避難してきたカマキリの子を見守る、たのしい日々。
5月某日。
カマキリの子が一匹、我が家の寂寥たるプランターに落ち延びてきた。
今日もローズマリーのふりをして、腐葉土に惹かれてくるコバエを食べている。
私の家は集合住宅の一階にある。
ベランダの柵を挟んで雑草地帯が1mほどあり、目隠しの植栽がある。
毎年5月の中頃になると、雑草が盛んになるので、草刈りが入る。
すると一時的とはいえ、完全な不毛の地となるため、置き去りにされた虫たちは各戸のプランター植物に身を寄せることになる。
迷惑な客しか来ない店(プランター)
やってくる虫はたいてい害虫で、ハーブの葉を食べ、汁を吸う。
まるで、正月にどこの店もやってないので、突如小さな食堂に客が殺到したようだ。そのため、この時期はプランターは防衛戦の様相を呈す。
防虫ネットを張ったり、まめに観察して虫をはたき落としたりして。
長年の戦いの末、私は疲れ、丈夫で人気が低いローズマリーしか残っていなかった。
益虫到来、おもてなし。
しかし今年は嬉しいことに、捕食者たるカマキリがやってきた。
益虫がやってくることは、プランター栽培愛好家としては、来訪神の到来に等しい僥倖である。
むかしばなしのおじいさんおばあさんよろしく、「むさくるしいところじゃが、好きなだけ泊まってくだされ」という気持ちだ。
ローズマリーしかない痩せたプランターに、カマキリが満足する虫はいるのか?と逆に心配になり、ホームセンターに走り、土の再生材を買ってきて混ぜこんだ。
腐葉土の養分と湿り気に惹かれてコバエが寄ってくる。
水をやると、コバエが驚いて土からとびだす。
それをうまくキャッチして、おにぎりみたいに両手でもぐもぐ食べるカマキリの子はかわいかった。
最終的には、私が指でトントンと振動を与え、コバエを追い立てカマキリの子のもとに追い込み、間接的にエサを与えるまでになった。
コバエって、意外と飛ばずに地面を走るものだと知った。
そういうわけで今年は、あえてまだ防虫ネットをつけないでおいている。
丈夫なローズマリーにしかできない施策だ。長年の信頼の為せることである。
今日もいる。うれしい。
風が強い夜が明けてプランターを覗くと、今日もいる。
雨上がりの朝。今日もいる。
…
今日もいる。
…
今日もいる。
…
そうして毎日カマキリの子の生存を確認するだけで、すっかりうれしくなる。
再び雑草がのびるが先か、カマキリの子が成長してエサが物足りなくなるか。それが別れの時となるが、そうなるまでは元気で過ごしてほしい。
5月はそんな感じでした。