見出し画像

Movie

★岩谷さんの原稿を橘川が代行入力しています

Movie

Movie(movie)は動詞のmove(動く)を名詞化した大衆的な俗語で、元々は「動く絵」という意味だ。それがのちの「映画」を意味する俗語「movie」を意味する名詞として独り歩きしてくる経過については、中でもとくに英語のmovieについては、言葉の発端とその社会的な位(くらい、イメージ)の変化...脱俗語化...に関する記述が、いまだに漠然&雑然としている。英語の古い言葉のように、ギリシア語やラテン語や中世ヨーロッパ語などの中に、簡単に語源を見つけるわけにいきません。

そこで、大体の感触としては、まず、“動く絵”とは何だったか? それは当時の子どもたちにとって当然、本のページの下の方の隅っこに動画の各駒を描いていく「パラパラ漫画」のことだったでしょう。そこから、新たに登場した技術、動く絵の英語バージョンである「Movie」という呼び名が生まれたものと思われます。

そして、この“動く絵”の飽きないおもしろさは、実物の人間や俳優にはできない、途方もない動きを実現できたことです。つまり、動く絵であるmovieにおいては、空を飛ぶ人間でも、飛んでくる銃弾を手のひらで止めても、なんでも実現できます。商業化の端緒においては、もう本のページの片隅は卒業して、各駒は多数のセルロイド片に描かれていた(そして、従来の紙芝居などに代わって子どもたちに喜ばれた)と思われますが、中でもいちばん喜ばれたのは「途方もない動き」の実現だったと思われます。

それらはいずれも、簡単なトリックです。たとえば最初の方の駒で人間がしゃがむところを映し、次の駒では、その人間が大木の枝のてっぺんにまたがっているところを映せば、「高い木に一瞬で飛び乗った悪漢」を見せることができます。さらにその次の駒では、隣の大木の高い枝から悪漢のいる枝に飛び移る正義の士を登場させられます。

映画とは要するに、そんな視覚トリックの集大成です。だから、子ども心に楽しい、面白い。

毎日曜日に親から小銭をもらって近くの映画館でひまつぶしをしていた私にとっても、楽しいのは当時の時代劇スター嵐寛寿郎らが演ずる、正義の士、鞍馬天狗などの、視覚的にたいへん誇張の多い大活躍です。

ストーリーや演技なんて、最初からどーでもえーのどす。

えー、ですから、当時の映画といえば、すべてのタネをバラマキで見せる「映画であることそのもの」が、この新時代の紙芝居の『おもしろ価値」そのものです。人びとは、映画館へ行って、映画そのものをみる。その中の仕掛けを楽しむ。

で、わたしがこの小論で申し上げたいのは、いつごろから、そして、どうして、映画館は「映画そのもの」を見せることをやめたのか。今やほとんど、まじめな演劇、ドラマになっちゃつてる。

今のほとんどの映画は、映画ではなく、「映画でなにかを」見せようとしている。その何かは、何かであろうとする努力によって、圧倒的にうっとおしいものへと変身している。

映画の映画たるルーツが、つねに隠蔽されている。ドラマを載せるメディアへの退化。

だいたいどんな映画を見ても“寒い”のは、制作の側から視聴の側に至るまで、どこにもコミュニケーションの現場感覚がゼロだから。子どもを楽しませてやろう、といった原始的な人情もない。観客の方を向いてない。観客とコミしてないし、制作陣出演陣も演技はするがコミュニケーションしない。

なんか、“意味有りげな映画”ってやつが多すぎるし、したがって全体として寒い。画面に映っている人たちも、また裏方さんも、人間としてこっちに迫ってこない。なんと虚しいものを見てるのだろう!! しかも、もっともらしげに賞を競うなんて、気色悪いよ。

今、映画館のスクリーンで「横」に流れる物(人)たちよ、同じ時間に、「縦」に、こっちに向かってコミコミしてみろよ! 繰り返しになるけど、映画って、そもそもの出自は、ストーリーのための容器という下位身分じゃないだろ。

映画制作者たちが、古い意味でのゲージツカ扱いされたのも、致命的。

そして、観客と呼ばれる人たち、そんな身分の保証はないのに。

子どもが見て、楽しかったりしたものが。いつ、どうやって、ここまで干からび、しかもアホみたいに珍重されて...。

とっくに腐敗して干からびているものを、ありがたげに祀るから、映画は社会現象としてもますます気持ち悪くなる。あらためて、コミュニケーションする動的メディアの墓場からの復活を!。


ここから先は

0字
岩谷宏の、過去から現在のテキストを公開していきます。 岩谷宏・著作/翻訳本 https://onl.la/8S4gsmi 岩谷宏の70年代のロック訳詞を歌ったり、現代に投影するフ音楽プロジェクトを開始しました。https://note.com/metakit/m/m05784e9214c5

岩谷宏の過去の原稿と最新の原稿を提供していきます。 岩谷宏の言葉(新刊書籍)を準備中です。 https://note.com/metaki…

橘川幸夫の無料・毎日配信メルマガやってます。https://note.com/metakit/n/n2678a57161c4