海外ロックフェス参戦記5
ユーライアヒープの演奏中、中座したイギリスのファンがビールのパイントカップを抱えて戻って来た。入れ違いにイスラエルのファンが、ホットドッグとサンドイッチを買ってくる。二人とも私からのお金はいらないと言い、初めてのフェス飯は彼らの厚意に甘えることになった。
出来立てのホットドックを頬ばり、スポンサーでもあるデンマークのピルスナーののど越し、粒マスタードとソーセージをオープンエアで名曲Stealin’を聴きながら、味わう。これこそフェスの醍醐味だ。
イスラエルのファンが
「僕は日本のサッポロのビールはおいしいと思う」と話しかけてきた。
「驚いた。サッポロビールはシェアこそ高くないけど、ビール通に愛されている。日本ではイギリスみたいなエールじゃなくて、ラガーを飲む」
早くも2杯目に突入したイギリスのファンも、赤い顔でビール談議に相槌を打っている。どうやら海外でのサッポロ人気は本物のようだ。
ボランティアが会場を歩き回っていて、飲み干すタイミングにすかさずカップの回収に来る。捨てられたものも拾い、高く積み重ねたカップを手に張り切っている。感心して見ていたところ、個数をまとめるとビールと交換してくれるという。ゴミは出ないし、お金がない若い世代はビールにありつけるし、上手い仕組みだと思った。
食べ終わったタイミングで雨が降り始め、レインポンチョを広げる。
イギリスのファンは気象観測の仕事をしている。
「この後の天気の見立ては?」
「そもそもイギリスの天気は1日で1年の四季が味わえるくらい、目まぐるしく変わる。雨が降って日が差して、そのあと雨が降って日が差す、と言っておけば外れないね。それが俺の仕事さ」
全員で爆笑した。
ラストは名曲Easy Livingだった。
フェスは持ち時間が限られセットリストが絞られるが、ベテランバンドは逆に名曲の目白押しになる。来日の見込めそうもない往年のバンドを名曲厳選で、生で楽しめる、サブステージの楽しみ方を彼らに教えてもらえたのは幸運だった。
ユーライアヒープのステージが終わった。
「日本のバンドで“少年ナイフ”っていうのが、いるだろう?
レミーと親しくて、彼の曲を作っているよ」
少年ナイフがMotorheadと同じスリーピースのバンドなのは知っていたが、レミーとのつながりは初耳だった。日本のガールズバンドがVOWWOWと同じように海外で、しかもレミーに認められている。その健闘をすがすがしく思うとともに、レミーの懐の深さを感じた。翌日のMotorheadのライブがさらに待ち遠しくなった。
この数年後、ロサンゼルス、そして再び戻ったドニントンにて、別の意味でレミーの存在の大きさを知ることになるのだが、今は先を急ぐまい。
ステージにEuropeのメンバーが登場した。
30周年の記念ツアーだそうで、デビュー当時のオリジナルメンバーが揃い、歓声を受けている。私は新宿ツバキハウスで、初めてSeven Doors Hotelを聞いた時を思い出した。
風を模したシンセサイザーのホワイトノイズに抒情感あふれるピアノがかぶさると、いきなりドラムとギターが切り込んでくる、序破急の効いたイントロに一発で心を掴まれた。
DJの伊藤政則氏は海外からメジャーデビュー前のバンドの音源を取り寄せ、いち早くツバキハウスで掛けるとともに、試金石としてツバキに集う耳の肥えたファンの反応を窺っていたそうだ。取り寄せた中に偶然彼らのアルバムがあり、特にSeven Doors Hotelに惚れ込んで、推し曲として掛け続けていたという。
そんな経緯で出会い惹かれたバンドの30周年ライブを、ドニントンで拝める、感慨はひとしおだった。ラストのFinal Count Downではドニントンのオーディエンスは歌のないシンフォニックなフレーズまで、大合唱しジャンプしている。Seven Doors Hotelはセットリストに入っていなかったが、大満足だった。
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