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相談に乗る時の禁句②
前回は心理学者マズローの研究を紹介しました。女性を「たった一人の個人」と見ないで、「女性」というカテゴリーでだけ見て寄ってくる男性に失望するという研究結果でした(Abraham H. Maslow and Diaz-Guerrero, R. Juvenile delinquency as a value disturbance, in Peatman, J., and Hartley, E. (eds.). Festschrift for Gardner Murphy. Harper, 1960)。
これが何で相談に乗る時の禁句のヒントになるのか?人は誰かに相談する時、カテゴリーの問題ではなくて、「たった一人の個人である私」の問題として耳を傾けてほしいからです。
その典型が後輩や部下の相談に乗った時についつい口から出てしまうセリフ。「こういう問題はね、新人の時には誰でも経験するんだよ」。言ってましたね、私。ガンガン言っていました。
自分が打ち明けた問題が「新人」というカテゴリーの問題にすり替わるわけです。「新人のカテゴリーに入る人なら誰でも経験するんだよ」、こういうメッセージが相手に伝わるわけです。
「若い時は誰だってそうだよ」。これも言いましたね、私。「あっ、それ失恋アルアル」。う~ん、言ったかもしれない。「え、それ発達障害かも」、「ピーターパン症候群?」などなど。
事実としては確かに間違っていないんです。若いなら誰でも経験するパターンはあります。失恋したらやっちゃうこと、思っちゃうこともあります。でも、それを相手に言ってしまうと、女性なら誰でもいい男性に言い寄られた時に感じる同じカテゴリー感を相手も覚えるわけです。
人は「私」が感じていることを聞いて欲しい、「私」が経験したことを理解してほしいんですね。似ていても同じではないユニークで唯一無二の話として聞いて欲しい訳です。私もそうですけど。たぶん、みなさんも。
という訳で、相談に乗る時の禁句はカテゴリー臭が漂う言葉です。まあ、もちろん頭に浮かびますよ。「新婚の時って誰でもそうなんだよね・・」。浮かびます。自然に浮かぶものはしょうがない。でも口に出さない方が無難。
「自分の昔の経験に似ているけど、唯一無二、人類史上初の経験を語ってくれているんだ」と自分に言い聞かせて耳を傾けてあげるわけです。まあ、考えてみれば、同じ問題を経験しても感じ方は個人個人で違うわけで、その人と同じ感じ方は絶対できませんからね。感じ方が違えば問題が違います。
カテゴリーにはめて人の話を聞くと、「女性」というカテゴリーだけで相手に接して、唯一無二のその人が感じられなくなるのと同じなんでしょうね。