JAPAN創始者のCRAZY-A氏
話は逸れたが、元々が「持たざる者たちのムーヴメント」がこの成功を収めている現状というのは、コロナでリセットを余儀なくされたものにとって精神的に活力を見出しやすい。社会的弱者の立場から今や世界で聞かれる音楽のトップに躍り出るほどに成長した文化だ。
アンダーグラウンドでの地道な実験や工夫、それによって生まれたラップという歌唱法やスクラッチ・サンプリング。頭でくるくる回るヘッドスピンなど、その頃には非常識とされた手法が、人々を注目させ、新鮮さを与え、今の常識としてどこでも見ることができるほど普通になった。
HIPHOPカルチャーには、工夫して技を磨き新鮮さをキープしながら過去から未来へのアップデートが、生まれた時から内包しているということである。
この工夫する楽しさに目覚め、また弱者から這い上がろうとするGHETTOマインドは、このコロナウイルスによって失職を余儀なくされたプレーヤーにとっては逆に大きなチャンスと取れる。
日本では、長年にわたり偽りの平和が続いていた。311など大きな災害が起きた場合でも、被害はポイントに過ぎず、その被害を経験しないものは、少しの善業を除いてほとんどは対岸の火事的扱いで波が収まるのを待った。
しかし今回は日本のみならず世界にまで広がった経済損失である。全ての人が他人事ではなく自分ごとになったことで、正気を失った人も少なくなかったはずだ。
こうゆう誰もが何かを失う状況になった時、作動するのは人どなりの人情や助け合いだろう。
平時に、上り詰めるだけを考え、ロクに仲間同士の繋がりを足蹴にして高額報酬に目が眩んだりビジネス的活動に勤しんだり、成功にあぐらをかいたりしていたプレーヤーは、この状況で心の行き場を失っている人も多いだろう。
信頼・仲間というのはこのようなピンチの時に精神を保たせてくれるし、平時には気づきずらいが、苦労を重ねて長いスパンでの精神的成功を目指すものにとっては、このコロナ危機を乗り越えるパワーを平時の段階から身につけている。
自分は311の時点で覚醒したため、今回のこの騒動はある程度予測がついており、思ったよりは冷静に受け入れることができた。普段から世界の流れを読んでれば大体の予想として今年に大不況が来ることはわかっていた(こんなにすぐ来るとは思わなかったが)
平時に有効だった、ファッションセンスを競う行為だったり、トレンドをいち早く抑える行為など物質的なものは、このカルチャーのオプションに過ぎず、ただビジネスと連動しやすいというだけのものである。
物質主義は、経済が破綻すれば儚く消える表面的なメッキのようなものだ。(誤解を招かないようにいうと、自分もファッションは大好きである)
それに対し、思考・精神性というのは、うちの中で育まれ成長するものであり、どんな有事においてでも他人からは決して奪われることがない。
この先、勝ち目があるのは、リセットであるという認識を深く持ち、決してビフォーコロナの時代には戻らないことを認識し、貧を経験してさらに立ち上がろうとする気概があったり、これまでの常識や価値観をシフトできる柔軟性など、既存の概念を自分で壊し築き上げることができるものや、個を尊重し合い連帯をスムースに築けることが生き残りの重要点だと思っている。
そしてそこには、今までの日本の平時では到達できなかった未体験のゾーンに行くことができる風穴が空いたと思って良いと思う。
ただし、そのためにはHIPHOP独自の精神性を深く理解する必要があるが。
このコロナ渦が過ぎ去った後の状況をイメージすることがとにかく大事になってきた。そして何より、ただ過ぎ去るのを待つだけの思考停止より、「今」のwithコロナの状況というのをなるべく長く記憶に残しておくことが重要だと感じる。
こーゆー時のための”KEEP IT REAL”であり”FIGHT THE POWER”なのだと強く言いたい。
TRUE HIPHOPの出番がキタ。