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ロシアのLGBTQティーンエイジャーたちの過酷な現実

シベリア鉄道でロシアを周り、出会ったひとたちの個人的な話を収集するプロジェクトМесто47。今回はロシアのLGBTQのティーンエイジャーたちに話を聞きました。ロシアではプーチン政権下でロシア正教会との関係が強化され、その教義に反するとされるLGBTQへの風当たりは強くなる一方です。先日のロシアの憲法改正に関する国民投票前には、政権のコントロール下にあるメディアから、同性婚に対するネガティブキャンペーン動画がリリースされました。オンライン、オフラインでLGBTQの人々への暴力やヘイトの対象になることが状態化しています。そんな中でロシアのLGBTQのティーンエイジャーたちは何を思うのか。彼らの声に耳を傾けてみました。

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ジーマ エカテリンブルク

エカテリンブルクの出身です。トランスジェンダーです。
ある時に自分は男の子の格好をするのが好きだと気づいて、それが全ての始まりでした。最初は自分がXジェンダーじゃないかと思いました。男性と女性の中間の性ということです。その後今から1年くらい前に、今の状態が何か耐え難いものと感じるようになってきて。その考えは少しづつ私の中で大きくなってきました。何もしなかったら状況は悪くなる一方だろうっていうことは分かっていたんです。そのころ新しい友達が何人かできました。彼らに私はジーマとして自己紹介して、「彼女」ではなく「彼」として会話して欲しいとお願いしました。12歳でした。それまでは女の子の格好をしても何か間違っていると感じることはありませんでした。まだ子供だったんです。

母と父、あと弟がいます。とてもいい両親です。やさしくていつも私の力になってくれます。家族のことは大好きですが、両親には話していません。家と学校ではスヴェタと呼ばれています。クラスの知り合いには「彼」として接してほしいとお願いしました。彼らはそれを受け入れてくれました。時々ですがちゃんと「彼」として呼んでくれます。時々私も彼らの間違いを直しています。

服はメンズものを買います。時々お父さんのものを引っ張り出して着たりして。お父さんがあまり気に入らなかったセーターをもらって今はそれを着てるんです。学校で居心地が悪くなるのは、スヴェタって呼ばれる時と「彼女」として話しかけられる時です。クラスメイトとはそんなに仲良くしてるわけじゃないんです。でも別に仲間外れにされてるわけでもなくて、ただ静かにしてる感じです。自分でも特に話したいとも思ってません。周りもきっと興味がないでしょうし。仮にこのことを学校中に説明して回ったとして、その上で、私が嫌がると分かった上で、みんなが私のことを「彼女」と呼ぶとしたら、そっちの方が私は傷つきます。全員の発言を修正して回るほどの気力はありません。今別の場所で人生を始められるなら、きっと物事はもっと簡単だと思うんです。今度お母さんと海外大学フェアに行くつもりなんです。授業料が無料のところもあるので。

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同じような経験を共有する友人が二人います。一人はエカテリンブルクにいて、もう一人はサンクトペテルブルクにいます。サンクトの友達とは2月にVK(編注:ロシア版フェイスブック)のグループで知り合ったんです。20歳だから私よりだいぶ年上です。まだ会ったことはありません。

スヴェタと呼ばれる時に感じるものは幻滅です。周りの人々に対してではなくて、なにかがしっくりとこないことに対する幻滅です。そんな時には自分が何か間違った場所にいるような感覚になります。友達と居る時は自分らしくいられるんです。ジーマとスヴェタ、これは2つの異なる人格じゃありません。ただ、友達といる時はジーマでいるのが楽なんです。

トランスジェンダーが手術をするかどうか決めるのは自分自身です。その選択の権利は私たちに与えられています。自分の身体が自分のものでないように感じたなら、その人は恐らくトランスジェンダーでしょう。手術しているかどうかは重要ではないんです。私は自分の身体に違和感があります。手術については考えました。ホルモン療法をやって、手術はその後ですね。友達は応援してくれると信じてます。難しいプロセスになるだろうということを彼らは理解しています。両親のことは分かりません。きっとその頃には家を出ているでしょうし。国内でホルモンの処方を受けることはできますが、手術となると海外でしょう。

鏡に映る自分が自分じゃないような感覚があります。なにかが間違ってるような。別にちょっと太ってるからとかそういう話じゃなくて、ほんとになりたい自分とは違うっていうか。これはとてもつらいことです。毎日のことだし精神的に疲れます。自分がどんな風に見えてるのか、男女どちらの更衣室を使うかとか、そんなことを考え込んで消耗しています。女性用の更衣室には当然女性のマークがついています。でも私は自分を女性だと思ってないし。家で着替えて荷物だけ預けるようにしてます。どちらを選択しても私は落ち着かないんです。男子トイレが使える時は男子トイレを使うようにしています。そこは問題ないんです。ショッピングモールとかで両親と一緒でない時は男子の方を使っています。

エストニアに住んでいる女の子と付き合っていました。ネットのビデオチャットでしか話してなかったですが。別れてしまったので、今はそれほど連絡を取っていません。彼女のことはとても理解していますし、今でも親友として好きなんです。

ジーマは友人たちを我々Mesto47チームに紹介してくれた。彼らは皆Twenty One Pilotsのファンだ。1905年広場で出会った彼らは13才から17才のティーンエイジャーだった。彼らを広場で見つけるのは難しくない。全員が鮮やかな黄色いビニールテープを身体のあちこちに巻きつけているからだ。後で分かったが、それは彼らが愛する音楽バンドのプロテストカラーだった。黄色いビニールテープをまとった彼らと日がな一日芝生の上で話をした。

マリナ:このグループのこと教えてくれる?

アリョナ、ピンク髪の17才:同じことに興味がある人が集まっています。私たちの場合はTwenty One Pilotsです。みんな同じものが好きだから、このグループに来ると、長い間付き合ってる友達のところに来たみたいな気になるんです。最初はもちろん怖かったけど、だんだんそれも自分の家のような感覚になってきて。もうほとんどの人は知り合いだし。2年前には怖くて参加できなかったの。1年前に初めて来たんです。ここにいる友達とは知り合ってもう1年経ちます。今では私の2つ目の家族みたいです。人に対しての恐怖感というか、知らない人と話すのがあまり怖くなくなったんです。前はとても内向的でした。人に道を尋ねるのも怖くて、ヒステリーを起こしていました。今は落ち着いて人にものを頼めるようになりました。

ジーマ:音楽が自分と友達を結び付けてくれました。自分で音楽を演奏するようにもなって、より音楽を深く理解できるようになったし、うまく感情を表現できるようにもなりました。音楽を聴いたり演奏することでいろいろな感情が湧き上がります。音楽を聴くことでアーティストの気持ちを理解できます。それに音楽を演奏することで自分の気持ちを考え始めたりもします。

私たちは一緒にいくつかの曲を歌った。最初は英語でそしてロシア語で。私たちのメンバーで外国人であるゲオルグは彼らの興味を惹く。彼らは何度か彼と話そうと試みるものも、結局は恥ずかしがって私たちに通訳を求める。一人の女の子がヘナタトゥーで彼の腕に "СЧАСТЬЕ"(幸福)という言葉を描いた。私たちは幸福、つまり叶えたい夢について話し始めた。

マリナ:夢って何かある?

リョシャ、16才:私の夢はバンドを結成すること。ベーシストとキーボードはもう見つかってるの。バンド名も決まってるよ。Последний день лета(英:Last summer day)って言うの。もしかしたら変わるかもしれないけど。

アリョナ:なんて言えばいいかな。ええと、学校を卒業してもうちの親みたいな生活をするのはいやだな。外出して楽しむこともない、気晴らしもしない、だいたいは家でテレビ見てるくらい。私はそんな風なたいくつな生活はいやなの。常にいろんなところを飛び回っていたい。2日間他の街で過ごすくらいでもいい。うまく言葉に置き換えるのはむずかしいんだけど。でも一か所にずっといて、毎日同じことを繰り返すのはいやだな。

アリーナ、15才:ジェネレーションギャップについて思うことがあるの。モスクワに行きたいんです。2月にTwenty One Pilotのコンサートに行くつもりだったの。チケットも買ってた。でも両親は行かせてくれなかった。おまえはモスクワに働きに行ってISISに連れ去られたり、そのまま奴隷としてつかまって、レイプされて殺された女性がいるのを知らないのかって。私にも同じことが起こると思ったみたい。それでモスクワには行けなかった。

ジーマ:自分の夢は海外に移住すること。海外は自分の友達がいるのもあるし。ロシアはLGBTに対するステレオタイプがひどすぎるんです。ホモフォビア、性差別その他もいろいろあって、簡単ではないんです。海外の方がもっとチャンスがあると思ってます。実は夢の一部が今かなったんです。英語のネイティブスピーカーと話したかったから。英語は一生懸命勉強してます。映画も見たりして。英語に興味を持ったのもTwenty One Pilotsのおかげなんです。話す練習がまだまだ足りないんだけど、話す相手がいないから。

彼らは今自分たちがいる場所がどんな場所なのか説明してくれた。ここは、昨年エカテリンブルグの市民がロシア正教会と戦い、正義を勝ち得た場所だった。今回のインタビューにはとても象徴的な場所だと思った。(編注:政権と近いロシア正教会がエカテリンブルク中心地の公園に新教会の建設を計画。それに対し2019年5月に市民が大規模なデモを行い計画を撤回に追い込んだ)

マリナ:学校の友達に理解はあるのかな?

全員:なーい。

リョシャ:グループに分かれてるんだよ。お金を持っててえらそうなグループ。あとは、同じことに興味を持ってる人で集まってるグループとか。

アリョナ:自分のクラスは大嫌いだった。いじめはなかったんだけど、いつも重苦しい空気が漂ってた。休み時間は他のクラスの友達のところに行ってた。卒業して本当にせいせいしてる。

お酒を飲んだり、タバコを吸ったりしてる人はいます。タバコを吸うためにたむろするための場所もあったの。別に何をするわけでもないんだけど。そこには面白い人もいたの。でも彼らも自分の人生を無駄にすり減らしてるだけだった。みんな腕にリストカットのあとがあったわ。腕に傷の無い人は一人も居なかった。自分で自分を苦しめることが好きなんだと思う。

アイス、14才:4つの学校に通いました。そのうち3つでいじめを受けたんです。最初の2つの学校でのいじめは国籍が原因でした。クラスメートにナチがいたんです。残りのクラスメートも似たような感じでで。ちょっかいを出してみて反抗してこなかったら、格好の標的だと思ってしていじめだすんです。いじめることで自尊心が満たされるみたいです。今のクラスには不満はありません。フレンドリーって感じじゃないけど、たいていのことには寛容的です。あんまり興味がないっていう言い方もできるけど。お互いに興味があることを話して、冗談を言い合ったりもします。同じ学年の他のクラスにはあまり恵まれませんでした。立っているだけで小突かれることもあります。そこに居るっていう理由だけで。両親には話しました。両親は学校まで来て先生と話をしてくれました。でもその後いじめは逆にひどくなったんです。私が告げ口したみたいな感じで。あいつらはいじめることがカッコいいと思っているんです。俺はタバコもやるし、いじめもやるんだ。かっこいいだろ?みたいな。

アリョナ:アメリカのテレビ番組とかで相手の頭をトイレの便器に突っ込んだりするじゃないですか。ここではちょっとやり方が違って、ネット上で悪口を書いていじめるんです。

アイス:実際に手を出すこともあります。勢いをつけてお腹に蹴りをされたこともあります。そんな時は「私が何をしたっていうの!」って思います。

アリョナ:私の学校では暴力はないんです。あったとしても男の子同士くらいで。言葉でもの心理的な暴力みたいなのが多いです。

興味深いことに、インタビュー中彼らはビールもタバコもやらなかった。そのことについて聞いてみると、音楽やお互いの興味が自分たちを一つにしているので、そういうものは必要ないというのが彼らの一致した意見だった。徐々に話のテーマは自分たちの両親へ移っていく。

アリョナ:お母さんとはホモフォビアについて言い争いになりました。自分の子供が自分や社会と違う性的指向を持って何かやっているとすれば、それは簡単なことじゃないっていうのは分かります。親の世代の考えを変えるのは無理だと思っています。でも疑問をなげかけて、いくつかの事実を伝えて、それで反論がなければ私の勝ちです。今日の討論には勝ったっていうことです。

アイス:私は両親とそういう話題はできるだけ避けています。そもそも何かについて両親と話すこと自体あまりないんですが。

アリョナ:3年くらい前から母との会話を始めました。自分の考えや、同性愛者を嫌悪する必要がないっていうことを伝え始めたんです。最初は私を家から追い出しそうな勢いでした。でも最近は同性愛者をけなすようなことは言わなくなりました。例えば女の子が通りを歩いているのを見て母は「なんて格好なの!」と言うことがあります。でも私は人は変えられると信じています。だって、彼らは本当は正しいことが何か判断できる人たちだから。母には愛の形を差別するべきじゃないって言いました。それは彼らの生き方なんだから尊重するべきだって。母は私が正しいことを理解し始めたと思います。もうこのことで言い争うことはありません。状況はよくなってきています。

アイス:楽観的になろうとしていると、現実的になれ、現実を見てないって言われます。

リョシャ:でも現実的になろうとすると、なんでそんなつまらなそうな顔してるのって言われる。

アイス:自分の抱える問題に不満を言うと大げさだとか言われます。もっと大変な状況に居る人とか問題を抱えた人も居るんだとか。私のことは悲観的に騒ぎ立てているだけだと思っているんです。私も本当に大変な精神的な問題を抱えた人がいることは分かっているんです。

最後に私たちは一緒に写真を撮り、お別れのハグをします。写真を撮る時に何人かは顔を手で隠し、ジーマは写真に写らないようにその場を離れました。彼らと別れた後、私たちは川沿いを歩きながら今日あったことを思い出していました。そして、彼らがこの世界でお互いを見つけられたこと、彼らが他の人々とは違うこと、家や学校では理解されなくても、あのグループの中では彼ら自身として受け入れられていること、そんなことを私たちはとりとめもなく話し続けました

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読んでいただいてありがとうございました。新しい記事は毎週、火曜と金曜日に公開予定です。

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