メ酒'23所感 #9(''でじま芳扇堂''他3本)
・でじま芳扇堂
-長崎県長崎市出島町
九州初のどぶろく醸造所''でじま芳扇堂''
「醸造所&酒器うつわギャラリー」として長崎市出島に23年にオープンした。浅草の木花之醸造所 元二代目醸造長の日向勇人さんと出島出身の奥様と二人で経営する。木花之醸造所で桜餅を買った際に日向さんのことを知り、そして私と同じく福岡県宗像市の出身と分かり、今年中に訪れることを決意したのだ。
代表銘柄はどぶろくの''芳扇''と地元の果実を使用したどぶろく''たすき''、そして甘酒だ。芳扇堂は地元の農家と密接に関係を築いており、日向さんは店舗営業の合間を縫って、足繫く通っているらしい。そして何よりも農家の方自身が育て余ってしまった果実などを持参し、芳扇堂を訪れることもしばしば。何とかできないかと相談を受け、新鮮なものは月替わりで果実の変わる''たすき''に。それ以外は甘酒に。6月に仕込んだ''たすき 白桃''では原料の桃が大量にあまりそれを用いて、芳扇を仕込んだことも。伝統的などぶろくを造り地元で循環していく、まさに理想の酒造のありかたである。
訪れた際に購入した上記二本。
・黒甘酒
古来の製法にのっとり黒米でしこまれた甘酒。地元のサヨムラサキを使用し、とろりとしたテクスチャに粒感。ヨモギや桜の葉、香りと苦みが心地よい。古米らしく荒々しくアーシーな雰囲気もある。
・芳扇 雲
波・友・雲の三種を展開するどぶろく芳扇。雲が一番甘口で、友・波の順で辛口となる。一番甘口とされる雲はウリっぽい香りと、米麴の香り。果実味ももちろんがあるが基本的にドライな酒質設計である。粒感は控えめにかなりトロっとしたテクスチャだ。感動するほどの味わいではないがどぶろく本来の味がする。
・澤屋松本 ID597 橘 2019
-松本酒造(京都府京都市)
今も尚、日本酒好きの多くから支持を受ける 松本酒造元杜氏・松本日出彦氏。
私が彼の存在を知ったのは2020年末、まさに松本酒造のお家騒動によって日本酒界隈が揺れている時であった。伝説の杜氏の退任、名だたる有志蔵による武者修行シリーズの敢行、21年 日々醸造による復活。日日の飾り気がなく洗練さを極めた味わいは達人の領域に入りつつある。澤屋松本時代の日出彦氏の酒が飲みたいを思うのは自然な流れであった。
IMADEYAが独自の観点から氷温にて熟成をさせ、リリースされるIMADEYA AGING。日出彦氏が手がけた代表銘柄、守破離 / IDなどは2014年のものから買うことができる。
その中からID597 橘 2019を選んだのは、まだ私に日出彦氏作の5年以上の熟成酒は早かったからに他ならない。
開栓初日ははかなり閉じていて、わずかなアルコールの香気が感じられた。微かなガス感と、味わいも若干固く、味の要素を確かめる前に舌を滑り落ちる。
2,3日目も同じような感じだったが、感じたことのある淡い甘みと相反する芯のある旨み。今の日日に通ずる味わいである。
しかしどうであろう。熟成による深みやプラスαの要素はあまり感じられない。元の酒質が完成されてるが故に、変化する要素が少ないようなそんな印象を受ける。極まった芸術品に素人が額をつけたようなものだろうか。
・大嶺3粒 火入れ 山田錦
-大嶺酒造(山口県美祢市)
透明な瓶にアイコニックなラベルが目を惹く、大嶺。酒造りを始めて13年、自社蔵を持ってからは5年の若い酒造だ。東洋美人・澄川酒造場で修業したというその味わいは、同じく澄川酒造場で修業したというよこやま・重家酒造に通ずるものがある。厚みはあるがやわらかく、酸味はほどほどに米の甘やかなうま味が後を引く。14.5%の原酒ならではの、飲みやすさとリッチさ。甘みがすべてをマスキングしていて、量を飲めるお酒ではない。好みではないが目指すべき酒質がわかりやすい酒である。
精米歩合:50%
Alc.:14.5%
・磯自慢 別撰 本醸造
-磯自慢酒造(静岡県焼津市)
静岡の銘酒、磯自慢。名前だけはもちろん知っていたが飲むのは初めてであった。白隠正宗・高嶋酒造や開運・土井酒造のイメージが強く、旨口の日本酒を想像していた静岡の日本酒だが、こちらは少し裏切られた。
アル添由来の硬い感じと口で転がすと段々と染み出してくる甘み。時間がたつにつれて柔らかさが際立つ。奥に果実味も感じられ、これだから大手の本醸造酒は好きである。繊細な体裁ながら力強さも兼ね備える。ある程度適当に扱ってもそれをものともしないようなタフさがある。どの料理とも非常にあう。ボラの白子との相性は抜群であった。