メ酒'24所感 #1(あべ、天美)
・ARANAMI 2023
-阿部酒造(新潟県柏崎市)
23年12月中旬ごろ購入しタイミングを伺っていたARANAMI。毎年の米の行方を占うような一本だが、相変わらずの完成度である。硬さを見せつつもやわらかい飲み口と静かな旨みは染み渡り、芯のある酸味とあと切れの良さを見せる。あべは開栓後2日目から本番だが、初日の静けさがその後の変化を示唆しているようで、何よりも雄弁だ。
6日後以降もあべの安定感は続き、本当に息が長いお酒だと思い知らされた。
・七本鎗 シェリー樽熟成2019
-冨田酒造(滋賀県長浜市)
滋賀の実力蔵、七本鎗の純米シェリー樽熟成。
生酛や山廃に感じる臭みのある酸味に、飲み口は柔らかく清涼感すら感じる。
速醸の純米のようにするりと飲めるが、奥に深みやコクが隠れており熟成感を存分に感じられる。余韻こそこのお酒の持ち味で、スモーキー、燻製のニュアンスが心地よく残る。常温に戻すと、コーヒーやカカオの感じかより感じられ、上品さとろみ共に増す。19年からの熟成だが、まだまだ若いと感じるポテンシャルがある一本だ。
・been buono(×Fattoria AL FIORE)
-haccoba(福島県南伊相馬市)
haccobaが醸す、ワイン+副原料の新しい形。ぶどう果汁と副原料のみのお酒はもしかしたら初かもしれない。バタフライピー由来の菫色のような外観に、ビールを思わせるふくよかなガス感。ぶどうの果実感に、酵母の香ばしい香り。ランビックのような野性のニュアンスもある。製造方法や目的は新しいが、惜しむらくは味わいが伴っていない。単にクオリティの低い国産ナチュラルワインといった感じである。
・どぶろく みやむら
-我生庵(宮崎県北諸県郡三股町)
宮崎県北諸郡三股町にあるどぶろく特区、百姓屋に続く二軒目となる居酒屋「我生庵」。代表、上石 温さんが造る「どぶろく みやむら」は麹が多めで、かなりのとろみ。食感を感じるほどの滑らかなテクスチャに、米の自然なあまみ。何より飲み心地がとても楽しく、本物のどぶろくというものを初めて体験した。
参考
-宮崎日日新聞2013年8月21日
(https://www.the-miyanichi.co.jp/bimihakken/item_978.html)
・天美 特別純米 火当て
-長州酒造(山口県下関市)
杜氏の辞職から少し経ち、天美を飲む機会を経た。酒質については前知識なしであった。
トロピカルに一歩踏み込むかのような青リンゴ様の濃醇な芳香。厚みのあるフルーティーさだ。飲み口は少しとろみがあり、涼感もある。程よいガス感と酸味。
全体を通して感じる張り詰めた緊張感、凛としたテクスチャは杜氏の実力を浮き彫りにするかのようだ。必要なもの以外必要ないとでも言わんばかりの、綿密な設計をイメージさせる。経過を見ても、2~4日後も変わらず程よいガスと清涼感は保たれている。原酒であるからだけとは思えないほどの力である。不在がその存在を際立たせるように、驚くほど静かな味わいからは雄弁なメッセージを感じさせる。
誇り高いとでも言えばいいだろうか。気品もあり、力もあるそんな味わいだ。