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思い出いっぱいのこの商店街とも、明日お別れです。

思い出いっぱいのこの部屋とも、この町とも、明日お別れです。

幼少期の思い出のせいか、"商店街"というものが何だか好きな私は、この町に一目惚れをしましました。
部屋を見る前に「ここに住もう」と思ったことを、昨日のことのように思い出します。

土曜の朝はよく近くの八百屋さんで買い物をしていました。平日仕事終わりは閉まっているので、土曜の朝しか行けませんでした。
それでも、私の顔をすぐ覚えてくれて、いつも「また来週ー!」と笑顔で送り出してくれました。

平日の夜遅くまで開いているもう一件の八百屋さんを見つけてからは、仕事帰りにも野菜が買えるようになりました。
閉店間際で野菜を奥にしまっていても、「今日は何する?寒くなったし煮物は?こんにゃくもあるけん持ってこようか?」と、筑前煮に使う野菜たちと一緒に店の奥から持ってきてくれました。
「あ、これ、見かけは悪いけ表には出せんけど、皮むいたら上等やけんいらん?50円にしちゃるよ。」
そんな何てことない会話が、仕事に疲れた私を癒してくれました。

近くのスーパーでは、お米を買うとレジのお兄さんは
「重たいけせめてあっちまで持っていくよ」と袋詰めをするところまで持っていってくれました。
「雨降りよりましたか?」なんて言いながらレジを打っていました。
スーパーのレジの方に世間話をされたのは、ここに来て初めての経験でした。

家の向かいの韓国料理屋のお母さんは、付け合わせのナムルの箸が進んでないのを見て、「その少し残ったご飯とナムルで、ビビンバにしようか」と私の隣に座って、小さな小さなビビンバを作ってくれました。
わあい、ありがとう、と言う私に「もう、甘ちゃんなんだからー」と、大笑いしてくれました。
「Ritaちゃん野菜ちゃんと食べよる?トマト食べる?」
とトマトを切って出してくれて、お母さんと一緒に食べたりしました。

向かいのバーのおっちゃんに、「チャリがパンクしたんやけど、近くにチャリの修理屋ある?」と尋ねると、「俺がしちゃるよ」と、その場ですぐAmazonでタイヤを注文して、タイヤ交換をしてくれました。
お礼も兼ねて飲みに行くと、お客さんがいっぱいでてんやわんやしていました。
「Ritaちゃん、悪いけどそこで枝豆買ってきちゃらん?」と、お客さんなのにお使いを頼まれたりもしました。

マンションの掃除のおばちゃんは、いつも「おはよう、いってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれました。
「あなたほんとに、リカちゃん人形みたいでかわいいわね」「あら、今日は素敵なスカートね」「いつも持ってる袋はお弁当?えらいわね」と、褒めてくれたりもしました。
「一応あなたの自転車拭いといたけど、濡れてたらごめんね」と、夜雨が降ったときにはいつも自転車を拭いてくれました。
雪が積もったときには、落としてくれました。
自転車の鍵を落としてしまった時には、「このティガーの鍵、あなたのでしょ?落ちてたよ。なんか、このティガーを見てたら、あなたのような気がしたのよ。家出るとき、大慌てで探したんじゃない?」と手渡してくれました。
私の部屋の階の廊下の電球が切れかけたときには「電球ぴかぴかごめんね」と声をかけてくれました。

──この町の思い出は、こんな風に書き出すととまりません。大好きな町でした。

このお部屋も、白いお部屋で可愛くて好きでした。2年ちょっとしか住んでないけど、もっと長い間いたような、居心地のよい空間でした。
次の住人も、素敵な思い出をたくさん作れますように。


ま、この家、事故物件なんやけどね。

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