気象大学校の入学難易度
前回までに気象大学校の概要と気象大学校の受験方法について解説してきた。
「気象大学校の概要」はコチラ
「気象大学校の受験方法」はコチラ
今回は気象大学校の入学難易度について興味のある方、特に実際に受験を考えている方向けの考察をしてみようと思う。
ただし、本記事については、筆者の主観にもとづく内容も多いので、あくまでも参考程度に捉えていただければと思う。
また、先に述べておくが、気象大学校の受験方法は、受験科目、合格基準も一般大学とは大きく違うので、大学入試用の模試などで出る偏差値や判定はあてにならない可能性は高い。
したがって、模試での偏差値が足りなくても、気象大学校の問題にフィットする可能性もある。
また、後ほど理由は述べるが、近年、気象大学の入学(採用)難易度は易化していると推測している。
受験日程が一般大学と被らず、無料で受験できるので、興味のある人はチャレンジしてみる価値はあると思う。
地球惑星科学系学部との偏差値比較
まずは地球惑星科学系学科および学部との偏差値を比較してみよう。
ネット上で気象大学校の偏差値が出ていた河合塾とベネッセの2つを掲載する(2023年春時点)。
注:東大・京大・東工大・名大・北大(前期)は進振制度があるため学部での偏差値を記載。阪大は地惑系学部がないため未記載。
【河合塾】
東京大学理科一類(前期)67.5
東北大地球科学系(後期)67.5
気象大学校 65.0
京都大学理学部(前期) 65.0
東工大理学院(前期) 65.0
北大地球惑星科学(後期)62.5
名古屋大学理学部(前期)57.5
東北大地球科学系(前期)57.5
北大総合入試理系(前期)57.5
九大地球惑星科学(前期)55.0
九大地球惑星科学(後期)(不明)
【ベネッセ】
東京大学理科一類(前期)72
京都大学理学部(前期) 71
東北大地球科学系(後期)71
気象大学校 69
東工大理学院(前期) 67
北大地球惑星科学(後期)65
名古屋大学理学部(前期)64
東北大地球科学系(前期)64
北大総合入試理系(前期)64
九大地球惑星科学(後期)64
九大地球惑星科学(前期)62
以上のように並べてみると、公表されている偏差値において、気象大学校は東京大学には及ばないが、京都大学・東京工業大学などの難関大学とほぼ同レベルである。
しかし、気象大学校の受験科目は特殊であること、また、定員が少ない一方で志望者数も少ないことから、一般の模試の結果を利用した偏差値や判定では本当の難易度は計りづらいといえ、別の視点でも難易度を考察してみたい。
合格者・不合格者の学力から難易度を推測する
気象大学校の合否と併願大学の合否の比較によって、ある程度難易度が推測できるのではないか。
ということで、SNS、ブログ等で近年の気象大学校合格者、不合格者の投稿を検証してみた。
近年(ここ5年程度)の受験者で観測できたものを記載する。
気象大学校〇 東京大学〇 → 東京大学進学
気象大学校〇 東京大学〇 → 気象大学校進学
気象大学校〇 京都大学〇 → 京都大学進学
気象大学校〇 京都大学〇 → 気象大学校進学
気象大学校〇 東京大学✖ → 気象大学校進学
気象大学校〇 大阪大学〇 → 気象大学進学
気象大学校〇 東工大 〇 → 東京工業大学進学
気象大学校〇 北海道大〇 → 北海道大学進学
気象大学校✖ 東京大学〇 → 東京大学進学
気象大学校✖ 京都大学〇 → 京都大学進学
気象大学校✖ 東工大 〇 → 東京工業大学進学
気象大学校✖ 東北大学〇 → 東北大学進学
気象大学校合格者の席次については正確にはわからないが、感覚的には合格席次が一桁台の人は東大・京大にも合格している印象である。
また、数は少ないが、学年によっては「東大蹴り気象大学校」は存在する。(難関大学よりも気象大学校を選ぶ理由については別途考察してみたい)
実際に気象大学校に進学する人は「東大落ち気象大学校」の人が多い印象である。なお、「東大落ち気象大学校」の人の中には東大冠模試や共通テストリサーチで東大理一A判という人もいる。
以上を考えると、気象大学校の上位合格には東大合格可能レベル、合格者全体としては旧帝大合格レベル以上の学力が必要と言えるかもしれない。
(大学入試は一発勝負のため、体調・問題の相性等で運にも左右さえれる試験である)
一方、気象大学校に不合格であっても、東京大学・京都大学・東京工業大学などの難関国立大学に合格する人もいる。この点をどうとらえたらよいのか、考察を続けてみる。
一般大学の受験とは難易度の質が違う気象大学校の受験
過去の記事でも述べたように、気象大学校の試験は一般大学の受験と大きく違う点がある。大きくいえば次の3点である。
①第1次試験(学科試験)が10月末に実施される。
②基礎能力試験という公務員向け試験が実施される。
③作文試験・人物試験が実施される。
まず「①第1次試験(学科試験)が10月末に実施される」についてであるが、前回の記事でも触れたとおり、特に学科試験(数学・物理・英語)は高校全範囲からの出題となる。
したがって、現役生で地方公立高校など授業進度が遅い学校に通っている場合、数学Ⅲや物理の未履修の範囲まで独力で勉強をしておかなければならない。特に物理の電磁気の履修が終わっていないとかなり厳しいといえる。
気象大学校の学科試験では理科科目は物理のみなので、物理に特化して勉強をすれば間に合うとはいえるものの、現実は国公立大学受験のために理科は2科目勉強しなければならない受験生が多いだろう。
さらに、記述試験の問題難易度は旧帝大過去問レベルの水準であることから、10月までに過去問に取り組めるレベルにまで勉強が仕上がっていないと対応しきれない。そのため、現役生は気象大学校の受験には勉強が間に合わないというケースは十分想定される。
気象大学校合格者は浪人生(仮面浪人含む)の比率が高めなのは受験日程も影響しているだろう。
逆にいえば、気象大学校の受験後、国立二次試験まで4カ月ほどあるため、現役生で基礎能力値の高い人であれば、勉強が間に合わず気象大学校が不合格であったとしても、国立二次試験までに東大・京大合格レベルまで学力をあげることも不可能ではない。
次に「②基礎能力試験という公務員向け試験が実施される」であるが、この基礎能力試験とは大学受験とは質の違う問題が出題される。
知能分野20題、知識分野20題の合計40題が出題され、知能分野では一般的な国語運用能力、パズル的なものも含む数的処理能力などが問われ、得意・不得意によっても差が出やすい。
また、知識分野では、自然科学・人文科学・社会科学など、一般教養的な問題が出題されるが、地理・歴史・公民など文系科目で勉強するような知識が求められることから、理系に特化して勉強してきた人にとっては得点しづらい問題となっている。
どちらの分野も、事前に公務員試験対策用の問題集などでしっかりと勉強すれば対応は可能とはいえるが、現役生が学科試験の勉強と同時並行で勉強するのは時間的に難しい。
最後に「③作文試験・人物試験が実施される」である。
繰り返しになるが、気象大学校学生採用試験は気象庁職員の採用試験であり、一般の大学受験のように学力だけで選考するのではない。最終的には作文・面接を通して”公務員として相応しい人物かどうか”で採用・不採用が決められている。
なお、2022年度の募集要項には、作文試験は「文章による表現力、課題に対する理解力など」、人物試験(個別面接)は「人柄、対人的能力などについて」にて合否判定を行うとなっているが、具体的にどういった基準・項目で判定されているのかは公表されていない。
また、人物試験の参考とするため性格検査も行われるが、こちらもどの程度合否判定に利用されるのかもわからない。
近年の最終合格者数を見ると、第1次合格者の2割から3割は、作文試験・人物試験で不合格となっている。また、第2次試験(作文・面接)で気象大不合格だった人が、東京大学に合格している事例もあることを考えても、一般大学の受験とは違う難しさがあるということである。
以上のことから、気象大学校合格のためには旧帝大合格レベルの受験学力を身に着けたうえで、気象大学校受験の特殊性にマッチした能力(もしくは対策)が必要だと考える。
こう書いてしまうと、”気象大学校は難しすぎる”という印象となってしまうが、実は入学(採用)難易度は易化しているのではないかというのが筆者の仮説であり、以下に理由を述べることとしたい。
気象大学校受験者数の推移からみる難易度
ここで気象大学校採用試験の受験者数・採用者数等の推移を見てみる。
(人事院HP、令和4年度までの公務員白書でデータが公表されているものから作成した表であり、不明な部分があるのはご了承願いたい。)
大きな傾向として、近年、気象大学校の申込者数が大幅に減少していることが特徴的である。
受験倍率は明らかに低下、つまりデータ上では入学難易度は易化している。
もちろん、気象大学校は定員数が少ないので年によって優秀な人が集まれば難易度が高くなることはあり得るので注意は必要だ。
さて、受験者数の減少の理由は何だろうか。
新型コロナウイルスの影響ということも考えられなくはないが、コロナ発生前の令和元年度の受験者が大幅に減少していることを考えると、ピークの受験者400名台からは明らかに少ない。
現役生の人口が減少していることは要因のひとつとはいえるが、ここまでの減少となるとそれだけでは説明がつかない。また、気象大学校は受験日程が一般大学の試験とも被らないため、他の志望校との兼ね合いというも考えづらい。
そこで参考としたいのは国家公務員試験全体の受験者数である。
上図のように明らかに申込者数は減少傾向にある。
気象大学校も気象庁職員としての採用となることから、将来の職業として国家公務員を志望する人が減っていることが影響している可能性はある。
志望者減少は官庁から見れば優秀な人材確保面が難しくなる状況だといえるが、逆に気象大学校志望者の人にとっては競争相手が減り、合格しやすい環境になってきているということである。
令和5年度、令和6年度の採用人数は増加する?
今後も気象大学校の定員60名が維持されるのであれば、令和5年度、令和6年度採用試験における採用予定人数は確実に増加する。それはデータから明らかだ。
下に先ほどの受験者数・採用者数データを、直近4年間を取り出して再掲する。
まずは、令和4年度採用の結果について説明したい。
令和5年1月の最終合格発表時に公表された令和4年度試験(令和5年4月1日採用)の採用予定人数は13名であった。(なお、気象大学校の定員は4学年合計で60名となっているので、留年・中退等がないと仮定すれば、令和5年3月卒業見込の4年生が13名いたということである。)
令和4年度試験の最終合格者数は29名であったので、成績上位順に入学意思を確認して、上位13人までが採用されることとなっていた。しかし、今年は辞退者が21名もあったことから8名のみの採用となり、採用予定数の13名に5名足りない結果(定員割れ)となった。
なお、辞退者が多かった理由は東大・京大などの第一志望に合格した人が多かった、公務員になることを敬遠したといった理由が推測される。
さて、令和5年度試験の採用予定人数を予想してみよう。
今年の令和5年4月1日採用者が8名で5名の定員割れとなったということは、気象大学校定員60名に対して、現在の在学生は55名となる。(これは令和元年度試験から令和4年度試験の採用者数の合計と一致する。)
留年・中退がないと仮定すると、来春令和6年3月卒業見込みの4年生は令和元年度試験採用の11名である。そうすると、来年度2年生から4年生の数は55名-11名で44名。
したがって、令和5年度採用予定人数(令和6年4月1日採用)は、定員60名-44名=16名となる。
次に、令和6年度の採用予定人数はどうなるか予想してみる。
留年・中退がなければ令和2年度採用試験における採用人数20名が卒業見込者となる。令和5年度採用試験の結果、定員60名が満たされたと仮定すると、卒業予定者数20名がそのまま令和6年度採用予定人数となる。
以上のように考えると、データ上では、令和5年度試験での採用予定者数16名、令和6年度試験での採用予定者数20名と予想できる。
令和4年度試験で定員割れがなければ、今年の令和5年度試験は狭き門になっていたはずであり、今年の受験生にとっては良いニュースだと言える。また、令和6年度試験は20名に合格チャンスがあるのは大きい。
逆にいえば、令和4年度試験での採用者8名が卒業する年(令和8年度試験)は狭き門になる可能性が高く、注意が必要であろう。
現役生にとっては難易度は高い、浪人生は有利に戦える
以上のとおり、気象大学校の入学難易度を考察してきた。
そのうえで、筆者の主観的な意見を述べさせてもらうと、気象大学校の受験日程、試験問題・方式の特殊性から現役生にとっては難易度が高く、逆にいえば浪人生にとっては有利に戦える試験だと思う。
現役生は早い段階から気象大学校受験を目指して勉強してきた、もしくは東大・京大など国立最難関受験に向けて受験勉強を行ってきた人でないと厳しい戦いとなるだろう。
一方、現役生時代にある程度受験勉強をしていた浪人生であれば、10月末までに数学・物理を旧帝大二次試験レベルの学力まで仕上げつつ、公務員試験対策もしっかりと行うことができ、合格の可能性は高まるだろう。
実際に気象大学校合格者における浪人生(仮面浪人含む)の割合は、一般の大学と比較して高い。
受験のススメ
気象大学校は入学難易度が高いことは間違いない。また、一般の大学受験とは違った難しさもある。
しかし、近年は受験倍率が低下傾向にあること、採用内定辞退者数が高止まりしていることを考えると、一時期と比較すれば入学(採用)難易度は易化していると言っても良いのではないだろうか。
受験日程も一般大学の入試とは被らないことから、地球惑星科学系に興味があり、将来、気象庁で働くことも視野にあるという人は気象大学校受験という選択肢も是非考えてみて欲しい。
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