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ばけものフレンズ 第1話

 ボクは、眼鏡の九十九神つくもがみだ。
 眼鏡というだけで、小さい頃から、
 みんなに笑い者にされていた。

1ー1 朝の通学路


 楽しそうに爆走する女子高生、ナナミ。

「遅刻だぁ ヒャッハーっ!!」

 緊張した表情の男子校高校生、メガネ。

「新しい学校 なじめるかなぁ」

 2人は交差点でぶつかりそうになる。

メガネMモノローグ(あぶなっ)

 ナナミ、猫耳と七尾が現れる。
 メガネの肩に手を置き、颯爽と飛び越える。

メガネM(ぶつかって ない?)
ナナミ「びっくりさせて ごめんね」
ナナミ「キミも急がないと 遅刻だよ~」
メガネM(そっちの道は …遠回りじゃ?)

1ー2 青葉高校 教室

 着帽河童かっぱ教師、カワノ。
 人間の生徒、シキ

カワノ「今日は転校生が来る」
カワノ「はずだったが まだ来てない」
カワノ「もし見かけたら 職員室に案内してくれ」
カワノ「名前はメガネ こんなヤツだ」

 カワノ、墨絵風の似顔絵を見せる。
 そこには眼鏡がかかれている。

シキ「先生っ それ 眼鏡ですけど」
カワノ「そうだ 眼鏡だ 眼鏡のメガネ君だ」
カワノ「…わかる わかるよっ!」
カワノ「先生もみんなと同じことを思った」
カワノ「だが これが現実だ」
カワノ「受け入れろ」
シキ「よくわからないんですけど…」
シキ「探した方がよくないですか?」
シキ「最近 黒い影わるいものも よくでるって」
シキ「クラスメイトですよ」
シキM(まだ あってもいないけど)
カワノ「まぁそうなんだよな 担任としても気になる」
カワノM(まだ会ってもいないけどな)
カワノ「しゃーない 1時間目の授業つぶして」
カワノ「みんなで探すか」
生徒一同M(シキ グッジョブ!)

1ー3 通学路 道端

 メガネ。道端で立ちすくむ。
 大きな黒い影に、とおせんぼ、されている。
 メガネ、横にずれる。黒い影も横にずれる。
 メガネ、黒い影を見上げる。
 黒い影、にちゃぁ、と微笑む。

メガネM(どうしよう 通してくれない)
メガネM(…考えてもしかたない また回り道をしよう) 

 メガネ、今朝の交差点に戻る。

メガネM(そういえば さっきの人 青葉高校の制服だった)
メガネM(近道でもあるのかな? 行ってみよう)

 メガネ、ナナミが走っていった方向に進む。
 地図に無い、抜け道を見つける。

メガネM(ここ 通れたら近道になりそう)
メガネM(これなら 行けそうかも)

 そう思った矢先やさき、黒い影が立ちはだかる。

メガネ「あ あの ……どけてもらえませんか?」

 黒い影、手が生えて通せんぼをする。

メガネM(だめか)
メガネM(どうしよう そろそろ 変身が…)

 メガネ、溜め息。
 悲しそうに黒い影を見る。
 黒い影、にちゃぁ、と笑う。
 次の瞬間。

ナナミ「垂直降下 ナナミキックー!」

 ナナミの蹴りに黒い影は霧散する。

ナナミ「大丈夫だった?」
メガネ「はっ はいっ!」

 ナナミ、メガネに近づく。
 目を細めて、顔を確認する。
 それから鼻をすんすん・・・・させる。

ナナミ「キミ 今朝の!」
メガネ「はい ぶつかりそうになった者です」
ナナミ「そうか~ ごめんね 私 目が悪くてさ」
ナナミ「君は メガネ君 だよね?」

 メガネ、眼鏡をすちゃっ・・・・と押し上げる。

メガネ「はい 眼鏡の九十九つくもがみ。 メガネです」
ナナミ「私は 究極生命体ナナミ 七尾の猫又ねこまただよ」
メガネ「高校生で七尾って 天才じゃないですか!」
ナナミ「その通り! いいねぇ!」
ナナミ「メガネ君はわかる子だねぇ」
メガネ「…ナナミさん ……あのぉ」
ナナミ「なんだね なんだね?」
メガネ「変なことをお願いするのですが」
メガネ「ボクを 眼鏡として」
メガネ「かけて もらえませんか?」
メガネ「すみません… そろそろ 変身が…」

 ポンっ、の音。
 メガネ、眼鏡にもどる。

メガネ「……おねがい ……できますか?」
ナナミ「特別だよっ」

 ナナミ、テレテレしながらメガネをかける。
 すちゃっ・・・・とメガネを押し上げる。

ナナミ「な な なんじゃこりゃー!」
ナナミ「見えるっ! 見えるぞッ!!!」
ナナミ「山で芝刈しばかりをしているおじいさんが見えるっ!」
ナナミ「学校の屋上で水蒸気吸ってるシキが見えるっ!」
ナナミ「ゴミ袋をつついているカラスのっ」
ナナミ「心の中がけて見えるっ!」
ナナミ「どうなってんのっ!?」
メガネ「千里眼です ボク 普通の眼鏡より」
メガネ「ちょっとだけよく見えるんですよ」
メガネ「今は ボクの視界がそのまま」
メガネ「ナナミさんにも見えている状態です」
ナナミ「メガネすげェ!」
ナナミ「よっし! 景色見にいこう!」
メガネ「えっ えっ? 学校は?」
ナナミ「1時間目は自習だから 2時間目まで戻れば」
ナナミ「全く問題なし! いくぞっ!」

1ー4 街を一望できる場所

 メガネとナナミ。
 小高い山の上から景色を一望する。

メガネ「うわ~ 良い景色ですね」
ナナミ「でしょ! ホント 良い眺めだよね」
ナナミ「どう? この景色は 気に入った?」
メガネ「はいっ」
ナナミ「それはよかった」

 メガネ、もじもじしながら。

メガネM(もしよかったら たまにこうして)
メガネM(眼鏡として 使って欲しいなぁ)
メガネM(そんなこと言ったら 変に思われるかな)

 メガネ、昔を思い出す。
 眼鏡というだけで、笑い者にされた過去。
 嫌な記憶がちらつき、言葉がでない。

メガネ「……っ」
ナナミ「? どうしたの?」
メガネ「あの ……すみません」

 メガネ、ぎこちない笑顔でかえす。
 ナナミ、「?」を浮かべながらも、話題を変える。

ナナミ「私さ この景色 久しぶりに見たんだよね」
ナナミ「小さいときに見て それっきりずっと」
ナナミ「今日 久しぶりに見て なんか感動しちゃって」
ナナミ「ぼんやりとしか見えてなかった景色が」
ナナミ「ホントは こんなにもキレイなんだ って」
ナナミ「普通の眼鏡だと すぐ外れちゃったり」
ナナミ「壊したりしちゃって だから」
ナナミ「たまにこうして」
ナナミ「眼鏡になってもらってもいい?」
メガネ「はいっ ぜひっ!」
ナナミ「じゃあ こうしよう」
ナナミ「お互いに あだ名で呼び合おう」
ナナミ「それが OK の合図」
ナナミ「私は ナナミん」
ナナミ「キミは何て呼んだら良い?」
メガネ「ガネっち でお願いします」
ナナミ「OK! よろしくね ガネっち」
メガネ「よろしくお願いします ……ナナミん」

1ー4 学校生活

 数日間。
 眼鏡をかけたナナミが、高校生活をエンジョイする。
 ナナミと一緒にいて、学校生活に楽しさを感じるメガネ。
 それを影から、ただならぬ様子で見ている女子生徒、ナシ。
 放課後。
 ナシ、イライラとしながら道端の石を蹴る。

ナシ「ったく おもしろくないっ!」
ナシ「なんなんだよ アイツっ!」
ナシ「ナナミちゃんと ベタベタしやがって」
ナシ「私は 小学校からずっと」
ナシ「ナナミちゃんと 一緒だったのに っくそ」

 ナシの足元に、黒い影が蛇のように近づく。
 足元から、ナシの体を這い上がる。
 ナシの体に、黒い影が染み込んでいく。
 ナシの口元くちもとが動く。

ナシ「そうか あいつを 壊しちゃえばいいんだ」

2ー1 放課後の教室

ナシ「メガネ君 ちょっと」
メガネ「はい どうしました?」
ナシ「旧校舎から理科の実験道具を運び出すんだけど」
ナシ「手伝ってくれない」
ナシ「ん? もしかして 何か予定あった?」
ナシ「すぐに終わるけど」
メガネ「わかりました お手伝いします」
ナシ「じゃあ ついてきて」

 ナシ、口の端がつり上がる。
 それから少し後、ナナミが教室に入る。

ナナミ「あれ? ガネっち いない??」

2ー2 旧校舎理科室

 ボロボロの旧校舎。
 いかにもでそう・・・な雰囲気。
 ナシ、理科室の扉をあける。

ナシ「必要なものはメモしたから 先に探してて」
ナシ「私は運ぶ用の台車を見つけてくるから」
メガネ「はい わかりました」

 ナシ、別教室へ
 メガネ、理科室を見渡す。
 不気味な雰囲気。
 いびつぎされた骨格標本が、
 2体ならんでいる。
 かたっ、という音。
 驚きながら見る。
 ネズミが戸棚から出て、走っていった。

メガネM(驚かせないでよ)
メガネM(早く終わらせよ)

 戸棚を開け実験道具を取りだし机に並べる。 
 後ろから、ぬちゃぁ、という湿った音。
 メガネ、後ろを振り替える。
 なにもない。
 ホッとする。
 ガシャん、と何かが倒れる音。
 机に目を戻すと、集めた実験道具が
 めちゃくちゃに散乱している。
 メガネ、危険を感じて教室の外に出ようとする。
 扉があかない。
 前を見ると、窓ガラス越しに無数の両手が張り付く。
 その手のひらから、一斉に目が開く。
 妖怪《手の目》
 メガネ、思わず後ずさる。
 机にぶつかる。
 何かに手首と足首を、強く掴まれる。
 手首は、机から生えた手で、しっかり固定されていた。
 目の端に、ネズミの死体が入る。
 手がネズミの体を、撫でるようにして削り取っている。
 残った骨が、運ばれていく。
 メガネ、ぎの骨格標本に目が移る。
 骨格標本に、新しい骨が継ぎ足される。
 メガネ、ヤバイ状況だと理解する。

メガネ「だれかっ!」

 冷たい手がメガネの口を塞ぐ。
 別の手が喉に触れる。
 力が込められる。

メガネ「ーーっ!!」

 扉が蹴破り、ナナミが入ってくる。
 ナナミ、うなぎボーンをばらまく。
 我先われさきに、と手が延びる。
 メガネから手がほどける。

ナナミ「ガネっち 逃げるよっ!!」
メガネ「はいっ」

 骨にありつけなかった手が、
 もっとくれ、とナナミにのびる。
 ナナミの動きは悪い。
 つかまって、引き剥がして、を繰り返す。

メガネM(動きが悪い よく見えないから か) 
メガネ「ナナミんっ!」
ナナミ「待ってました!」

 メガネ、ナナミに飛び込みながら、眼鏡に戻る。
 ナナミ空中で眼鏡をキャッチ&装着すちゃっ

ナナミ「全力でいくよっ 絶対はずれないでねっ!」

 ナナミ、手の猛追を振り切り旧校舎を出る。

2ー3 旧校舎外

 ナナミ、メガネ、2人でへたりこむ。

メガネ「ありがとうございました」
ナナミ「無事で良かった でも」
ナナミ「どうしてあんな危ない所にいたの?」

 メガネ、ナシの顔を思い浮かべる。
 ナナミとナシの関係を考え、黙っていることに。

メガネ「ちょっと気になって 冒険心で」
ナナミ「そっか 最初に教えておけば良かったね」

 ナナミ、メガネを見る。
 それからうつむく。

メガネ「どうしたんですか?」
ナナミ「なんかさ ガネっちと一緒にいて」
ナナミ「たのしかったし」
ナナミ「ホントに世界が変わったんだ」
ナナミ「でも さっき気がついちゃった」
ナナミ「私は なにも変わってないんだ って」
ナナミ「ガネっちの力を借りてるだけなんだ って」
ナナミ「このままだと 私 ずっと」
ナナミ「ガネっちに頼り切りになるなぁ って」
メガネ「そんな ボクはーー」

 メガネ、過去の嫌な記憶が頭をよぎる。
 思い出に邪魔されて、言葉が出てこない。

ナナミ「決めたっ! 私 目を良くする!」
ナナミ「ガネっちに頼らないように」
ナナミ「視力回復のトレーニングをする」

 ナナミ、立ち上がり背伸びをする。

ナナミ「よしっ! なんか スッキリした」
ナナミ「これも全部 ガネっちのおかげ」
ナナミ「これからも よろしくね メガネっち・・・・・
ナナミ「じゃあ また明日」

 メガネ、なにも言えず、ただ見送る。
 それから、ナナミの言葉に落ち込む。
 肩を落とすメガネに、ナシが近づく。

ナシ「なんで 言わなかったの?」
メガネ「ボクがナシさんだったら 言われたくないから」
ナシ「なに? 私のことを考えてくれたってわけ?」
ナシ「感謝なんてしないから」
ナシ「それに 結果的に良かった」
ナシ「ナナミちゃんが あんたから離れたから」
メガネ「……そうだね」
ナシ「悔しくないの?」
メガネ「それで みんな幸せなら」
メガネ「ボクは いい かな……」
ナシ「なにそれ 優等生のつもり? だっさ」
ナシ「あんた マジ イライラするわ」

 メガネ、何かがキレる。

メガネ「……ナシさんは 怖くないんですか?」
メガネ「思ったことを そのまま言って そうして」
メガネ「相手を傷つけたり 嫌われたり するのが」
ナシ「なにそれ? こっちに押し付けないでよ」
ナシ「あんたが嫌なのは 自分が傷つけられることでしょ」
ナシ「それを 相手に押し付けてるだけ」
ナシ「そんなの ただの言い訳」
ナシ「そうして くさって 肥料にでもなってろよ」

 ナシ、立ち去る。

メガネM(……ナシさんは すごいな)
メガネM(あんなにハッキリ 言いたいことを言えて)
メガネM(……ボクも あんなふうに 言えるのかな)

 メガネ、寝転んで空を見上げる。
 雲ひとつない青空を見つめる。
 ナナミの言葉が、頭をよぎる。
   ーー決めた。
 それから、ナシの言葉
   ーーそんなの ただの言い訳。

 メガネ、嫌な思い出が目の前にあらわれる。
 その記憶に向かって、えようとする。

メガネ「……っ ……っ」

 怖くて、言葉がでない。
 メガネ、奥歯を噛みしめ、立ち上がる。

2ー4 旧校舎近くの木の前

 ナシ、拳で木を叩く。
 
ナシ「マジ ムカつく」

 ナシの周りに、黒い影が寄ってくる。
 影はナシにまとわりつき、染み込んでいく。
 ナシ、それに気がつかない。
 制服の内ポケットから護身用のコンパスを取りだす。
 木を思いっきり引っ掻く。
 ナシ、その傷を見て、気持ちが落ち着く。
 恍惚こうこつとした表情を浮かべる。

2ー5 通学路

 数日後。
 メガネ、野良猫相手に思ったことを言う練習をしている。
 後ろから声がかけられる。

ナナミ「なにしてるの?」

 メガネ、驚き声をあげる。
 それからナナミを見る。
 ナナミ、サングラスのような視力向上眼鏡をかけている。
 メガネ、まじまじと見てしまう

ナナミ「ああ これ? これをかけてると」
ナナミ「視力が回復するんだって」

 メガネ、似合っていないと思う。
 それを、言葉に出そうとする。

メガネ「それ……」
メガネ「……なんか新鮮ですね」
ナナミ「遠慮 しなくていいんだよ」
ナナミ「クワトロ大尉と 呼んでくれて」
メガネ「ボク Zゼータは途中で挫折してしまって…」
ナナミ「いいねぇ メガネっちは わかる子だねぇ」
ナナミ「じゃあ 今度貸してあげるよ」
メガネ「ホントですか お願いします」

 ナナミ、笑顔を見せる。
 メガネ、笑顔で返す。

ナナミ「じゃあ 私は行くね」
ナナミ「メガネっちも 学校 遅れないようにね」

 ナナミ、手を振って走っていく。
 それを見送るメガネ。
 野良猫が、にゃぁ、と鳴く。

2ー6 旧校舎近くの木の前

 ナシ、傷だらけの木の前に立っている。
 日増しに、傷が増えていく。
 ナシの影が濃くなっていく。

3ー1 ある日の放課後 旧校舎近くの木の前

 ナシ、いつものようにナイフで木に傷をつける。
 そこにシキが来る。

シキ「あんたさ それ そろそろヤバいよ」
シキ「気づいてる?」
シキ「黒い影わるいものに憑かれてるの」
シキ「保健室にいった方が 良いと思うけどな」
ナシ「なんで お前なんだよ」
ナシ「なんで ナナミちゃんじゃないんだよっ!」

 ナシのまわりに黒い影が集まる。
 ナシの体からにじみ出す影と合わさる。
 影は実体化し、不定形がナシに覆い被さる。
 ナシ、完全に取り込まる。
 異形の様相をした、タタリ神になる。
 タタリ神、シキに不定形の腕を振りかぶる。

シキ「ちょっと! それはシャレにならんて!」

 振り下ろされる腕。
 ナナミ、シキをお姫様だっこして駆け抜ける。

ナナミ「大丈夫だった?」
シキ「ナナミ大好き いくら払えばいい?」
ナナミ「冗談はいいから ここは私が何とかする」
ナナミ「だから安全なところに行って」
シキ「アレ 相当だよ 大丈夫?」
シキ「それにあいつ… 中身はナシだよ」
ナナミ「えっ? ナッシー?」
ナナミ「じゃあ 絶対ぜっっったい助ける!」
ナナミ「みんなが集まってこないようにだけ お願い」
シキ「(・ω < )ゞ リョウカイッ!」

 シキ、走っていく。
 ナナミ、タタリ神と対峙する。

ナナミM(とは言ったものの 結構ハードかも)

 タタリ神、ナナミに向け腕を振り上げ、下ろす。
 ナナミ、かわし、攻撃する。
 タタリ神には効いていない。
 不定形の腕がナナミに襲いかかる。
 ナナミ、その腕をかわしつづける。

3ー2 教室

 メガネ、ナシの絶叫を聞く。
 周囲も騒然。
 誰かが、窓から旧校舎の方を指差し叫ぶ。
 メガネ、窓から身をのりだして見る。
 ナナミとタタリ神の対峙を目撃。
 考えるより先に足が動く
 ナナミのもとに、走り出す。

 旧校舎近く。
 メガネ、カワノに止められる。

カワノ「ここは危ないから 教室に戻ってろ」
メガネ「でもっ ナナミんの力になりたくて」
カワノ「邪魔をしないのが 一番の手助けだ」
メガネ「でも」
カワノ「なんで ナナミだけが戦ってるか わかるか?」
カワノ「誰も手を出せないんだよ」
カワノ「あんなデタラメなヤツ 相手にできるのは」
カワノ「ナナミだけだ」
カワノ「悔しいのは お前だけじゃない」
カワノ「受け入れろ そして教室に戻ってろ!」

 メガネ(でもボクならっ!)
 そう言おうとするが、
 千里眼でカワノの気持ちを察して、言葉を飲み込む。
 言われた通り、背中を向ける。
 直後、目の前にナナミが吹き飛ばされてくる。
 ナナミの制服は土埃で汚れている。
 体には打ち傷や切り傷が目立っている。

ナナミ「痛ったぁ」
メガネ「ナナミんっ!」
ナナミ「メガネっち!?」
ナナミ「……っ」

 ナナミ、言葉を飲み込む。
 別の言葉を言う。

ナナミ「危ないから ここから離れてて」

 メガネ、ナナミの様子に最悪の未来を予想する。
 このままだと、きっと……。
 そう思う。

メガネ「……ボクを 使ってください」
ナナミ「危ないから… だから ダメ」

 ナナミ立ち上がる。
 前に向かって進んでいく。
 メガネ、その背中に手を伸ばす。

メガネM(あのとき ボクは間違った)
メガネM(だから 今度は 間違わない)
メガネM(もう 遠慮しない なにも怖くない)
メガネM(ボクは ボクの気持ちを 伝えるっ!)

 メガネ、ナナミの腕をつかむ。

メガネ「ナナミんが傷ついていくのを」
メガネ「見ているだけなんて」
メガネ「そんなの 絶っ対に嫌なんですッ!!!」

 メガネ、ナナミを真っ直ぐに見つめる。

メガネ「ボクを 使ってください!」

 ナナミ、メガネの目を見る。覚悟の決まった目。
 ナナミ、うなずく。
 直後、タタリ神の腕が伸び、2人がいた地面をえぐる。
 土煙が舞い上がる。
 そのなかを、メガネをかけたナナミが飛び出す。

ナナミ「ナッシー いま助けるからっ」

 ナナミ、地面を蹴る。
 今まで以上の早さと攻撃力。
 圧倒的な力で、黒い影を剥がしていく。
 ナシが露出する。
 ナシ、ナナミが助けに来てくれたことに泣いて安堵する。
 その顔に、眼鏡がかけてあることに気がつく。
 絶望と絶叫をあげる。
 ナシの周囲に、再び黒い影があつまり、ナシを覆う。
 タタリ神が再生していく。
 あしの形に変わる。
 タタリ神の攻撃が苛烈になる。
 なんとか避けながら攻撃するが、すぐに再生する。

ナナミ「これじゃあ キリがない」
メガネ「ジリ貧 ですね」
メガネ「ボクたちでは ちょっと無理かもしれません」
ナナミ「じゃあ どうするの?」
メガネ「ヤバいヤツの 力を借りましょう」
ナナミ「ヤバいヤツって? えっ まさか」
メガネ「旧校舎理科室 あの手の妖怪なら」
ナナミ「OK じゃあ 飛ばすよっ」

3ー4 旧校舎理科室

 ナナミ、残りの扉を蹴破り入る。

ナナミ「お邪魔しまーすっ!」

 そのあとをタタリ神が追って入る。
 教室の隅に追い詰められるナナミ。
 タタリ神、にちゃぁと笑う。
 教室中から大量の手。
 ナナミとタタリ神に襲いかかる。

ナナミ「ガネっちさ これ 実はヤバくない?」
メガネ「ナナミんなら 絶対 大丈夫」
メガネ「一蓮托生いちれんたくしょうです」
メガネ「2人で切り抜けましょう ナシさんのためにも」
ナナミ「わかった 本気だすから」
ナナミ「絶対はずれないでね」
ナナミ「いちれん たくしょーっ!」

 タタリ神、腕に触れた手を溶かしていく。
 手の目、無数の手でタタリ神の体を削り取っていく。
 阿鼻叫喚の地獄絵図。
 そんななか。
 ナナミ、すべての攻撃をかわし続ける。

メガネM(タタリ神が小さくなってきた)
メガネM(でも ナナミんも スタミナがキツい) 
メガネM(もう少し もう少しだけ もって)

 ナナミ、腕をかわした先で、手に足を捕まれる。
 跳んで、無理矢理引き剥がす。
 空中で、ナナミの首に手がのびる。
 捕まれたらオワリ。
 ナナミは体勢が悪く動けない。

メガネ「っらぁぁぁぁ!」

 メガネ、変身して手を蹴り落とす。
 そのまま眼鏡に戻る。
 ナナミ、それをキャッチして装着すちゃっ

ナナミ「グッジョブ!」
メガネ「まだですっ! ナシさんが見えましたっ!」
ナナミ「行くよっ!」

 ナナミ、地面を蹴ってナシに向かって跳ぶ。
 そこにナシの声が響く。

ナシ「来ないでっ!」

 タタリ神の腕が、ナナミの進路を塞ぐ。
 ナナミ、やむ終えず一度退く。
 そこに手が襲いかかる。
 その手を、タタリ神の腕がなぎ払う。
 メガネ、タタリ神の挙動がおかしいことに気がつく。
 明らかに、ナナミたちを守ろうとした。

ナナミ「ナッシー! いま助けるからっ」
ナナミ「だから 待ってて!」
ナシ「お願い 来ないで」
ナシ「私 みんなに迷惑かけた」
ナシ「でもそれ以上に 嬉しかった」
ナシ「ナナミちゃんに 助けに来てもらえて」
ナシ「それで もう十分」
ナシ「私のせいでこうなった だから最後は」
ナシ「自分で 終わらせたいの」
ナシ「ありがとう」
ナシ「……さよなら」

 ナナミたちに手が襲いかかる。
 その手は、タタリ神の腕に払われる。 
 ナシに手が襲いかかる。
 その手は、誰にも払われない。
 ナナミ、地面を蹴る。
 稲妻のように、ナシに向かう。

メガネM(間に合えっ! 間に合えっ! 間に合えっ!)
メガネM(間に合って……)
ナナミ「ガネっち! いくよ・・・!」

 ナナミ、眼鏡をぶん投げる・・・・
 それが、メガネの予想した未来を突き抜ける。

 メガネ、変身を解いて、それからすぐさま眼鏡に戻る。
 ナシの顔に無理矢理、装着すちゃっする。
 ナシの眼鏡身体の一部として、
 タタリ神を動かし、むらがる手を払いのける。

ナシ「なにしてんだよっ クソメガネっ!」
メガネ「この前のお返しです」
メガネ「ナシさんにさんざん言われて」
メガネ「最悪でした」
メガネ「でも それにすくわれたんです」
メガネ「だから今度は ボクがナシさんをすくいます」
ナシ「うるせぇよっ!」
ナシ「メガネはだまってろっ!」

 ナシ、自分の意思でタタリ神を身体からだに吸収する。
 その力を使って、腕を作り出し、手を一掃する。
 静かになった教室。
 ナシ、スタミナ切れで座り込むナナミの前に、歩いていく。
 ナナミの前に膝をつく。
 何かを言おうとするも、言葉は出なかった。
 そんなナシに、ナナミは抱きつく。
 
ナナミ「無事でよかった」
ナナミ「おかえり ナッシー」

 ナシ、泣きながら抱き返す。

ナシ「……ただいま」

3ー6 帰り道

 ボロボロのナナミ、メガネ、ナシ。

ナナミ「なんか 怒られちゃったねー」
メガネ「でも 形だけでしたね」
メガネ「なにはともあれ みんな無事でよかったです」
ナシ「……」

 メガネ、ナシを見る。
 ナシ、下を向いたまま。
 メガネ、ナナミに耳打ち。
 ナナミ、うんうんとうなずく。

ナナミ「ねぇ ナッシー」
ナナミ「これ 似合うかな」

 ナナミ、メガネをかけて、ナシに見せる。

ナシ「…私 そいつメガネキライ」
ナシ「…でも 眼鏡をかけたナナミちゃんは 好き」
ナナミ「よかった~」

 ナナミ、ナシの手をとる。
 2人で手を繋ぐ。

ナナミ「昔は こうやって 手を繋いで帰ってたよね」
ナナミ「なんか なつかしいね」

 ナシ、顔を赤くしながらうなずく。

ナシ「あ あの」
ナシ「助けてくれて ありがとう」
ナシ「……その メ ガネ も」
ナシ「(小声で)ありがとう」
メガネ「気にしないで下さい 友達ですから」

 ナシ、メガネの言葉に唇をとがらせる。
 それから、ナシなりに、その言葉を受け入れる。

ナシ「……調子乗んなよ ガネっち・・・・

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