13:院外訓練ー久しぶりのメイク
写真はDVDプレイヤー持ち込みでお笑いを見る、の図。
わりと入退院入れ替わりは少ないのがこのリハビリ病棟だが、先日一波乱?あった患者さんも結果として仲良くなり色々雑談等したりして、彼女の退院の日を迎えた。
入れ替わるようにまた1人入院してきた。この人も割と一癖ある人で、脳が原因だが手術をして順調に回復している様子だった。自分はここにいる人たちと違う、そうじゃない、という感じを強調したいのか、思っていることがすぐ出るタイプなのか「…え、脳梗塞でそうなっちゃったの?前は普通だったのに?…怖い」と言われた。よかったですね、自分は「そう」なってなくて。
面会に来たご友人に彼女が、「ここはおかしな人ばかりだから…いたくないと言っているのは聞いていた。その人も突然泣き出したり挙動が微妙だったがそこは元々のメンタル的ななにかなのかもしれない。なので、怖いといわれたので「怖いですよ…いつまた梗塞できるかわからないし後遺症山盛りだし。今も毎日薬飲まないとだし…あ、頭の手術した人は梗塞再発しやすいらしいですよね(ソース微妙)と言っておいた。
そんなふうに珍しく入れ替わり立ち代わりする中、院外訓練が決まった。
病院の外に出て訓練をして帰ってくるというもので、まずは病院最寄りの駅まで行き、そこから電車には乗らずに病院に帰ってくる。練習とは言え入院してから1度も出たことがない外に、「外」に出るんだ!と気合が入った。
エスカレーターの乗り降りも初めて練習した。入院してから今まで階段しか使ったことがなかったから、エスカレーターはできないかと思ったけれど階段の容量で足を踏み出したらできた。
エスカレーターの上りを上ったら次は下りだ。こちらもクリアした。思えば歩きはこの頃すでに何とかなっていたと思うけど…今もたいして変わらないいいのか悪いのか結局ここ止まりだったような気がしてならない。やはり段差は相変わらずだし、手すりがなければ上り下りできなかった。
うまく歩けないのはゲルストマン症候群のせいなのかもしれないねと訓練に同行したAさんが改めて言った。数多くリハビリしてきてやはり治癒の傾向が違うと思ったのか、Aさんも悔しそうだった。Aさんはわりと重度の人から優先についているらしいと聞いたことがある。そんなAさんに「歩行は問題ない。コート着てるせいかもしれないけど足おかしくも見えないし」と言ってもらえるのは嬉しく頼もしかった。
このとき初めて入院してから外に出る機会だから入院後初めてメイクもした。
外に出る機会と言うだけではなく、まず自分で化粧ができるかどうかがわからなかったので試してみたかった。…鏡を見ながらの作業になるが、もちろん麻痺していて使いづらいとはいえ、右利きなので右手で作業する。…なかなかやりにくかった。
例えば口紅にしても実際に塗ろうと思って視線が行く場所が唇とは別のところだったりする。ここでも、どうやら空間というか認識のズレで私が唇だと思う場所は実際にはちょっとずれるみたいだ。後は鼻の頭に光を入れたくてもホワイトパールをその脇だったり違うところに塗ってしまう。
化粧水を頭に塗ってしまった時ほどでは無いけどやっぱり自分が思っているのと見ている場所との認識がずれていると再認識した。これがおそらく大きくなればなるほど、広範囲になればなるほど面倒なんだと思う。あとは右端になるほど扱いにくさを感じたが、右手の麻痺のせいなのか脳のせいなのかはわからない(全部脳のせい、ちゃせいだけど)
そもそも化粧は2ヶ月近くやってないと普通に忘れる。化粧ってほぼほぼ無意識に手が動いている感じがあるので、次はこれ次はこれと連携プレイのように手が動いているから、結構間があいたりすると忘れがちになったりはする。そこらへんの問題は退院して帰宅して練習すれば何とかなりそうな気がした。
このメイクの練習には作業療法士のYさんも参加して、そばで化粧する様子を見ていた。手指の回復の状態などもそれでわかるんだろう。以前食事するところを見せてほしいと言われた時は断った。食事をしているところは元々、友達ぐらいの間柄なら気にしなかったが、入院したての頃手がバラバラになった状態では見せたくなかったからだ。「もしリハビリ過程の確認で必要があるならこっそり病室のぞいてもらって構わないので言わないで見てください」と言った。
そんないきさつがあったから「メイクするところみても良い?」と聞いたときにちょっとYさんは遠慮がちだったが、私は全然オッケーです。と答えた。ここまでの間にYさんとリハビリを通して良い信頼関係が築けていたし、メイクを始めたら完成までそれどころじゃなかった。
もともと結構メイクはしていた方なので思ったよりそこまでひどいことにはならなかった。アイライナーとしてファシオ液状タイプのリキッドを使っていたがさすがにこれは今の状態では難易度が高いかなと思った。メイベリンの筆タイプのリキッドならそこまでブレないし速乾性があるので塗っている最中にまぶたのほうにぶれるなどの心配もなかった。今後はこれでいこうと思った。Yさんと「あー私も眉毛書くときにアイブローペンシルのほかにパウダーを使う!」とか基本茶色で入れるとかそういう話をしながらメイクするのは久々に楽しかった。
院外訓練から戻ってきてから次の院外訓練が数日後に予定され、少し遠出して電車に乗ることになった。もちろん時間内に行って帰ってこれる範囲内でだが、電車に乗って私がリクエストした駅と商店街で色々と買い物をしている人を横目で見ながら、私が安い安いと言っていた肉屋をAさんに紹介、肉屋では買い物するのではなくそのまま戻ってくることになったけど。
なんだか商店街を歩いていると不思議な気持ちになった。
ずいぶん遠くまで来てしまったなあみたいな気持ち。それは物理的な距離と言うのではなく心の距離とでも言うのか。この場所に透明なカーテンがあってもうそちら側にはいかれないというような。
…抽象的な表現は苦手だ。やはりだめだ。
歩行訓練で院外に出ても病棟内フリーにはまだならず、この日本当はフリーになるはずだったんだけど、病室の入口に歩行器が並べてあり、その歩行器を避けようと思って体を傾けたとき歩行器と逆の方向にある病室の入り口に頭をぶつけてしまった。これにより一時的にCT検査が入り、問題ないことがわかって晴れて病棟内フリーになった。
これは右の視界が云々といった私の問題というより、単純に出入り口に物を並べすぎが危ないため、申告してすぐに解消された。
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