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(16)エピローグ(仮)
九月十六日
もう全て終わった話だから、心の中で言わせてもらう。本当は、何も考えずに愛したかった。好きだから好きなんだと言いたかった。ためらいもなく、大好きなんだと伝えたかった。思う存分甘えたかった。強がらずに、帰りたくない、離れたくないってわがまま言いたかった。地元のイオンのゲーセンで、おっきなぬいぐるみを取ってもらったこと。綺麗じゃないけど気前のいいおじさんのいる温泉の家族風呂で、ふたりではしゃいだこと。真夜中に私を拉致してヤンキーがたむろする山奥の夜景を見に連れていってくれたこと。焼き鳥屋さんで貴方がスーツの袖を汚して、私がそれを嗅いで「くさい」と笑ったこと。ほんとは全部、みんなに自慢したかった。もっともっとあなたのことが知りたかった。重いと言われるまで尽くしてみたかった。こんな弱い自分を見たら貴方はどう思ったかな。嫌われていたかな。そんな自分もきっと貴方なら受け止めてくれたのかな。
最後の日に、私たちが出会った喫茶店に行こうとあなたが言ったのは偶然なのかな。
ワイルドスピードのガチャガチャを回して、「欲しいやつが出た!」と笑う貴方の横で、心の底から「よかったね」って笑い返した。その一瞬だけ、私はなんでガチャガチャに生まれてこなかったのかと後悔した。その時にはもう、今日がさよならだって決心をしていた。
あなたとさよならした後の楽しみはワイルドスピードを見ること、になった。