海外ロックフェス参戦記7
Trooper Beer
ボトルを手に三人で乾杯し、直飲みでTrooperを口にした。
エール独特のコクの深い苦みと逆説的な甘み、弱めの炭酸が喉を過ぎた後の鼻に抜けるフルーティーな香りが印象的だ。イギリスではエールは冷やさず飲むが、この奥深さを味わうがための習慣かと合点がいった。
2杯目を調達に行くと先程の店員がお代わりへのプレゼントで、Trooperビールのコースターをくれた。パイントカップと合わせ、いいお土産になる、小瓶も捨てずに大切にしまった。仲間たちはきっと喜んでくれるだろう。
物販ゾーンの奥はアトラクションゾーンとなっていて、移動遊園地の乗り物が遠目に見える。物販ゾーン上空を一気に滑走する空中アトラクションZip Lineがあり、“勇者”が挑む度、歓声とプラスティックのTrooperボトルの“祝福攻撃”が沸き起こる。
イスラエルのファンもイギリスのファンも歓声を上げて、はしゃいでいる。楽しそうなので翌日にでもトライしようと眺めていたところ、滑車の不調で宙づりに止まるアクシデントが目の前で起こった。取りやめることにした。
KORN
メインステージゾーンは巨大で、後方にも巨大スクリーンとスピーカーが設置されている。過去、Rainbow始め伝説のライブが行われた場所だけに、聳えるメインステージの存在感は特別に感じられた。
天気は好転した状態が続いているが、サブステージや物販ゾーンより下った場所にあるため、水はけが悪く泥でぬかるんでいて歩くのに細心の注意がいる。初日の肩慣らしとして、後方で会場全体を見渡す場所に陣取ることにした。メインアクトのSlipknotまで2バンドあるが、広大なフィールドはすでにオーディエンスでぎっしり埋まっていた。
印象的な不協和音とともにKornのステージが始まった。
バンド名のバックドロップだけ、簡素なステージで気負いもないのに、陰鬱なダークさが漂ってくる。独特のグルーヴに身体ごと巻き込まれ、波打つ会場全体のノリにいつの間にか同化させられてしまう。セットリスト各曲は個性が際立ち主張がある上、影のような暗い通奏低音に目が離せない。
中盤、シンガーがいきなりバグパイプを抱えて現れた。伝統楽器の長いワントーンがフィールドを超えて、遠景のイングランドの自然の中へ響いていく、とドラムとローチューニングのリフが重低音で攻め入ってくる。意外な取り合わせに虚を突かれたが、バンドサウンドにはマッチしていて、不思議な土着感がクセになる。予習も無くバンドの背景も知らない初見のステージで、Korn独自の世界に嵌められた。
ステージが終わり、茫然と、しかしその想定外を好感する自分がいた。
ぬかるみの中で、スニーカーは泥だらけになっている。
Kornの後はBullet for Vallentain、そしてメインアクトのSlipknotと続く。イスラエルのファンは前の方でSlipknotを見ると言って、混雑するフィールドを進んでいった。
初日、ロストバゲージ騒動で諦めた“聖地訪問”は、明日午前中しか決行の余地がない。考えあぐねた末、残ったイギリスのファンに引き上げたい事情を打ち明けた。
「事情は分かった。それじゃあ、タクシー乗り場まで一緒に行こう。他のスタンドなら、買いそびれたMotorheadのシャツがあるかもしれない。ついでだから、構わないよ」
最初に初参戦で不案内だ、と伝えたことを覚えていて、しかも恐縮させまいとしている。レミーさながらの厳つい見てくれの下に、さりげない気づかいの心が隠れている。胸があつくなった。
ホテルに戻ると、どっと疲れが出てきた。明日は“聖地訪問”、MotorheadにいよいよMaidenのステージ。今日以上に盛りだくさんになる。軽食をとった後、体力を温存しようと、私は早々にベッドに潜り込んだ。
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