パブリックスペースにテクノロジーの波が!「Play(遊び)」を切り口にした英国発プロジェクトPlayable City Tokyoとは<後編:トークイベント編>
「Play(=遊び)」をキーワードに、オープンイノベーションによりテクノロジーを用いて、人と人、人と都市を新しい関係でつなごうとする英国発のプロジェクトPlayable City。テクノロジーを単に作品やエンターテイメントに用いるのではなく、実際のまちやパブリックスペースを対象にしているところが特徴です。
前編ではPlayable Cityのプロジェクトを紹介しました。2015年から日本でもPlayable City Tokyoがスタートし、そのトークイベントが2016年2月20日虎ノ門ヒルズカフェで開催されました。今回の後編はそのイベント内容をお伝えします。
当日は、英国Playable CityのクリエイティブディレクターであるWatershedのクレア・レディントン氏が来日。Playable City Tokyoのクリエイティブパートナーであるライゾマティクスの齊藤精一氏、そして、Wired編集長の若林恵氏、Playable City Award 2014最優秀賞作品「Shadowing」のデザイナーデュオ、チョムコ & ロジアが登壇・ディスカッションしました。参加者は約45人で満席となりました。
大切なのは自分と同じではない人と関わり、組んでいくこと
クレア氏のトークシーン
まずはクレア氏が自身の所属するWatershedの紹介やPlayable Cityの活動経緯を話します。
「Watershedは1982年からシネマ・カフェバー・メディアリサーチでスタートし、これまで様々なプロジェクトが行われました。例えば、まちなかでゾンビに追われるビデオゲームのような世界を実現したり、ロンドン市内に点在している約100機のクレーンを同時に動かし、音楽に合わせて踊らせるようなプロジェクトがあります。その他、まちなかに大きなウォータースライドを作るイベントもありました。これは360人しか滑る枠がないところに、9万5千人の応募がありました。」
クレア氏は、
「まちは自動車のためにあるのではなく、市民のためにあるということを問うために、まずはみんなでまちを楽しむことを示してきた。まちづくりは、多くの場合、政治やビジネスなどで決まってしまうが、本来は市民自身が考えることだと思う。」
と話します。
テクノロジーを用いて人々にまちに関わるきかっけを作ろうとしている思想を大切にしています。
ブリストルのまちなかでこうした動きがあった中、Playable Cityのプロジェクトがスタートします。
「テクノロジーは生活を便利にするだけでよいのでしょうか。その問いに対し、Play(遊び)をキーワードに、市民一人一人が自分のまちについて考え、まちづくりに関わることを考えるきかっけを作りたかったのです。」
そしてプロジェクトの進め方については、
「大切なのは、自分と同じではない人と関わり、組んでいくことだと思います。そのためアーティスト、科学者、研究者、テクノロジストなど様々な人を受け入れて活動しています。」
と語りました。
世界中から約200以上の「Play(遊び)」のアイディアが集まる
Playable Cityは2012年にスタートします。
クレア氏は、
「Play(遊び)をキーワードにPlayable Cityというネーミングを思いつき、1週間のワークショップを開催しました。その後2013年に作品の応募・表彰制度となるAwardをつくりました。その結果、世界中から約200以上のテクノロジーを用いたPlayful(遊び心のある)のアイディアの応募がありました。その中から最優秀賞に選ばれたのがHello Lamp Postという作品。優秀賞作品は実際にブリストルで約8週間実装されました。その後世界中から問い合わせがあり、世界各地で展開されていきました。東京でも2015年4月六本木で披露されました。」
このHello Lamp Postは携帯電話を使ってまちなかにあるモノと会話するプロジェクトで、実施期間を通して特徴的だったのは、
「行政が行う市民アンケートには言わないことを郵便ポスト(モノ)には話していた。」
と話します。
クレアはこれからの活動について、
「世界中の都市にはそれぞれの個性があります。もっと世界各地の都市と関わりたいと思い、現在では世界に展開しています。これは、「自分と同じではない人と関わり、組んでいくこと」と同じことで、様々な国で展開することで新たなイノベーションやアイディアが生まれると考えているからです。近くにはナイジェリア・ラゴスでも展開予定です。この都市は非常に交通量が多く、Play(遊び)をキーワードにどうこの課題解決をしていくかが鍵になっているのです。」
と語りました。
Shadowingを通してまちで好きに遊んでいいと伝えたい
ロジア氏のトークシーン
次に2014年第2回Playable City Awardの受賞作品「Shadowing」のデザイナーデュオ、ジョナサン・チョムコ & マシュー・ロジアのプロジェクト紹介です。
インタラクションデザインを専門とするチョムコと、建築の背景をもつロジアはイタリアのファブリカで出会います。二人はShadowingのアイディアでコラボレーションし、事務所を立ち上げました。
(ロジア氏)
「私はテクノロジーを使い、空間、体験、歴史、建物などと人がどのようにインタラクトするかを考えています。そしてテクノロジーによるスマートシティのアイディアを、より人間的で温かみがあるものにすることをコンセプトの中心に置いています。今回の作品は、都会での暮らしを選ぶ人は、他人と関係性を持ちたいと思っていると考え、前に通った人の影を残していく作品をつくりました。」
(チョムコ氏)
「Shadowingを通りかかる人は、これは何だと理解に時間がかかる人もいれば、すぐには分かる人もいます。仕組みが分かると、そこに集まってきた他の人たちに得意げに説明するのが面白いんです。この作品で目指したのは、市民がまちで好きなように遊んでいいと伝えることでした。そのために、遊び方を説明しないで体験できるものにしました。またデータ蓄積も行っています。市民が日常生活でどのように街を使っているかというデータにもなると考えています。」
また今回の東京・虎ノ門でのプロジェクトは、ブリストルのデータと全然違う特性が出る可能性があることも楽しみの一つと話しました。
Shadowingの次のプロジェクトは?
続いてチョムコ & ロジアがこの夏展開予定のThe Lost Palace(ロストパレス)という非常に興味深い新たなプロジェクトを紹介しました。
「舞台は約300年前の17世紀ロンドン。過去の記憶を現代へ語り継ぐというお題に取り組んでいるプロジェクトです。そのプロトタイプとして「Heart of a King」をつくっています。これは心臓を模した木製品を持ち、大逆罪で処刑された英国王チャールズ1世の人生最後の日の足取りを追っていくというものです。手に持って、心臓がどくどくと強くなった方向へ歩いていく。そして、とうとう処刑台に立った場所に着くと木製品は大きくドクドクと反応し、最後には止まってしまうという仕掛けになっています。まち行く人から見れば変な木の物体をもった人が歩いていく異様な光景で、これもまた面白いんです。GPSテクノロジーなどを用い、心臓がコンパスのように持つ人を導く仕組みです。」
※Heart of a King(vimeoより)
パネルディスカッション
クレア氏、チョムコ氏 & ロジア氏に加え、ライゾマティクスの齊藤氏、Wired編集長の若林氏を交えてパネルディスカッションが行われました。
(齊藤氏)Watershedは様々なプロジェクトをまちなかで展開している。これを日本でやろうとするとなかなか自由度がなく、様々な点で遅れてしまっていると思うし、ロスが起きているのではないかと思う。
(クレア氏)ブリストル市は実験的なプロジェクトに取り組ませてくれる点で先進的だが、全てなんでも出来るわけではありません。Watershedがプロジェクトを支援し、実施するからその信頼のもとに実現できています。我々の組織はそういう役割があると思います。
(若林氏)1982年にスタートしたということだが、今になって花開いた(注目されている)のはなぜだと思うか。
(クレア氏)ここ5年くらいで未来をよりよくしたいという活動に驚くほど注目が集まった。様々な分野に背景がある人たちとクロスセクターでやることが世の中的にも普通になってきていることもあると思う。
(若林氏)こうしたプロジェクトに建築分野の人が関わることが多いように思える。なぜ建築分野の人がテクノロジーなどの分野に活動を広げているのか。
(チョムコ氏)建築家は元々空間をデザインすることを通して様々な経験を提供してきたと思うが、最近は変わってきている。それはデジタルの発展で、ソフトウェアやアプリを使って物理的な空間に、時間や感情などのレイヤーを掛け合わせることで、様々な体験を提供できるようになってきた。
(齊藤氏)ハードウェアの時代は終わったのに作るから、事業計画が壊れていくのだと思う。建築分野に、ソフトウェアをしっかり学べる機会は少なく、ほとんどの人がちゃんと分かっていない。こうした状況下でデジタルやソフトウェアで何ができる日本で検証する必要があると思っている。今はライゾマティクスにまちづくり関連の依頼があると、映像ビジョンを作って何かを流せという話になることが多い。テクノロジーやデジタルという分野は、人と人の関わり方を考えてから考え作っていく必要がある。そういう状況下にある日本の考え方についても改善が必要だと思う。(チョムコ氏に聞きたいが)テクノロジストはなぜ建築家と組みたいのか。
(チョムコ氏)テクノロジストは、どうしたら上手くいくか、表面がカッコいいかに特に興味があるのだが、建築家は人と人の交わりなどのことを考えていると思う。そういう部分を補う意味でコラボレーションが重要になってくると考えている。
(齊藤氏)人々は今みんなスマホを見ていることが多い。それはスマホが楽しくて、街が楽しくないということではないかと思う。スマホと街が連携していく方法を、建築家とメディアテクノロジストが今のうちに研究していく必要がある。普段我々は魔法使いのように見られているが、基本的に、人とどう関わっていくかというところでテクノロジーを使っていかないといけないと考えている。
(クレア氏)Watershedに併設されているバーには普通の市民も来る。これが大切なところ。場所があること自体が大切ではなくて、様々な人がニュートラルにアイディアを出し合える環境が大切だと思う。今よくコワーキングスペースなど、その場所自体があるから何かアイディアが生まれるのではないかと考えている人が多い気がする。間違った方向に行ってないか気にしている。
パネルディスカッションの様子
テクノロジー×パブリックスペースは今後どう進む?
トークイベントを通してテクノロジーを実際のまちやパブリックスペースにどう役立てられるか深く議論していることが分かりました。そして、そこに暮らす人を重要視していることも分かります。
まちづくりの一環の中でも注目を集めているパブリックスペース。特にこれまでのトップダウンによるものから、住民自ら欲しい空間をつくっていくことや、社会実験・実証実験などを通して必要な空間を整えていくボトムアップ的なアプローチに注目が集まります。そこに暮らす人と人の顔や関係が見えて温かみのあるプロセス自体や、そこでの市民活動自体がまちの個性づくりに繋がる可能性が注目される一つの要因ではないかと思います。一方こうした原点回帰のようなアプローチのみでは、情報や物流が均一化した社会においてアイディアや取組みが収束・画一化していく傾向があるようにも思えます。そこに新しい切り口やアイディアの種をテクノロジーという方法をきかっけに生み出せる可能性があるかもしれません。
テクノロジーを用いる人とまちづくりに取り組む人が上手くコネクティングしていくことで、大きなイノベーションが生まれる可能性があるように思えます。この両者の関係をどう繋げていくのか、これからさらに掘り下げていく必要があるように思います。
Media Ambition Tokyo 虎ノ門ヒルズ展示体験イベント
Playable City Tokyo「Shadowing」
日 時: 2016年2月26日(金)~3月21日(月・祝)
会 場: 虎ノ門ヒルズ外構部 3ヶ所
主 催: ブリティッシュ・カウンシル
特別協力: ライゾマティクス、Watershed、虎ノ門ヒルズ
協 賛: 株式会社アサツー ディ・ケイ
(all photo by 山﨑 正樹)
(この記事は2016年3月18日に下記で掲載された転載です。http://sotonoba.place/playablecityrepo2)