これまでの記事で書き落としたことのまとめ,2023年1月4日
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注意
これらの物語の重要な展開を明かします。
特撮テレビドラマ
『ウルトラマンコスモス』
『ウルトラマンネクサス』
特撮映画
『シン・ゴジラ』
漫画
『「もう....働きたくないんです」冒険者なんか辞めてやる。今更、待遇を変えてやるからとお願いされてもお断りです。僕はぜーったい働きません。』
『ラーメン発見伝』
『らーめん才遊記』
『らーめん再遊記』
『左ききのエレン』
『PLUTO』
『ワールドトリガー』
『MASTERキートン』
『キミのお金はどこに消えるのか』
『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』
『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』
テレビアニメ
『NARUTO 疾風伝』
テレビドラマ
『ドクターX』
小説
『二重螺旋の悪魔』
『カムナビ』
『心臓狩り』
『今日から死神やってみた!イケメンの言いなりにはなりません!』
『今日から死神やってみた!あなたの未練断ち切ります!』
『希望ホヤ』
『超生命ヴァイトン』
はじめに
幾つか、これまでの記事で書き落としたことを、まとめてみました。今回は「通説や教科書」についての共通項も少しあります。
『超生命ヴァイトン』と『コスモス』と『ネクサス』
『ウルトラマンコスモス』と『ウルトラマンネクサス』の関連について、幾つかの物語を仲介して扱いました。
私の知る中で、『コスモス』と『ネクサス』のモチーフになった可能性を考えている作品は、『超生命ヴァイトン』もあります。
人間を家畜のように、その負の感情を搾取して利用するらしい未知の生命体が、『二重螺旋の悪魔』などにも通じます。
その姿は『コスモス』のカオスヘッダー、性質は『ネクサス』のスペースビーストを思い出します。というより、21世紀になり、『超生命ヴァイトン』の描写を特撮で表現したのが『コスモス』や『ネクサス』かもしれません。
無脊椎動物の意外性
私は『心臓狩り』などから、無脊椎動物と脊椎動物の関連を、クトゥルフ神話なども踏まえてSF流に考察したことがあります。
『心臓狩り』には、ヒトとウニの遺伝子の近さが「謎」だとされますが、無脊椎動物の中でウニやヒトデなどの棘皮動物は脊椎動物に近いため、あながち不思議でもないと考えました。
棘皮動物よりさらに脊椎動物に近い無脊椎動物は、ホヤなどの脊索動物です。
石黒達昌さんの小説『希望ホヤ』では、人間の悪性腫瘍を治すために、悪性腫瘍がありながら死なない奇妙な(おそらく架空の)ホヤが登場しますが、専門的な医師は「人間のがんも場所ごとに性質が異なる上に、海洋生物のがんなど参考になりません」と研究をまともにせず、それが患者の父親との対立を招いています。
その態度はともかく、ホヤが海洋生物ではあるものの、無脊椎動物の中ではかなり、ヒトはともかく脊椎動物に近いことには劇中で言及しても良いのではないか、と私は首を傾げました。
小説ではウニやホヤに、仮に人間に近いところがあっても、話を盛り上げるために、人間との系統などの繋がりはあえて書きにくいのかもしれません。
アメリカと日本と近代化の「ばらつき」
『らーめん再遊記』では、ラーメンの文化の変化を、小林秀雄のCDから検証しています。
「門外漢なので間違っているかもしれない要約」では、「デモクラシー、民主主義で人間が平等だとされると、個性のある芸術が作られたが、駄作も増えた」とあります。
これは、絶対王政などでは天下国家や神々のことを語るのが決まっていて上手と下手の差異はあまりなかったのが、個性が重視されるとピカソなどの傑作や、ひとりよがりな駄作も増えたと説明されています。
ここで私が思い出したのは、アメリカと日本の人間の優秀さの分布についての、本川達雄さんの解説です。
アメリカで本川さんが訪れた大学にはきわめて優秀な研究者が多いものの、その少し外の町ではきわめて要領の悪い店員のいる店が多いとされました。日本はそこそこ優秀な人間が多く、差が少ないそうです。
これを本川さんは、小さな島では中サイズの動物が多く、大きな島では場所の種類が多いために大小様々なサイズの動物の分布になるという「島の規則」にたとえています。
すると、アメリカは大きな大陸であるため、優秀な上層と、そうでない下層の差異が激しく、日本は能力の上下の差異が少ないのでしょう。
その表と裏を見ずに、『ドクターX』などではアメリカ流の「優秀な医師」の都合の良いところばかり描写して、「駄目な医師に合わせるつもりはない」といった主人公の独断が正当化されるのだと考えます。
たとえば、池上彰さんの書籍によりますと、アメリカでは進化論を信じない人間が多いそうです。教育格差が激しく、「駄目な人間はそのままで良い」という論理が強いようです。
アメリカは近代化による、個性が重視されるばらつきの多い能力の幅があり、日本は近代化以前の、ばらつきの少ない「粒のそろった」技術が多いのかもしれません。
「替えのきく有能」と部下と上司と依頼人とコンサルタント
ここで「替えのきく有能」という視点が重要になります。
『左ききのエレン』における、「替えのきかない有能」が、おそらくアメリカには多く、この作品での「会社員に必要な、周りを引き上げられる替えのきく有能」は日本流の「分かりやすい指導を出来る人間」のことなのでしょう。
芹沢は、部下の汐見が高い質の料理を依頼人に提案しても、それが依頼人に作れない場合を想定して批判することもあり、自分より腕の低い依頼人に「合わせる」「替えのきく有能」を目指していたとみられます。ただし、「客の立場になって考えるのは良いが、親身にはなるな」とも話しており、多くの依頼人を陰で見下したところもありますが。
芹沢は「客と店主も、上司と部下も、報酬と労働を交換するだけの対等な人間関係だ」と主張しており、対等だからこそ分かりやすく伝えたいのでしょう。
また、芹沢は『ラーメン発見伝』で、ラーメンの製法をフード・コンサルタントとして提案するときに、麺の水分量を部分的に調整して、茹で時間に高い技術がなくても「メリハリのきいた」食感になるように指示していました。「私は自分以外の職人に絶妙な茹で加減など期待していない」と話し、競争相手の藤本が、自分の高い技術なしには難しい製法を提案したこととの差を見せつけました。
しかし、『らーめん才遊記』では、元部下が自分のラーメンをコピーして競争して来たときに、「現状でもウチの店の方が、味作りに慣れている分、味ではやや優っているはずだ」と話しており、部下の調理技術を信頼していないわけではありません。
芹沢は、製法を提案する「才能」は自分のものとして重視しつつも、「調理」に関しては部下や依頼人に出来るようにする「替えのきく有能」を目指していると言えます。
分かりにくい部下の報告は「替えのきかない有能」になる
『「もう....働きたくないんです」冒険者なんか辞めてやる。今更、待遇を変えてやるからとお願いされてもお断りです。僕はぜーったい働きません。』では、周りに気付かれにくい、威力の小さい代わりに持続時間の長い魔法で助けていながら待遇の悪い環境で働くことを辞めたエクスが、少しずつ成功するのを描きます。
しかし、エクスを酷使して、他の労働者も酷使しながらエクスに助けられていたのに気付かないギルマスは、受付係に辞めたエクスを呼び出させました。
エクスを「相棒」と呼ぶ魔法人形に、ギルマスの中抜きなどの不正を見抜かれて「まずはギルマスが相棒に謝りに行くべきだろう」と追い返された受付係は、ギルドに戻り、エクスなしにギルマスの経営が難しいと判明したところで、「先方は、まずギルマスが相棒に謝るのが筋だろうと言っていました」と怒りながら報告しました。
ギルマスが「あいぼう?はあ?謝る?私が誰に?」と返すと、受付係は「馬鹿ですか?エクスさんにですよ!」と憤りました。
しかし、「先方」の正体が、おそらくSFでロボットに当たる魔法人形であることを伝えず、その「相棒」という分かりにくい表現をそのまま伝えたのはどうかと思います。部下であっても、上司より何かを深く認識していることはあるのですから、上司に「分かりやすく伝える」義務はあります。
「分からない上司が劣っている」では済まされないのです。
これは『シン・ゴジラ』の尾頭にも通じます。
部下と上司も「報酬と労働を交換しているだけで対等な人間関係」ならば、逆説的に、上司の方が分からない分野もあって構わないと私は考えますし、それは部下の方に「分かりやすく報告する義務があると認識しています。
ただし、経営者は労働者の権利を守る義務がある、といった話は別ですが。
ある意味では、この受付係も、若い女性でおそらくギルドの立場は低いとはいえ、とっさの分かりにくい表現で相手に伝える技能が低い、「替えのきかない有能」になってしまったと言えます。
ロー・ファンタジーとSFにおける「有能」と「替えのきくか」
『今日から死神やってみた!』では、現実のような世界にファンタジー要素が入る、いわゆる「ロー・ファンタジー」として、「替えのきく有能」とも言えるところがあります。
ファンタジーの死神の要素を突然手に入れて対応を迫られる女子中学生の伊織が、幽霊の相談に乗ったときのことです。近くで死者が出たか警察官に尋ねるときに、見つからないのを警察の間違いだと考えずに、自分の予想に反していた可能性を見つけ出しました。また、それで警察に頼れないのを、誰かのせいにはしていません。
『PLUTO』で、高性能な探知機能を持つロボットのウランが、似た事情で「助けたい子」がいるときに警察に相談したときは、見つからないのを警察の不手際だとみなし、さらにそもそも警察の領域でない可能性が出ると、「それで手を出さない警察なんか当てにしない」と立ち去りました。推測と意見の分野で、警察を二重に批判しています。
しかしそれは、ウランが警察の法律や科学の常識を超えた「替えのきかない有能」であるためとも言えます。
考古学者が子供に新説を教えるべきか
『MASTERキートン』では、考古学者の主人公が、娘に「四大文明なんてでたらめだ」という最新の学説を教えて、教科書通りに授業で学ばない娘を教師からかばって、逆に教師が詫びています。
しかし、教科書を最新の学説で批判するのを生徒にさせるのは、さすがにどうなのか、とも言えます。
『カムナビ』(梅原克文)では、考古学者が、教科書にないことを書く自分の書籍を読む息子に、「こんなものは読むな。受験勉強の邪魔にしかならない」と話しています。
こちらでは、考古学、たとえば邪馬台国の場所などについて、天文学や物理学や生物学なども踏まえた恐ろしい仮説が繋がり合い、人間の文明や地球環境すら揺るがす事態になっています。しかし、通説を否定するのは大人の仕事で、基礎を学ぶ子供や生徒に教えるのは「まだ早い」というのが「大人の対応」ではないか、と今の私は考えています。
『MASTERキートン』の考古学者も、ある意味では「替えのきかない有能」だと言えます。
定説にない歴史の説を述べる、井沢元彦さんの『逆説の日本史』第5巻あとがきでは、井沢さんは「教科書は定説だけ教えた方が良い」と主張して、その「教科書」が「歴史教育」と新聞で誤解されたのを批判しています。
やはり、教科書に載せるべき通説と、大人がそれを否定しても良い「異説」には境界線があるのでしょう。
それが「替えのきく有能」という領域に関わるかもしれません。
間違ったルールや命令にどう対応するか
『ワールドトリガー』原作では、「やられてもやり返すな」という日本の慣習に合わせようとしない異世界人が、「向こうがルールを守るとは限らないだろう」と主張しています。少なくとも、自分からルールを破るつもりはないようでした。
『NARUTO 疾風伝』で、学校で周りより遥かに優秀で、卒業したあとの下忍よりも難しい術も可能なイタチが、同級生に一方的に絡まれ、殴られそうになったときのことです。途中から来た教師が「全員止まれ」と言ったとき、イタチを殴ろうとした人間は止まらずにイタチだけ止まったため、珍しく直撃したものの、最初から影分身だったため、本体は無傷でした。
影分身は、上忍級の術であり、もう学校にいる意味がないと卒業しました。
『ワールドトリガー』と比較して、間違った命令やルールにも従った上で無傷に済ませる、というのがイタチの考え方のようでしたが、最終的には「非情な命令」に従って一族を破滅させざるを得なくなりました。
「教科書に通説をいつまで書くか」といった点に通じるかもしれません。
教科書や「常識」の組み合わせ
その意味で、池上彰さんと佐藤優さんは教科書を重視しています。
また、池上さんの多くの主張と経済の観点では異なるようですが、井上純一さんの経済マンガなどは、「自国通貨建ての国債では財政破綻しない」といった「経済の常識」を書いているだけらしく、確かに私の知る「常識」とも合うところがありますから、驚くことはあっても重視しています。
池上彰さんも、井上さんの「常識」を踏まえた経済理論の1つであるMMTを紹介したことはありますが。
まとめ
今回は、通説や教科書と異なることを扱う物語を多く紹介しました。ここから、「替えのきく有能」などを踏まえて考察したいところです。
参考にした物語
特撮テレビドラマ
大西信介ほか(監督),根元実樹ほか(脚本) ,2001 -2002(放映期間),『ウルトラマンコスモス』,TBS系列(放映局)
小中和哉ほか(監督),長谷川圭一ほか(脚本),2004 -2005,『ウルトラマンネクサス』,TBS系列(放映局)
特撮映画
庵野秀明(総監督・脚本),2016,『シン・ゴジラ』,東宝(提供)
漫画
原作/縛炎,漫画/村上メイシ,2022-(未完),『「もう....働きたくないんです」冒険者なんか辞めてやる。今更、待遇を変えてやるからとお願いされてもお断りです。僕はぜーったい働きません。』,スクウェア・エニックス
久部緑郎(作),河合単(画),2002-2009(発行期間),『ラーメン発見伝』,小学館(出版社)
久部緑郎(作),河合単(画),2010-2014(発行期間),『らーめん才遊記』,小学館(出版社)
久部緑郎(原作),河合単(作画),2020-(未完),『らーめん再遊記』,小学館
かっぴー(原作),nifuni(漫画),2017-(未完),『左ききのエレン』,集英社
浦沢直樹×手塚治虫(作),2004-2009(発行期間),『PLUTO』,小学館(出版社)
葦原大介,2013-(未完),『ワールドトリガー』,集英社
浦沢直樹・勝鹿北星・長崎尚志(原作),浦沢直樹(作画),1988-1994,『MASTERキートン』,小学館
井上純一/著,飯田泰之/監修,2018,『キミのお金はどこに消えるのか』,KADOKAWA
井上純一/著,アル・シャード/企画協力,2019,『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』,KADOKAWA
井上純一(著),アル・シャード(監修),2021,『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』,KADOKAWA
テレビアニメ
伊達勇登ほか(監督),吉田伸ほか(脚本),岸本斉史(原作),2007-2017(放映期間),『NARUTO疾風伝』,テレビ東京系列(放映局)
テレビドラマ
田村直己ほか(監督),中園ミホほか(脚本),2012,『ドクターX』,テレビ朝日系列
小説
梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(上)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(下)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 上』,朝日ソノラマ
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 下』,朝日ソノラマ
梅原克文,1999,『カムナビ』,角川書店
梅原克文,2011,『心臓狩り』,角川ホラー文庫
日部星花,2020,『今日から死神やってみた!イケメンの言いなりにはなりません!』,講談社青い鳥文庫
日部星花,2020,『今日から死神やってみた!あなたの未練断ち切ります!』,講談社青い鳥文庫
石黒達昌,2006,『冬至草』,早川書房(『希望ホヤ』)
エリック・F.ラッセル/著,矢野徹/訳,1995,『超生命ヴァイトン』,早川書房
参考文献
浅島誠(編),日本動物学会(監修),2007,『シリーズ21世紀の動物科学 7 神経の多様性:その起源と進化』,培風館
本川達雄,1992,『ゾウの時間 ネズミの時間』,中公新書
池上彰,2013,『知らないと恥をかく世界の大問題4 日本が対峙する大国の思惑』,角川マガジンズ
池上彰,佐藤優,2019,『教育激変』,中公新書ラクレ
池上彰,2021,『今を生き抜くための池上式ファクト46』,文藝春秋
キャンベルほか(著),池内昌彦ほか(監訳),2018,『キャンベル生物学(原書11版)』,丸善出版
井沢元彦,2000,『逆説の日本史5 中世動乱編』,小学館