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「今の自分を書き残しておけ」
11月は見に行くぞーと言っていた映画を、やっと見に行った。
海外文学で一番好きな作家さんの、未完小説の謎に迫るドキュメンタリー。
鑑賞してみていろいろ思うことあるのだけど
情報量が多くて、覚えきれない。
メモしながら見たいくらいの作品だった。
とはいえ、字幕を追いかけるのも必死だったけど。
これは、感想とか、紹介というより、個人的な備忘録になる。
引用も記憶頼りで、不確かだけど書いてみる。
劇場も限られていて、渋谷のBUNKAMURAにあるひっそりとした映画館で見た。
知る人ぞ知る?な作家さんなので、きっとお客さんは少ないんじゃないかな〜、と思っていたら…
満員とは行かないまでも、ソーシャルディスタンスをギリギリ保っているかな?くらいには人が入っていた。
すごい!!やっぱり好きな人は好きなんだ!
少しみくびったことを謝りたくなる。
なんで周りに読んでるが人少ないのか、という疑問はひとまず置いといて。
雑誌記事の切り抜きの展示や、まさかのグッズ販売まであり。
こじんまりしつつも、会場はちょっとワクワクするものがいっぱい〜。
オリジナルグッズがあるなんて聞いてない!
ラスイチだったポーチを買った。
いろいろ売り切れてて、またびっくりする。
こんなことだったら早く来るんだった。
公開前に存在は知っていたのに、なかなか来れなかったのは、何を隠そう、購入した「叶えられた祈り」がなかなか読み進まなかったから。
ほんと、背伸びして難しい本を読もうとするわりに、読む能力はない。
一応、読んでからじゃないと見れない...と考えていたんだけど、どうも読んでいると思考が明後日の方向に行ってしまい内容が少しも入ってこない。
普通におもしろいところもあるんだけど、固有名詞が多すぎて。
誰が誰だかわからなくなることしばしば。
オリエント急行の乗客並みに分からん。それ以上かもしれない。
残すところ、あと20ページくらいのところで時間切れ。
もういい加減にしないと、公開がおわるよ!ということで、諦めて映画を見に行くことにした。
実際鑑賞してみると、これは別に見る前の必読作品じゃなかったような気がしている。むしろ、見てから読んだ方が話の背景がわかるので、おもしろいかもしれない。
内容が本物のゴシップで構成されているので、当時の人間関係とか、社交界のスターを知らなければ、今の人には読んでも衝撃がわからない。
映画のなかの説明を聞いた後の方が、なるほど!というか、かいてることの「やばさ」がわかるかも。
観賞前に見ておきたい作品
もし、いつかみてみようと考えている人がいたら、観賞前に読むべきは、「クリスマスの思い出」かな。
以前紹介した「あるクリスマス」とは相対的な作品で、彼のしあわせな方のクリスマスの記憶が表されている。
トルーマンの子ども時代の心の拠り所だった、スックという人物のことを知っていたら、この映画でも、感動が増すと思う。
あとは、映画「カポーティ」。
これは「冷血」執筆を描いたもの。
カポーティは容姿にしても、話し方にしても、かなり風変わりなのだけど、それを本物そっくりに、いまは亡きシーモア・ホフマンという俳優さんが演じている。演技力を見る点でもおすすめ。
そして、そこで彼が抱えてしまったトラウマがなんだったのか抑えておくといいかもしれない。
孤独だった幼少期
前に記事にも書いたけれど、カポーティの幼少期は決して幸福なものではなかった。それは小説にも反映されている。
でも、小説はあくまでも実話とは書かれていないし、実話に基づくとはいえ、どの程度が空想でどの程度が本当か、わたしには結構曖昧だった。
しかし、映画では、「彼は孤児だった。親に捨てられた子だった。」と、はっきりと述べられている。
彼の仲良しだった年の離れた従兄弟は本当に存在していて、本当にスックという名前だった。顔写真まで出てきて。
「あー、この人が…」
と、妙に感動してしまった。
彼女は精神障害を持っていて、他の家族から厄介に扱われることもあったけれ ど、幼かったカポーティとの時間を大事にしてくれる人だったらしい。
カポーティが終生、愛情に飢えていたこと。
死ぬまでそれに苦しめられていたことは、何度も映画の中で強調されていた。
カポーティの遺品の中には、缶に入った古びたクッキーがある。
スックが作ってくれたものだった。
「クリスマスの思い出」でも、2人はなけなしのお金で、みんなのためにフルーツケーキを作るのだけど、その話を想起させる。
彼はどこに行くのにも、その缶を持ち歩いていて、もう何十年も経っている干からびたクッキーであるにもかかわらず、生涯大事にしていた。
そこに愛情の証を見出していたのは確かだったではないかと思う。すごく泣ける。
ホリー・ゴーライトリーのモデル
ホリーは「ティファニーに朝食を」に出てくる主人公で、上流階級に憧れる高級娼婦。映画では、オードリー・ヘップバーンが演じているけれど、原作とはかなり雰囲気が違う。
ラブストーリーに仕上がってしまったことに、カポーティは激怒していたと言っていた。
もともと、マリリン・モンローに演じてほしかったと聞いたことがあって、当時マリリンはふしだらなイメージの役を嫌厭していたので断ったというエピソードがある。「カメレオンの音楽」には、ティファニーと雰囲気のよく似たマリリンと過ごした時間も記録れされているので、てっきり彼女がモデルだと思っていた。
だけど、モデルは他にいた。彼の母親だった。
上流階級に憧れて、お金持ちなら誰とだって結婚するわ、というホリーはそのまま彼の母親の姿だった。相手を、操縦するのが巧みであるにもかかわらず、いつのまにかいいように利用されているところも共通していた。
母親はそうやって自分のことしか考えない生き方をして、最終的には自殺してしまう。
カポーティは作家として成功し、母親が求めていた地位も、名声も手に入れたけど、母親は彼が同性愛者であることを気に病み、最後まで彼を受け入れることはなかった。
上流階級(ハイソサエティ)とカポーティ
「遠い声、遠い部屋」で名声を手にした後、カポーティは上流階級の社交界の仲間入りをする。
当時のニューヨークには特別な魅力があって、この世界の上流階級にいることは、おおきなステータスだった。
他の土地で有名であっても、ニューヨークで名を馳せなければ意味がない。
これも、当時を知らないとわかりにくい価値観。
たしかに、ニューヨークはいろんな人が特別な街として歌にもしてるよね。
夢を追いかけるというところでは同じだけど、ハリウッドとはまた違う品格があるんだろうなー。
カポーティは話のうまさと、ユニークさで一躍人気者になる。
いろんな人が、ゴシップを彼に明かした。
彼はある種の隔離社会に生きる人々にとっては、退屈を紛らわせてくれる
楽しい存在だった。
けれども、品行方正とは言い難い下品な面も持っていた。お酒もドラックもやった。
誰もが会いたいというけれど、会ったら二度と会いたくない人物とまで言われている。
名声が頂点に達すると、黒と白の舞踏会という、世紀の仮面パーティを主催。この行いはベトナム戦争の悲惨さを嘆く世相にマッチせず、批判を浴びた。
一時的に彼は充足感と、愛されている満足感を得る。
たくさんの人に好かれる喜び。
けれども、母親と同じ性質を持ち合わせてもいた。
叶えられた祈りが発表されると、上流階級の人々は手懐けていた犬にかまれた!というような反応を見せる。
彼は都合よく面白がられていただけだったことに深く傷ついた。
僕はフリーク(奇人)だから、みんなは会うとギョッとする。
その緊張を和らげるために、道化を演じるんだよ。
そうしたら、相手は笑うしかなくなる。
面白がってはくれるが、愛してはくれない。
私の狭い見識の中で申し訳ないんだけど、ここすごく太宰治の人間失格っぽい…。というか、実体験をストレートに小説に投影するところも、この2人は性質的に似てると思っちゃうの私だけかな。
ちなみに、カポーティ作品には日本のことが結構登場する。日本に来たこともあって、三島由紀夫に会ったこともあるそうな。
何話したんだろう。三島由紀夫読んだことない←
あと、パーティをしている時だけ人が集まり、うわべだけの繋がりを見せつけられて、最終的に出自で切り捨てられるのは、グレート・ギャツビーぽくもあると思う...。リアル。
冷血のトラウマ
一家惨殺事件のノンフィクションノベルの執筆で大成功を収めたカポーティ。執筆には6年もの歳月がかかっている。
当時、これは新ジャンルで、革新的な作品となった。
けれども、この本を作るためにカポーティはトラウマを抱える。犯人の2人のうちの1人、ペリー・スミスと親密な仲になってしまった。
殺人犯ではあるけれど、彼の生い立ちが、自分と同じように愛情に飢えたものであることに、ひどく共鳴してしまったから。
この映画では参照されないけれど、彼が残した言葉にこういうものがある。
「例えるならば、彼と僕は一緒に育ったが、ある日彼は裏口から出ていき、僕は表玄関から出た。」
十分な愛情を受けずに育ち、強烈な孤独を抱えたまま大人になると人はどうなるのか。
人の痛みに敏感になれる人もいれば、世の中を恨むようになることもある。そうなった場合には、殺人だって犯してしまうかもしれない。
現実の悲惨な事件を見ていてもほとんどの場合、その背景には複雑な家庭環境がある場合が多い。
そういう存在と、自分は紙一重だということに、カポーティは気がついてしまったのだと思う。彼を表玄関から出してくれたのは、スックの愛情だと思うのだけれど、自分のあったかもしれない姿を、ペリーに投影してしまったのかもしれない。
と、同時に衝撃的なのは、彼が犯人たちと懇意にしながらも、作品の完結のために、裁判所に死刑の執行を何度も手紙で要求していたことだ。
彼らが死刑とならなければ、作品が完成しない。
「冷血」というタイトルは、殺人犯の冷酷な所業だけでなく、自身の、作品の完成のためなら何でもする、という人らしからぬあり方も指していると言われている。
無垢で温かい話を書く一方、「冷血」こそが自分の姿だとも言っていた。
本は大成功を収めたが、彼は一時廃人のようになってしまった。
叶えられた祈り
上流階級の頽廃を暴くとして、この作品の一部を発表した途端にカポーティの元からは、友達は去っていった。
自分は作家だし、何でも書く。彼らと対等だと思っていたのに。
と言うけれど、誰も理解をしめさなかった。
映画ではこれはリアリティショーの先駆けになった作品だ、と言っている。
当時は社交界の噂なんてほとんど世間には聞こえてこなかったらしい。
読む人が読めば、名前を変えていても全部誰のことかわかる。
「何てことを!!」と怒り狂うセレブたちだったけれど、世間からすると、こんなこと本当にあるの??って感じなので、知らん顔して黙っていれば済む話。まともに反撃したものだから、ますます本当のこととして受け入れられていく。
強盗と間違えて夫を銃で撃ち殺したあの人。
間違えたというけれど、そんなわけないじゃないか。
みたいなことを書かれたある1人の女性は、その後いたたまれなくなって自殺してしまったらしい。
映画のなかでは、文学が罪を暴き、成敗した、と言う。
かつて自分が憧れていたキラキラしたものの中の本当の姿、汚さを描くことで彼が何を言いたかったのか。
直感ではすごいってわかるんだけど、なかなか言葉にならない。
みんながゴシップを提供してくれるのは、自分におもしろい小説を書いて欲しいからだとでも、思っていたのかな...。
それを書いてしまった心理も、スパッと見抜けるものではなかった。
ただ小説内では、貧しいものには優しく、富めるものには厳しい目が向けられている。
カポーティはハイソサエティを追われて、低層のクラブの世界に降りてくる。当時スタジオ54が大盛り上がり。
そこには歌手だったり、芸術家だったり、またいろんな人がいるのだけれど、そこでも彼は大歓迎された。
特にアンディ・ウォーホルは彼のことが大好きだった。
カポーティはこの喧騒を楽しみながらも、これがドラッグに溺れていくきっかけになった。叶えられた祈りの完成を見ることなく、突然59歳でこの世をさってしまう。
今の自分を書き残しておけ
カポーティには養女がいる。初めて知った。
変わった性格ではあったけど、今この時に何を経験させてあげたらいいかとか、よく考えながら暖かく育ててくれたらしい。
彼女は「私と暮らすのなら、今の自分をを書き残しておきなさい」という助言を彼からもらう。そうする理由は...
「生きていると、自分が何者であったかを見失う。それを忘れないためだよ。」
この養女の方、自分のお父さんがカポーティと恋人になってしまうという、見てても複雑すぎてなかなかすんなり飲み込めない関係性なんだけど。
お父さんが暴力を振るうとか、酒癖が悪いとかで、生活も苦しい中、カポーティが助けてくれてたそう。
インタビューも全然暗いところがなくて、彼にもすごく感謝していると言っていた。毎日自分のことをノートに書きなさいといって、よく一緒に書き物をしていたらしい。カポーティは愛情に飢えていたけど、与えることはできていたんだな、とか思い至って。
清廉潔白な人生じゃなかったとしても、不器用でも、素晴らしいなと思う。
そして言葉にぐっとくる。
単純にこういうnoteを書いてても、色々読み返すと忘れていることはたくさんあって、小さいことでも、大きなことでも。その通りなんだよね。
孤独が大きかったと思うけど、迷いながらも人生に立ち向かって生き抜いたことは素晴らしい。かわいそうな人という印象も強かったけど、彼はタフだったという見方をこの映画は教えてくれた気がする。
「叶えられた祈り」の残りの原稿が、どこかに眠っていると信じている人は多い。金庫の鍵があるけれど、どこの貸金庫の鍵かが判明していないらしい。ほんとかな???
でも、彼が一生懸命に何かを書いていたのを目撃した人が結構いる。
いつか見つかる日が来るのだろうか。
終わった後、エンドロールで、誰一人として立ち上がらない映画も初めてだった。拍手が起こった映画は経験があるけど。
みんな、何かに浸ってるみたいだった。
不思議な連帯感があって。
本当に心からこの人の作品が好きな人たちなのかもしれないと思った。
見れてよかった映画だった。