vs女幹部2
レイの鞭が迫る。
リリーはとっさに身を翻した。が、避けきれず、右肩を掠めた。
「くっ…!」
思っていた以上の鋭い痛みに、顔を顰める。しかし休む暇なく、また鞭が振るわれた。
しかし今度は、直接痛めつけるためではない。生きているようにぬるぬると動く鞭の動きに、リリーは翻弄された。
そして、片方の足首に鞭が絡みつくのを許してしまったのだ。
(しまった!)
「ふふ、つーかまえた」
レイのにやり笑いに、ぞくっと背筋が凍る。
まずい!そう思った時には遅かった。
足が右に引っ張られる。その強い力に、体ごと。抵抗できない。
「きゃあっ!」
リリーの体は、壁に躊躇なく叩きつけられた。
体勢を整える暇なく、今度は反対側へ引っ張られる。そして、また激突。
「ああっ!」
連続で体に衝撃を受け、床に倒れこむ。
今の攻撃で足から鞭は外れた。早く対抗しなくては。そう思って顔を上げる。と、すぐ目の前にレイの姿があった。
自分を見下すように立ち、鞭を構える。避けようと足に力を入れる。しかし、一歩遅かった。
「はあっ!」
「ふふ、痛そうね?」
「う!ああっ!あっ!んんっ!」
鞭が連続して体にヒットする。うつ伏せ状態になっているので、主に背中側を集中攻撃されている。
体を打つ強い力に、びくっと揺れる。一発一発が重いのに、隙が無い。抜け出すことができない。
「あっ!うあっ!は、ああっ!」
(だめ…、このままでは…!)
歯を食いしばり、立ち上がろうと床に肘を付いた。
その時、視界に黒い影が入る。後で、それがレイのブーツの先だと気づいた。
「がはあっ!」
蹴り上げられ、今度は背中から仰向けに倒れた。
そして容赦なく、また鞭の猛攻を受ける。
「はっ!ああんっ!がはっ!」
「いい声で鳴くわね、正義の魔法少女さん?」
「きゃっ、あ!ん、うああっ!」
先ほどはうつ伏せだったので、ノーダメージだった顔まで、今度は痛めつけられる。
魔法少女の可愛らしいワンピースはところどころ破れている。素肌の太ももを執拗に叩かれ、その度にリリーは一際苦しそうに声を漏らした。
(だめ、だめよ!しっかりして!無様すぎるわ!)
どんなに攻撃されても、ステッキだけは強く握りしめていた。
痛みに耐えて歯を食いしばりながら、リリーは懸命にステッキを振った。
「ふうん。まだ力は残っていたみたいね」
光の玉を避けるため、レイは一旦攻撃を中断した。
その隙に、リリーは何とか立ち上がる。体と共に痛めつけられた床にまで、鞭の跡が残っていた。
「私は、こんなところで負けない!」
キッとレイを睨みつけ、息を整える。ダメージを受けても尚、その瞳には純粋なひたむきさが見受けられた。
「その体で私に?無理よ。あなたはもうトラップの中だもの」
「な……!?」
突如床から、三本の長い鞭が現れる。それは植物の蔦のように伸び、あっという間にリリーの体に絡みついた。
「いつの間に罠を!」
両足は固く一本に縛られ、両手もバンザイをした状態で、頭の上で一つに固定された。強制的に立たされている状態だ。
床から生えているその鞭には、強く黒い力を感じる。これはもはや、生命を与えられているのかもしれない。
「さあ、どうしようかしら?これでは全く動けないわね」
「くっ…!」
「降参してリリーの力を組織にくれるのなら、許してあげるわよ?」
「誰があなたなんかに!私は絶対に屈しない!」
やはり、かすみ草のように可憐で気高い。レイは彼女の真っ直ぐな瞳に、くすっと笑った。だからこそ、痛めつけがいがある。
「今度は悪の電流なんてどうかしら」
「何を…っ」
リリーが言いかけたその時だ。絡みついている鞭が一瞬光ったかと思うと、バチっと音を立てた。激しい電流が流れ始めたのだ。
「あ…ああああああああああっ!」
また鞭とは違う、体を裂くような強烈な痛み。リリーは絶叫した。
「うわああああ!あ、ああああ!ぐうう!んんん!あああああああああ!」
口を大きく開け、叫ぶ。辛い、辛すぎる。苦しい。身体中を止めどなく襲う黒い電流に、リリーは絶望していく。
(攻撃されるままでしかないの……?)
されるがままの無様な自分の姿に、唇を噛む。しかしまた、痛みで叫ぶ。
「うわああああああああ!!」
「気に入ってくれたみたいね、仲間になる気になったかしら?」
やがて、電流が止まる。しかしリリーの体はしばらくの間、まだビリビリと微かに光っていた。
ふんわりとしたワンピースは鞭で破れ、さらに今の電流でところどころ黒く焦げている。変身したばかりの時の純白の花嫁のような輝きは、見る影もなくなっていた。
荒い呼吸をしながら、力なく項垂れるリリー。縛り付けられているので辛うじて立っている状態だ。
「早く降参しないからこうなるのよ?」
レイの人差し指が、リリーの顎をくいっと上げた。彼女の表情を見るなり、レイは楽しそうに微笑む。
リリーの瞳には、まだ希望の光が残っていたのだ。苦しげに、しかし真っ直ぐ、レイを睨んでいる。
「私は…絶対に、降参なんて…」
ステッキをぐっと握りしめた直後、リリーの姿が消えた。テレポートだ。
テレポートは優れた力だが、万能ではない。魔力を大量に消費する上、そこまで遠くにはいけない。
実際、リリーはすぐ近くの木箱の影で座り込んでいた。窮地に追い込まれた時の必殺技だ。
(強い…!まだ私は攻撃を与えられていないのに!)
静かに呼吸を整えながら、レイの姿を捉える。彼女は、すぐ近くに佇んでいた。その足元には、先ほど自分が縛られていた鞭の残骸が。
(まだ気付かれていない!大丈夫!)
ステッキを握り直す。ここで魔法を叩き込んで、形勢逆転を狙う。大丈夫。そう自分に言い聞かせながら。
「ばればれよ?気付かれていないとでも思った?」
「え…」
振り向こうとした時には遅かった。リリーの背後に、レイが立っていたのだ。
「きゃああっ!」
全身が締め付けられる感覚。
レイの鞭が長く伸び、リリーを背後から縛りあげたのだ。
「か、はあっ」
無理やり立たされた状態で、リリーは苦しそうに声を漏らした。
ギリギリと音を立てて締め付けられ、全く抵抗できない。息ができない。
「私から逃げた罰よ。ほーら」
そう言って、さらに締め上げた。
「あ、んん、は、ああっ」
ステッキを握る手から、力が抜けていく。それでも、リリーは意識を手放さないよう、歯を食いしばった。
「あっ」
突然鞭が緩み、その場に力なく倒れた。
全身が焼けるように痛い。気付けば、体中にアザができていた。
「今の気分はどう?」
「ぐはっ!」
頭部をヒールで踏みつけられ、これ以上にない屈辱を味わう。ぐりぐりと力を加えられた。