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(21)玉ねぎ

  九月二十四日

 玉ねぎって、ぐつぐつじっくり煮ると、形がなくなって、甘くなって、柔らかくなって、尖っていた味が丸くなって、美味しい野菜の出汁が出る。主役にならないけれど、居ないとだめ。どんな食材とも、たいてい喧嘩せずに共存出来る。いいなあ。玉ねぎ。すごいなあ。

 私を煮込んだらどうなるかな。私も甘くなれるかな。玉ねぎみたいに甘く。柔らかく。でも、主役になれないのは、やだな。形がなくなっちゃうのもやだな。なんか、大人になるって、玉ねぎを煮込むのと似てるのかなあって思ったり。もしそうだとしたら、私は大人になり損ねて良かった。
 
 パクチーでもみょうがでもふきのとうでもいい。尖っていても、スパイスだとしても、他の食材と大喧嘩しても、共存できなくてもいい。好きな人には刺さる私だけの味を出して、主役の座を勝手にとりあげる忘れられないものになりたい。

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