Animoca Brandsは「Web3の思想的指導者になる」 Evan Auyangグループプレジデント【Web3の顔】


AnimocaBrandsのEvan Auyangグループプレジデント


香港のブロックチェーン企業Animoca Brands(アニモカブランズ)は、日本では「NFTゲーム会社」や人気NFTゲーム「The Sandbox」の親会社として知られる。AnimocaBrandsの実態はどのようなものなのだろうか。NFTに関する世界最大規模のイベント「NFT.NYC2022」に出席したEvan Auyangグループ・プレジデントに、どんなWeb3の世界を目指しているのか聞いた。                      

――世界のWeb3企業が Animoca Brands と手を組みたいと望んでいますが、 Animoca Brandsは一体どんな企業なのでしょうか。

 Animoca Brandsは、ブロックチェーンを通して、真のデジタル資産のオーナーシップを実現するという使命を持った企業です。Web3とメタバースは、ユーザーが持つ資産の真の権利に基づいた世界を生み出していきます。ブロックチェーン上では、人々が買ったり、作ったりするものが実際に資産となります。そして、その資産をNFTに、言い換えるとトークン化して、バーチャル経済の中に組み込んでいく、オープンなWeb3を目指しているのです。

現在のソーシャルメディアを中心としたWeb2は、(旧Facebookの)Metaなどが利用者のデータを保有しています。いわゆるクローズなメタバースの世界に、そのデータを移行できると彼らは信じています。 Animoca Brandsは、そんなことが起きてほしくないと願っています。

■Web3の世界で「我々は独占しない」

―― Animoca Brandsは、Web3の世界で、GoogleやMetaのような存在になりますか。

そう願っています。ただし、私たちは、支配や独占をしないという全く異なる哲学のもとに実現したいのです。

Web2のGoogleやMeta、Microsoftといった巨人にとって、データは鉱山や石油の掘削場みたいなものです。掘っては集めて、シェアしません。『いいね!』や推奨機能でデータを集め、それを利用して広告や商品、サービスといった形でマネタイズします。人々は毎日のようにセルフィーを撮ってシェアして、それは個人の資産になるべきなのに、ディストリビューションは巨人に握られてしまっています。世界中の私たち一人一人がクリエーターなのに、巨人らが不当にディストリビューションを保有しているのです。だから、彼らは伝統的な銀行のように利益を吸い上げ、世界で最も時価総額が高い価値ある企業に成長できました。

Animoca Brandsは、彼らとは違います。私たちは、個人の資産と権利がWeb3上でつながり合うように、他の企業に投資して支援したいのです。影響力は持ちたいですが、独占はしません。コミュニティーがより良くなるような”思想的指導者“になりたいのです。人々がメタバースの世界で長い時間を過ごすようになると、多くの資産や知的財産(IP)が生み出されます。なぜなら、私たちはみなクリエーターなのだから。何か書いたり、意見を言ったりと常にクリエートしていて、それがわずか2人、つまりあなたと私の間で大事なものだったとしたら、なぜ巨人のプラットフォーマーたちがそれを所有しなければならないのでしょう。そうならないように、ブロックチェーンが存在するのです。私たちはそこで思想的指導者となり、すべての人のために業界のパイを大きくしていきたいのです。

■Web2界の人々は「分散型を恐れる」



――NFTの現状について教えていただけますか。NFT.NYC2022に集まった人たちは、NFTのアーリー・アダプター(先取りしている人々)だといわれています。

それは事実だと思います。約50億人の人がインターネットを使ってつながり合っているのに、デジタルスペースにおけるウォレットは8000万しかありません。そのうち実際にNFTを持っているのは3000万ぐらいです。現在、マーケットはとても小さいといえます。暗号資産のマーケットも変動しやすいです。

ただ、NFT.NYC2022の会場を見ると、活発な雰囲気に驚かされます。人々は今も、メタバースの世界を築いているのです。成長カーブを想像してみてください。今はまだ先駆けの人しかいなくて、曲線がフラットです。ただ少しずつ、多くの人が集い、経験を積み重ねていくと、ある時点から急速に右肩上がりのカーブになるでしょう。ひょっとしたら成長率は、2~3年以内に100パーセントなどという数字ではないにしろ、20~30パーセントといった2桁のものになるかもしれません。

現在は、管理者がいない分散型のウォレットをセットアップするのは難しいことです。異なるサイトにいって、異なる(暗号)資産を持つという作業は、利用者にとって面倒です。でも、今これだけの注目を浴びて、資本も投下され、起業家もたくさんいるという状況では、必ずやソリューションが生まれてくると思います。

――Web3の将来が見えてきている最中、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が6月21日、「NFTは100パーセント大バカ理論に基づいている」と発言していました。

現在の中央集権的な(Web2の)世界は、誰かが決断や判断を下すことで成立してきました。だから、人々は、分散型を恐れる傾向があります。分散型は、一人一人が自分で統治していかなければならず、究極的には壮大な実験でしょう。今は8000万ウォレットしかありませんが、実験は繰り返していかなければなりません。起業精神を持って、そこから何かを得ていくのです。そこで何かのオーナーシップを得るということは、とてもとてもリアルな体験です。だから人々に、何度も実験する環境を提供するのです。幾度かは失敗もあるでしょう。成功はその後に訪れます。

■ 日本のIPの歴史と誇り、拡大させたい

―― Animoca Brandsは2021年10月に日本法人を設立しました。講談社や西日本鉄道、三井住友信託銀行などからファンドを通じて資金を調達しています。日本のマーケットで何に注目していますか。

彼ら(日本のAnimoca Brands株式会社)はまだとても若い会社ですが、日本のIP(ホルダー)との関係づくりで目覚ましい動きをしています。

私は香港出身ですが、母親に日本人かも、と言われるほど、日本のIPとともに育ってきました。どこに行ってもお寿司屋を探すし、漫画とともに育ったし、私の子供たちも私と同じように『ドラえもん』と一緒に成長しています。日本は深みのある文化を持ち、日本のIPも豊かな歴史を持っています。日本のIPファンは高齢者を含めて層が厚く、しかも離れていきません。また、日本の企業の伝統的なもの作りは独自で、一社ごとに異なる企業文化で支えられています。日本の企業が作るものは、まるでスイス時計のSwitchみたいです。少数生産で、精巧だからこそ値段は高くなります。だから2次マーケットでもさらに価値が高まり、値段が高くなるのです。

Animoca Brandsは世界中にルートを持っていますから、日本のIPの資産と歴史、誇りを拡大させるお手伝いをしたいのです。それによって、日本国内で雇用を生むなり、あるいはコミュニティーを形成するなりして内需を高めるのにも協力したいのです。

――日本も含めてですが、 Animoca Brandsは香港の企業であるにもかかわらず、なぜ世界中の有望な企業を見つけて、素早く投資することができるのですか。



現在、世界中の340社に投資しています。この数字はかなりの速度で達成しました。それは、私たちのネットワークとブランドに加え、創業者兼最高経営責任者(CEO)のYat・Siu(ヤット・シュウ)が、Web3のスペースで際立った存在だからです。また、私たちは投資の際、常にWin-Winの関係を考えています。企業を支援する際は、資金かそれとも専門知識なのか、もっと広い意味でどうお手伝いできるのか、常に気配りしています。さらに、Web3のスペースはまだ大きくはなく始まったばかりですから、優れたプロジェクトがあると大体、私たちのアンテナに引っかかってきます。

私たちは、自分たちで何かを独占せずに成長しているので、企業や人々が、まだプロジェクトが模索中でも私たちのところに来ます。多くはシード段階の企業ですから、私たちの哲学と創業者の哲学が同じで、プロジェクトが優れたものであれば、チャンスを与えて支援したいのです。

――話は変わりますが、最近よく聞くマルチバース(multiverse)という言葉について、教えてください。

メタバースは、オンライン上のスペースのことですね。そこに人が集まり、いろんなことができて、取引もあります。私たちは、メタバースで起きていても、リアルな取引になると思っています。FacebookマネーとかMicrosoftマネーといったものは存在していませんよね。私たちは、本物の金銭的な価値をメタバースで育てたいと思っています。

それがマルチバースに広がっていきます。マルチバースは、リアルに起きているイベントのことです。会員制で、例えばNFTで持っている猿とかミュータントがあれば、イベントに参加できます。人々はリアルなイベントに来ますが、番号で呼び合ったりして、コミュニティーが形成され、さらにリアルなコンサートに行けたり、割引価格でオンライン上のアバターの洋服を買ったりするのです。リアルな世界とバーチャルな世界の境界が、ぼやけたものになって、自分の資産をどちらにも移せたりできる。それが進めば、とてもパワフルな現象になります。

■リアルとバーチャルのつながり、意味ある権利もたらす

――NFT.NYC2022の初日のメインイベントで、「デジタル・アイデンティティー」という概念が紹介されました。オンライン上に集めた個人のデータで、リアルな買い物ができたりするという内容でした。

 Animoca Brandsは、リアルな世界とバーチャルな世界の間につながりがあって、それがもっと意味のある権利を人々にもたらすと考えています。将来のアイデンティティーというのは、今までとは異なる表現の仕方があると思います。今のリアルな生活でも、私は家に帰れば、妻にとっては夫だし、日曜日には家族のために運転係にもなりますが、30年来の知己に会うときや、会社で人に会い企業価値を高めようとする際は、異なる自分であるわけです。

将来のデジタルなアイデンティティーも同様に、自分をどう表現したいかという許可(permission)形式で形成できると思います。異なるアイデンティティーがどう機能できるのか試してみて、もしそれで良いと思ったら、そこに真の意味を与えていけばいいのだと思います。

津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。