見出し画像

まちなかに憩いの空間を!松山「みんなのひろば」約1年半の社会実験から見えてきたもの

最近、全国各地で行われている公共空間活用に関する社会実験。まちなかをもっと使いやすくする様々な取り組みが見られます。街で過ごす時間を楽しく居心地をよくすることで、その地域に対する愛着を育む。そして街に関わることが人々の生活をより豊かにし、その街自身も持続的に素敵な街になっていく、そんな将来像を目標としているのではないでしょうか。

愛媛県松山市は、2014年11月1日から、まちなかに増える空き店舗や低未利用地を活用し、パブリックスペースとして、人の居場所に変えていく様々なプログラムを社会実験として展開してきました。これまでの取り組みや、活動を通して見えてきた成果と課題を、松山市都市整備部都市デザイン課と、施設に常駐し活動している「松山アーバンデザインセンター」に取材しました。その全容をご紹介します。

※松山市中心市街地賑わい再生社会実験
http://nigiwai-matsuyama.jp/index.html

コインパーキングと空き店舗を活用!

「みんなのひろば」は街の中心部、松山市駅と松山城をL字型に結ぶ、銀天街商店街と大街道商店街の一本裏に位置しています。まちづくりの拠点である「松山アーバンデザインセンター」(以下、UDCM)はその目の前の立地。そんな場所に現れた「みんなのひろば」とUDCMは、新しく公園や公共施設を整備したのではありません。広場は、元々コインパーキングとして使われていた土地を暫定的に活用し、UDCMは建物の空き店舗をリノベーションして、交流スペースとして地域に開かれました。
松山市が社会実験の実施主体となって賃借し、期間限定で実現しています。

なぜ、まちづくりの拠点となるアーバンデザインセンターとパブリックスペースを一体的に整備したのでしょうか。

松山市中心部の2つの商店街は、郊外化の進行や、建物の老朽化によって街なかの魅力が低下しているとともに、身近な広場や緑地、滞留空間が不足していました。そんな中、2013年3月に「中心地区市街地総合再生基本計画」を策定し、街なかの賑わいや回遊性を持たせるために、まちづくりの拠点施設となるUDCMと、「みんなのひろば」を一体的に整備しました。UDCMでは、学生や市民が、まちづくりについて学ぶことができる「アーバンデザインスクール」を開催しています。この中で話し合ったことが、「みんなのひろば」でのイベントとして実現することも多々ありました。

目の前に広場があることで、具体的で実践的な話し合いとなったのは、一体的な整備の効果といっていいでしょう。また、広場のイベントで大敵の雨も、UDCMの中で補完するといったメリットもあったと言います。

空き店舗を活用したUDCM

UDCMでのアーバンデザインスクール

アーバンデザインスクールで学生が企画・実現した「土嚢プール」イベント

少しずつ検証して修正できる社会実験から

暫定利用やリノベーションで、社会実験から始めることにしたのはなぜでしょうか。

行政の財政も厳しくなってきている中、一から新しい施設を整備することが難しくなってきていることに加え、市民主体のまちづくりが求められています。いろいろなことを試しながら、効果を検証し、効果的な施設をつくっていく必要があります。そのために、社会実験という方法で周囲の方々の理解を得つつ、地域の方々に求められる施設やプログラムを少しずつ検証しながら、課題があれば、適宜修正をして作っていく方法を選びました。

松山市では社会実験を始めるまでに、多くの時間や努力を要しています。その一方、ハードとしては全国どこにでもあるコインパーキングのような低未利用地や空き店舗を資源として活かすことは、どの地域でも取り組める可能性があります。さらに、地域に求められることを検証しながら、少しずつ作っていくアプローチであれば、市民の意見を反映した広場をつくることができますし、それを磨き上げていくことで、地域と一緒に成長していくことを可能にするのかもしれません。

整備前のコインパーキングの様子

作り込まない!オープン後も一緒に作り続ける「みんなのひろば」。

「みんなのひろば」は、最初から全てを作り込むのではなく、地域みんなで作り上げていくプロセスを踏んでいます。それも、市が主導で広場を作り込まず、みんなで一緒に作ることをコンセプトとして、計画の部分から、ワークショップ(WS)で話し合われた内容を盛り込んでいます。広場作りにかかわることで、その場に愛着を持ってもらい、その過程でシビックプライドを培うことに少しでも繋いでいってもらいたいという思いが、市の側にはあったそうです。

中でもひと際目立つのが、広場中央の土管。なんとこれもWSで出てきたアイディアを実現した一つです。通常、平坦な場所に丘を作ったり、丘の上に土管を置くことは、なかなか思いつきにくいものですが、市民参加のWSだからこそ実現したアイディアだといいます。

2014年のオープン前には、この土管のある丘に芝張りをするイベントを開催。約40名のワークショップ参加者や一般市民の方々が芝を敷き、「みんなのひろば」がスタートしました。

しかし、それだけではまだまだ未完成。そこで次に、「みんなでつくろうDIYの会」と題したイベントで、広場奥の柵をみんなで作ります。イベントでは専門家を交えて、DIYを楽しく学びながら、柵を作ったそうです。広場で使うイスなども同じDIYイベントで作り、使っているとのことです。

こうしてWSやDIYイベントに参加した方々の多くは、継続して「みんなのひろば」を利用しているようです。

ひと際目立つ土管

「みんなでつくろうDIYの会」の様子

約9割が「続けてほしい!」

約1年半の社会実験を経て、元々コインパーキングだった場所に、たくさんの人が訪れるようになりました。2015年には推計約5万7000人(1カ月平均4750人)が訪れました。イベント時には、1日におよそ1000人もの人が集まることも。

日常的な使われ方としては、朝は近くの保育園の園児の散歩コースに使われたり、お昼時には近くに勤めるOLがお弁当を食べに来たり、夕方は女子高生の勉強や雑談する場になったりしているようです。想定外だったのが、若い子供連れのファミリーが多いこと。新しいマンションなどに引っ越してきた若い世代の家族は、なかなか顔を合わす機会がありません。「みんなのひろば」には、たくさんの若い世代のファミリーや子どもたちが訪れているとのことでした。

こうした結果、利用者の約9割から、「みんなのひろば」を継続してほしいという声が出てきたと言います。

日常利用のシーン

まちなかで6〜8月の土曜日に開催される土曜夜市に併せたイベント

積極的な関わりを生み出す次の一手は?

多くの来場者でにぎわった「みんなのひろば」ですが、今後はどうなるのでしょうか。

社会実験は2月末を終了予定としていますが、ただいま社会実験の延長を検討しています。多くの方に利用していただき、利用者の方々から継続してほしいという声を頂いていることが一つ。加えて地域の方々が自主的に「みんなのひろば」を使ってもらえるには、もう少し時間が必要だからです。今は、広場や施設を知らない人がまだまだいますので、PRをもう少し増やしていく必要があります。また「みんなのひろば」を使える時間が、周辺の店舗の営業時間と重なり、店舗の方々からの関心が比較的薄いという意見もあります。そのためにも、今後、より一層商店街との連携を深めていく必要があると考えています。

約1年半の社会実験を通して、街なかに居心地の良い場所をつくり、人が集まり始めています。その広場を利用する人たちが、広場で自主的に活動するようになるには、やはりハードルがあることが見えてきたようです。

こうした課題を、これからどのように解決していくのでしょうか。

松山では、「みんなのひろば」の近くにある大街道商店街で、街なか空間活用実験(10月下旬、11月下旬、各9日間)をはじめ、社会実験・実証実験の動きが多くなっています。「みんなのひろば」の社会実験も延長を検討しているということですので、今後も松山の動きが見逃せません!

(この記事は2016年2月3日に下記で掲載された転載です。http://sotonoba.place/matsuyamaminnanohiroba)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?