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(14)セミ

 九月一日

セミが静まった。コオロギの声が聞こえる。あんだけうるさかったセミが居なくなると、嫌でもその存在を思ってしまう。セミは短命だが、セミの声が聞こえなくなったあとに、私たちのこの夏は、この夏しかなかったことに気付く。

秋が来て、冬が来て、春が来て、また次の夏が来ても、この夏のセミの声を、私は忘れない。私ぐらいは、忘れないでいてあげる。

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