海外ロックフェス参戦記6
Dragon Force
Europeの次はDragon Forceが登場した。なるほど、イギリスとイスラエルのファン両人が口を揃えて、見るべきと言うだけあってスピード感溢れ、キレがいい。香港出身のHerman Liが黒髪を靡かせアクション豊かに速弾きする様は、確かにこの距離からだと“イケメン”だ!引き込まれる。
Dragon Force はWhitesnakeと同じツインギターに鍵盤という編成で、ユニークなことに鍵盤が水平でなく前下がりでセッティングされていて、演奏中のグリッサンドや速弾きがオーディエンスから見やすい。鍵盤パートのバンドサウンドへの貢献、アクションの醍醐味もより伝わり、ステージでの鍵盤の存在が格段に増す。
ともすればステージ下手に鎮座しがちな鍵盤に、いかに存在感を持たせるか、往年の鍵盤弾き達は知恵を絞ってきた。
アナログ時代、例えばキース エマーソンは巨大なMoogシンセサイザー(通称タンス)で装置仕掛けの存在感を示しつつ、ナイフを刺したり空中で弾いたりと外連味たっぷりに演奏したし、リック ウェイクマンは、もちろんアナログ時代ゆえの必要性はあったろうけど、あまたの鍵盤でぐるりと周囲に要塞を築き、複数台を捌く見栄えを計算しケープの衣装を纏っていた。
ハモンドオルガンメインのジョン ロード御大だって、あの重い躯体を揺すり発するノイズ音とアクションで、設置楽器ゆえにフロントに出られない代わりの見せ場を作ってきた。操る手と楽器とのタッチポイント(接触点)の見える、見えないが、意外にもライブ演奏の存在感に関わる、厚見玲依さんの使ったようなギター風のショルダーキーボードが今一つ普及しない中、新しい発見だった。
名曲を厳選した往年のバンドも出れば、中堅も新人も出る、これもサブステージならではの楽しみで、またひとつ二人のファンから教わったわけだ。
名残惜しくもDragon Forceのステージが数曲で終わり、私たちは示し合わせメインステージへ移動することにした。
雨は上がり日が差して、イギリスのファンが予報通りの空模様だ。やがて雨が降りまた日が差すのだろう。低く垂れこめる雲が西から流れ続け、合間から日が差し、初夏の東京とは違うひんやりした、けれど雨でも少しの湿り気のない空気感がイギリスらしい。
屋台や物販の並ぶゾーンは、サブステージからメインステージ方面に向かってなだらかな傾斜に集まっている。高台のサブステージから流れ込んだ雨水でぬかるみとなり、人通りで踏み固められた牧草が発酵し、独特の匂いがする。Patrickのスニーカーは次第に泥ハネで貫録が付いてきた。
グッズのブースは巨大フェスだけあって、多くのバンドシャツのサンプルが吊るされ、何列にも係員が待ち構え次々注文を捌いている。日本で待つ仲間たちへのお土産のシャツ、明日のMaiden用と何枚もシャツを仕入れたが、クレジットカードが使えるので便利だ。イギリスのファンはMotorheadのお目当てのデザインが売り切れで、がっかりしている。
と、イスラエルのファンが声をあげた。指す先にはIron MaidenのオリジナルビールTrooperのテントがあった。フェスに先立ち、代表曲Trooperの名を冠したオリジナルビールの発売、会場での販売が発表され、私たちもピルスナーを飲みながら、Trooperビールはどこで買えるのか噂し合っていたが、ついに見つけた!三人小走りに駆け寄り、早速注文する。レギュラーのガラス瓶でなく、フェス用に誂えたプラスティックボトルで通常品よりひとまわり小さい。
「これまでのお礼もある、ここはMaidenファンの番だ」
と、代金を払うと、店員がTrooperビールオリジナルのパイントカップをくれた。まとめ買いへのプレゼントだそうで、奢りの役得を二人から冷やかされた。彼らもまだ飲んだことのないTrooperビール、期待は高まる。
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