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エジンバラフリンジ2024を振り返って
先月、8月1日から25日までエジンバラフリンジに参加して、毎日1時間のスタンダップコメディーショウをやってきた。
それは、まさに1ヶ月に渡るコメディーブートキャンプ。もしくは、1ヶ月間に渡るメンタルトレーニングであった。
待ちに待ったエジンバラフリンジでのパフォーマンス。しかし、エジンバラの地についた初日、待ち受けていたのは悲劇…
自分のパフォーマンス会場を視察に行くと、なんとそこは小さなカラオケルームのような部屋であったのである。
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「なんだ?この部屋は?カラオケっぽいぞ、、まさか…」と思い、地下への入り口の階段に戻ると、その入り口には「Karaoke room」の文字が皮肉にも僕のポスターの上に、威風堂々と表記されていたのである。
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そう、会場は、地下のカラオケルームであったのだ。
しかもパーティールームでもない、ただのカラオケルームである。
この円安の中、日本からはるばるエジンバラにやってきて、小さなカラオケルームでパフォーマンスするのだ。一昔前に一世を風靡した波田陽区の”残念”というフレーズを思い出してしまうほど、強烈な”残念”を感じた。
ただ、カラオケルームに入ると、なぜか心が落ち着いたのである、まるで日本に帰ってきたような感覚であったのだ。
カラオケルームで故郷を感じるなんて、自分が生粋の日本人であること実感した。
おそらく、アメリカ人は海外で自国発祥のファストフード店に入るたびに、
この気持ちを感じているんだろう。例えば、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、バーガーキング。
だからアメリカ人は、どこに行っても痩せることができないのかもしれない。
ただ、はるばる日本からきた日本人の僕を小さなカラオケルームに割り当てるなんて、運営側は完全なるレイシストだ!
これはイギリス人がはるばる日本まで美味しいものを食べにきて、コーディネーターに予約してもらったレストランに行ったら、ブリティッシュレストランだったのと同じ仕打ちであると言える。
あっそれは違うか、カラオケはイギリスでも楽しめるけど、
イギリス料理は日本でも楽しめないか….
人種差別問い合わせセンターがあるのならば、訴えたいところだが…残念ことに、このカラオケルームは僕が自ら、数多の会場から選んだのだ。
もちろんカラオケルームだなんて知らなかったが…
おそらく、運営側は驚いたに違いない。「この日本人、スコットランドまで来て、自ら小さなカラオケルームを予約してるぞ!生粋のカラオケルーム好きに違いねー!」なんて休憩室で、スタバのコーヒー片手に談笑している姿が浮かんでくる。
あああ、恥ずかしい。
これはアメリカ人の旅行者が日本にはるばる来て、ディナーでマクドナルドを訪れるのと同じである。
あっマクドナルドはアメリカ人の主食だからしょうがないか。
カラオケルームを下見した後、明日からフェスティバルがはじまるというのに、意気消沈。エジンバラのどんよりした曇り空がさらにネガティブに拍車をかけた。
俯きながら呆然とエジンバラの街を徘徊していると、突然、大きな歓声と笑い声が聞こえてきたのだ。
顔を上げ、歓声の聞こえる方を見てみると、そこにはパンツ一枚、小太りのイギリス人の中年おじさんが、ロープの上でバランスを保ちながら、お腹に挟まった小さなフラフープを抜くと言う究極のフィジカル芸を披露していたのである。
その形相は真剣そのもので、火事の中、必死に人命救助を行うレスキュー隊を連想させた。実際は、ただロープの上で腹に挟まったフラフープを抜こうとしているだけなのに。
そして、時々吹く風に揺れるロープの上で、どうにかこうにかバランスを保ちながら、なんと彼は、見事にフラフープをお腹から抜いたのである。
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その瞬間、観客たちは大興奮。まるで彼が燃え盛る炎の中、助けを求める子供の命を救ったヒーローであるかの如く、彼への拍手喝采は鳴り止まなかった。
実際は、ロープの上で中年のおじさんがパンツ1枚になって、自ら挟んだフラフープを自ら抜いただけなのに。
その見物人たちの盛り上がりと一体感を見て、僕はこのパンツおじさんに大きな感銘を受けた。彼は、日々、黙々とロープの上でパンツ一枚になり、フラフープを抜き取る練習をしているのだ。
いろんな心の葛藤があったに違いない。
「俺は一体何をやってるのか?」何千回と自分の問いかけたことがあるだろう。
しかし、彼はそんな冷静な心の声に耳を傾けず、ひたすらにその意味不明な芸を磨いてきたのだ。
そして、今日、このようにエジンバラの道ゆく人々を楽しませているのだ。
自分の道を突き進み、己の芸を磨き続ける、そのパンツおじさんの生き様を見て、カラオケルームを下見して落ち込んでいた自分が、猛烈に恥ずかしくなった。
「場所なんて関係ない。そこにお客さんがいるのなら、それだけで十分だ!己の出せる力を出し尽くし、目の前のお客さんを楽しませるだけだ!」そんな風にパンツおじさんから鼓舞激励をされた気がした。
何より、パンツ一枚になりロープの上でお腹に挟まった小さなフラフープを抜き取るというエンタメを楽しめるのは、今、我々がこの瞬間、平和を享受しているからなんだ!と言う世界平和へのメッセージさえ感じてしまった。
そんな中年パンツおじさんとの出会いで、どうにかモチベーションを取り戻すことができ、パフォーマンス初日を迎えることができた。
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本格的にエジンバラフリンジが開催するのは、翌日の8月2日からであるが、僕はその前夜祭とも言える8月1日からパフォーマンスをすることにしていたのだ。
しかし、残念ながら、初日、ショウが始まる時間にきたお客さんは、韓国人と台湾人の女性2人だけであった。アジア人3人でカラオケルームにいると、より一層カラオケルームがカラオケルームに見えてきて、カラオケルームで歌わずにいる自分に違和感を感じてしまった。
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例えるならば、IT企業で働いてるインド人がエンジニアじゃない。
もしくは、アフリカにいる白人が、ユニセフで働いていない。
または、ダンススクールにいる黒人が、先生じゃない。
という感じの違和感である。
留学生だという美しいアジア人女性2人の前で、ショウを始め、当初の予定とは大幅に変更して、アジア人向けのネタをやっていると、突然、中年のイギリス人カップルがカラオケルームにやってきたのだ。
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すでに今日はアジア人二人だけだと油断して、大幅にネタを変更していたので、突然のイギリス人カップルの登場に、ネタをどうすべきか?動揺してしまい、パフォーマンスは酷いものとなった。
挙句のはてに、今まで一度も試したことないネタを試してしまったのだ。そのネタは、
日本人が結婚後セックスレスになるのは、本当の家族になるからで、パートナーとの性行為は近親相姦と同じで、想像するだけで気持ち悪くなってしまうのだ。だから、日本での真実の愛とは、相手とのセクシャルな行為を思い浮かべた時に…
吐き気を催すことだ!
それが真実の愛なんだ!
という…なんとも反応に困るようなネタを女性3人の前で披露し、お客さんのイギリス人女性から
「なぜ女性3人の前でそのネタを選んだの!?」と愛のある優しいイジリをうけてしまったのだ。
(そんなジョークやるんじゃねーという意味である)
そして30分が経過したころ、イギリス人の中年カップルは、「予定があるから!帰るね!」うそで塗り固められた笑顔を振り撒き、途中退席してしまったのだ。
その後、コメディーを諦め、台湾人と韓国人とカラオケを楽しむことにした。すごく盛り上がった。彼女たちは楽しそうだった。
コメディーを観ている時よりも。
その後は、かなり落ち込んだ。僕は会社をやめてからの8年間一体何をやっていたんだろうか?と。一人になりたくなかったので、気晴らしに、近くで行われている、フィジカル芸を披露するコメディアンが数名パフォーマンスするショウを観に行く事にした。
そこに現れた救世主が、パンツマンおじさんだ。
その、中年のイギリス人おじさんはパンツ一丁で、マスクを被りタイガーマスクのような風貌で現れた。
「俺のジョークが滑ったらパンツを脱ぐぜ!」とぶち上げ…
結果10枚くらい重ね着したパンツを脱ぐことになり、
最後の一枚を脱ごうとしたところ、強制退出させられた。(すべてネタ)
というなんともくだらないパフォーマンスに会場は大爆笑。
それを見て、僕は気がついたのだ。
滑ったことをネタにすればいいんだ。
あのパンツマンおじさんがパンツを脱いだみたいに。
今日散々に滑った事実も、日本からはるばる来て小さなカラオケルームでコメディーをやってることもすべてネタにしよう。
チャップリンの有名な言葉であるじゃないか!
「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」
滑れば滑るほど、ネタが増えると思えれば、パンツを脱いでいくみたいに、笑いを生み出すネタができるということなのだ!
そうだ!コメディアンは失敗すればするほど、コメディアンとして面白くなれるのだ。
その矛盾があるからコメディアンには、メンタル疾患の人が多いのである。
すぐさま、自分のショウでカラオケルームでコメディーをやってることを明るく自虐すること、滑ったらカラオケする!というネタを加えた。そしてそのネタはいい掴みになったのだ!
ありがとうパンツマンおじさん!
(イギリス人ではパンツ一丁のおじさん達に助けられた)
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中年パンツおじさんとパンツマンおじさんの二人のパンツおじさんのおかげで、気持ちを切り替えることができ、カラオケルームで前向きにコメディーに打ち込むことができたのだ。
エジンバラフリンジ本番が始まると、ほぼ毎日のように満席になった。(22-25人くらいくれば満席になる小さなカラオケルームなので…)
ただもちろん、大ウケの日もあれば、反応がイマイチの日もあり、滑り倒した日もあった。
フリンジフェスティバルが始まって5日目。敬虔なクリスチャンの家族(お父さんと美人なマダム妻と美しい大学生の2人のお嬢様)が途中からショウに参加してくれたことがあり、その家族が入ってきた瞬間、カラオケルームの空気が一変したのだ。
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「お前…エッチなネタはやるなよ」という空気に。
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なぜならば、その日はノリが良い男性客が多かったので、バンバン下ネタを言っていたのだ。ちょうど自分が早漏であるというネタをしている時に、そのクリスチャンらしき一家が入ってきたのもあった。
クリスチャンらしき一家が参加してから、僕は下ネタを封印し、文化ネタにシフトしたのだが、意外や意外、その一家のノリが結構良かったのである。
そして、一つの考えが浮かんできた。
「これはちょっと下ネタ入れても大丈夫じゃないか?」
コメディアンとして、この場所でエッチなネタにチャレンジしてみたくなってしまったのだ。
手始めに、イギリス人の彼女と付き合ってる時のエピソードとして、早漏な僕をみかねた彼女から、バイブとディルドを同時に使えと命令され、仕方なく、左手にバイブ、右手にディルドを持って、彼女に挿入したら。
彼女が「あなた最高よ!ベストだわ」
と言われたので、
僕は「当たり前だろう、僕は日本人だ!」
「Good at engineering!!!! 」
会場が爆笑と失笑に包まれる中、中流階級の夫婦も、思わず吹いていたのだ!これはいけるかもしれない!
それが全ての誤りの始まりであった。
これに乗じて、僕は日本のHentaiを紹介するジョークも披露することにした。(当初はやらないつもりであったが…)
海外では、Hentaiとうい言葉の意味は、アニメポルノと思われているのだ。だが、日本でHentaiとは、アニメポルノのことではない、変な性癖を持った人のことである。英語でいうならば、Pervert(変態)である。
日本語でHentaiというのは、アニメポルノのことではなく、Pervert(変態)のことである。
例えば…
変わった性癖がある人
覗きする人
小児愛者
英語に翻訳すると,,,
カトリックの司祭!!!
(海外でよくカトリックの司祭が児童に猥褻な行為をしたというニュースが報道されるので…)
そのイギリス人家族の表情が一変した。
僕はまさか? と思い、聞いてみた。
「あなたはカトリックですか?」
お父さんは自信を持って答えた。
「そうです」
奥さんはこう言った。
「彼はカトリックの司祭です」
本来のコメディーショウであれば、このやりとりで爆笑が生まれるはずだが…気まずい失笑が、悲しくカラオケルームに鳴り響いただけであった。
僕は言った。
「 隣人を愛せよ、アーメン」
それに…お客さんの一人だけが大爆笑するという…やばい雰囲気にカラオケルームが覆われた。
ショウは残り10分であったが、その夫婦は優しく言った。
「僕たち、ちょっと予定があるので、失礼します。」
嘘みたいな下手くそな演技で時計を見て、途中退席してしまった。
そしてお客さん達から僕は、「アーメン」と慰められたのであった。
25日間にわたるカラオケルームでのコメディーはまさに修行そのもの。小さなカラオケルームで満席になると、30cm前にお客さんがいるという、中途半端に満員な電車の手すりにつかまり立っている乗客と、その前に座ってる乗客の距離感である。
笑わせるのは至難の技であった。(そしてほとんど最前列を笑わせることはできなかった…)
フェスティバルが始まった最初の5日間くらいは、男性客が多かったので、「ぶっかけ」に関するジョークをやっていたのだが、一度、最前列が全員若い女性の時に、間違えてぶっかけジョークをやってしまい。まさにぶっかけの距離にいる最前列の女性達を前にぶっかけジョークをやり、飛沫をぶっかけてしまったこともあった。
そして、何よりも、情緒不安定なエアコンに僕らコメディアン達(カラオケルームバディー)は苦しめられた。
そのカラオケルームに設置されたエアコンは、フリンジ期間中の半分以上は、水漏れをしていた。
二箇所からポタポタと水を垂らし、その水の垂れる場所にビールグラスを置いて対処していたので、ショウの中盤くらいになるとグラスに水が溜まりだし、ポタポタと音を奏でるのである。
何よりも辛かったのは、スベッた時に、水の音がポタ…ポタ…とカラオケルームに反響することであった。
その悲しい響きは、静観な日本庭園で、池のコイが飛び跳ねた後の、静寂を感じさせた。
一度、お客さんが数人で、スベり続けた日があったのだが、その時のお客さん達は、無の境地に達したような僧侶のような表情で僕を見つめ続けた。
僕は、笑わせようと踠くのをやめて、心を無にして、己のためにパフォーマンスするというゾーンに入っていた。(コメディアン失格である)
そして、一か八かで、普段やらない、少しブラックなジョークを言ってしまったのだ。
日本のクリスマスがカップルで過ごす日となったのは、全てビジネスであり、儲けるためである。
アメリカが戦争を仕掛けるのと同じ理由である。
案の定、こんな美しいスベり方があるのか?と思うほどに、エレガントにスベった。
その時、カラオケルームは、感情が消滅した無の世界に覆われた。
そして、エアコンディショナーがビールグラスに垂らす水滴の虚しい音が、カラオケルームに鳴り響いた時、
僕は、侘び寂びを感じた。
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そして、禅の修行の行く末にある無の境地とは、このことなのではないか?と思ってしまうほどの、これまでに体感したことのない、感情のない、無の領域(もうどうにでもなれ)に心が達したのである。
おそらくお客さんも…
しばらくの静寂の後、耐えきれず「ようこそ禅の修行へ」とジョークを言っみたら、それを聞いたお客さん達は、さらに深い瞑想に入り込み、悟りを開きそうになっていた。
僕はコメディアンではなく、坊主になった方がいいんじゃないか?と思った、そんな夜もあった。
まさにコメディーの武者修行というような1ヶ月間であったが、多くを学ぶことができ、とても貴重な経験をすることができた。
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この経験を東京での訪日外国人観光客向けにやっているショウに生かしたいと思う。
東京(浅草)に来ることがあれば、是非、日本を紹介するスタンダップコメディのイベントにお越しください!