プライマリーバランスの黒字化は必要か

政府の掲げている「財政健全化」とは、国や地方公共団体の歳入・歳出のバランスを改善し、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させること、公債等の残高を減少させることであると考えている。

財務省や経団連は、財政健全化の為にプライマリーバランス(以下PB)の黒字化を説いているが、本当に優先すべき事項なのか、黒字化することによる国民に対してのメリットは何か、正直なところ不明だ。

そこで、既に多くの人々が記事にしているが、この財政収支の黒字化は本当に必要不可欠なことなのかを自分なりに考えていきたいと思う。

※マクロ経済学の話も出てきますが、筆者も明るくはない為、記述に相違があった場合はご連絡ください。




基礎的財政収支の黒字・赤字

プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは

プライマリーバランス(基礎的財政収支)は、下記サイトに示されている通りだが、国の税収および税外収入と、政策に係る費用(政策的経費)との収支のことを指す。

財務省は、このPBの黒字化を少なくとも2025年度には目指しているようだ。

なお、民間企業などの収支を表す民間部門収支、貿易による収支を表す海外部門収支も存在する。


貯蓄投資バランス

マクロ経済学の話になるが、上記の3つの収支合計額は、必ず0になる。

まず前提として、下記のGDPに関する計算式を覚えていく必要がある。

Y = C + I + G + (EX - IM)

[支出面から見たGDP = 消費 + 投資 + 政府支出 + (輸出 - 輸入)]

支出面から見たGDPの計算式

Y = C + T + S

[分配面から見たGDP(所得) = 消費 + 租税 + 貯蓄]

分配面から見たGDPの計算式

そして、上記のGDPの計算式から、例えば経常収支(貿易による収支)について解く場合は、下記のようになる。

C + T + S = C + I + G + (EX - IM)

(EX - IM) = (S - I) + (T - G)

[経常収支 = 民間の貯蓄超過 - 政府の財政収支]

貯蓄投資バランス式(経常収支)

この式を貯蓄投資バランス式(ISバランス式)と言い、さらに変形させることにより、合計額が0であることが分かる。

(S - I) + (T - G) + (EX - IM) = 0

すなわち、財政赤字を解消し、黒字化を目指すという目標は、言い換えれば民間部門もしくは海外部門は必ず赤字が発生するということでもある。


プライマリーバランスの黒字化

メリットとデメリット

財政健全化の一つの目標として、PBの黒字化を掲げているのは、確認できるだけでも日本くらいである。

財政赤字が発生したとしても、財政健全化は可能だが、このPB黒字化に固執するあまり、一部の人からは「ザイム真理教」という蔑称で呼ばれている。

PBの黒字化を進めることによるメリットと言えば、

  • 国債に対する信頼性が高くなる

  • 財政出動時も、公債の発行を抑えられる

といったところだろうか?

一方デメリットは、

  • 健全化を進める際に、増税等によって国民の負担が増大する

  • 支出削減のため、事業の民営化が進められる可能性がある

  • 雇用に対する費用が少なくなり、失業も増加すると見込まれる

  • GDPの成長が鈍化する

等のように、緊縮財政を助長させるものとなる。


なぜプライマリーバランスの黒字化を求めるのか

財務省や経団連の方々は何故PBの黒字化に固執するのか?

黒字化の理由付けとして、財源の確保公債の返済IMFからの提言の他、債務残高に対する対GDP比の改善もあると推測される。
(債務残高の国際比較をした財務省の資料↓)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.pdf

「財政赤字は悪であり、これが続くと財政破綻の恐れがある」と主張を続ける人物も多い。
しかし、財政赤字が続いて破綻する、と唱えているものの、30年以上もPBは赤字のままであり、年を追うごとに拡大し続いているにも関わらず、主張にあった財政破綻、ひいては債務不履行(デフォルト)は起きていない。

特に、日本におけるデフォルトは赤字の拡大によっては起きないものである。
その理由として、政府には円に対する通貨発行権が備わっており、100%自国通貨建て国債で構成されている日本では、やろうと思えば通貨発行権を行使して、返済ができるためである。

なお、これに関しては、他ならぬ財務省のサイトで以下のように記載している。

日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。

財務省 "外国格付け会社宛意見書要旨"より

※もちろん、他国通貨建ての国債の場合であれば、その政府に通貨発行権は無いため、支払い能力不足によるデフォルトは起きる
(例:ギリシャ)。

上記の点を考慮すると、PBの黒字化に固執する理由というのは、陰謀論のような考え方を除けば、主流になっている経済学・財政学では「均衡財政こそがあるべき姿だとしているようであり、その均衡を崩す赤字は許容しがたい、といった理由なのではないかと思われる。


黒字化の為の手段

そのPB黒字化を進めるために、緊縮財政ともいえる政策がとられてきた。
代表的なものは、消費税の増税だろう。
他にも、一部の自治体で行われている水道民営化も該当すると思われる。

なお、消費税が増税する代わりというべきか、法人税は減税されているようだ。

成長が鈍化しているような、デフレの状況でとるべき策は、減税や公共投資の増加を行う等、積極的に財政出動を行う事だ。
そしてインフレが始まれば、財政を緊縮させる、というのは基本といえる。

このような緊縮財政の状況で、黒字化に固執したうえで、どうやって経済を成長させようというのだろうか?


プライマリーバランスの黒字化は必要か否か

現在の日本の状況や、他国が財政健全化の目標として挙げていないことを鑑みれば、黒字化はする必要がない

そもそも、PBの赤字を家計の赤字に例えるべきではない。
家計で赤字が発生すれば、それを埋めるように外部から資金を調達し、費用を削減して返済の資金を捻出する。
しかし政府は、3つの部門(財政収支・民間部門収支・海外部門収支)があり、財政収支が赤字であれば、他部門は黒字である為、そこから融通を効かせることができる。
しかも、日本の政府には円の通貨発行権があるので、なおさら家計とは違う。

今政府がとるべきは、

  • 消費税を減税、および法人税の税率を見直す

  • 公共事業を増加させる

といった積極的な減税や財政出動を行い、景気を回復させ、GDPを底上げするべきだろう。
もちろん、過度な財政出動によるインフレには気を付ける必要がある。

経済を成長させたいと考えるのであれば、PB黒字化というどの国も採用していないような指標は廃止でもしたほうがいいだろう。


参考資料↓


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