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ヨーロッパにはフランス語よりなわとびを

             むかしむかし8

 さていよいよ、おばあさんとネズミがヨーロッパに行く日が近づいてきました。
 ふたりは、フランス語の練習とホーキの手入れに夢中です。
 ヨーロッパといえば、フランス語です。それにヨーロッパまでとんでいくのに、魔法のホーキが折れてしまったりすると大変です。「おばあさん、もう一本、スペアをもっていかなくていいんですか」と、ネズミが心配そうにおばあさんに聞きました。
「そうだねぇ、ヨーロッパは遠いし、もし、むこうに飛びやすいのがなかったら大変だね。帰ってこれなかったら、もっと大変だし…」 いつもは、心配性のネズミのいうことなどに耳をかさない魔法使いのおばあさんも、初めての海外旅行ということで、いろいろ気になります。
「おばあさん、パスポートがいるって、おしゃべりのオームがいってましたけど、私たちはいいんですか」
「飛行機や船でいくんじゃないから、そんなものはいらないよ。ただ、国境っていうのがあるから、それにひっかからないように、線があったら気をつけるんだよ。国際問題になるんだからね」
と、魔法使いのおばあさんはまじめな顔でいいました。
「そうだね。あしたから国境の線にひっかからないように飛ぶ練習をしようかね」
「おばあさん、なんだか外国旅行をするって、肩がこりますね」
 ネズミはためいきをつきつついいました。「しょうがないだろ。これからは魔法使いも世界中のことをしって、広くけんぶんをひろめなければ」
 けんぶんというのは、新聞とにてるのだろうか、にてないのだろうかと、ネズミは思いながらも、世界のことを考えているおばあさんのじゃまをしてはいけないとだまっていました。
 

 第一日目。
 魔法使いのおばあさんは、二匹のウサギさんになわをもってもらって「国境ごえ」の練習をすることにしました。

「おーはいんなさい」
 ズデッ。

 おばあさんはホーキの先をひっかけて、ひっくりかえってしまいました。

「おーはいんなさい」
 スルッ。

 ネズミは身体もホーキも小さいものですから、ウサギさんの耳にくくりつけたなわをじょうずにくぐりぬけることができました。
 ネズミはきのどくそうに、
「おばあさん、国際線は空のうえにあるんですから、トンビにもってもらったらどうでしょう」
といいました。
「それを早くおいい」
 おばあさんは腰をさすりさすり立ち上がりました。


 二度目のチャレンジ。
 二羽のトンビがけやきの木よりも高く、舞い上がりました。くちばしにはしっかりとなわをくわえています。
「おーはいんなさい」
 
フワッ クルッ ズデツ

 トンビがいったとたん、口にくわえたナワが落ちてしまいました。でも、それを見事にクルリまわってうけとめたのはいいのですが、ちょうど下からとんできたおばあさんの身体になわがからみついて

 あっ、あ、あーーーーーーーードスッ。

 おばあさんはついにギックリ腰になってしまいました。
 ヨーロッパに行かれなくなった魔法使いのおばあさんは、笑っても、くしゃみをしても、腰にひびくとベッドに寝たきりです。
 昼間は、たくさんの人がお見舞いにきてくれたので、気がまぎれていたおばあさんも夜になると気持ちがふさいできました。
「おばあさん、おいしいスープができましたよ」
 ネズミがおばあさんのまくらもとに食事をはこびました。
「ありがとう。あいにくあんまり食欲がないんでね。ネズミくん、さきにすませておしまい」
「そんなことを言わずに、ひとくち飲んでくださいよ。元気がでますよ。ヨーロッパはいつでも行けますよ。それまでにもっともっとヨーロッパのことを勉強すればいいですよ。その方が、本当に行けたときにずっと嬉しいと思いますよ」
 ネズミは青白い顔をしたおばあさんを心配そうにみつめながらいいました。
「おやおや、私もネズミくんにはげましてもらうようになったんだね。そうだね、楽しみは先にとっておくことにしょうか。さっ、何をしてるんだい。そのスープをわたしに飲ませてくれるのかい、くれないのかい」
と、おばあさんはいいました。
 そして、元気になったら、フランス語よりもなわとびの練習をしなければ……と、おばあさんは思っていました。 

                       おわり

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