小夜の雨


 雨がふってきた。
 小夜の目から しおからい雨がふってきた。
 それでなくても、まいにち 雨ばかりでうっとうしいのに、おまえまで なくんじゃないよと、かあちゃんはいうけれど、いちどふりはじめた雨はそんなにかんたんに やみはしない。
 なにもかも、弟の健がわるいのだ。あの子があんなところで「オシッコ」と、なかなければ、いまごろ小夜は、プーさんをだいていられたのだ。
 さっき、小夜は、とうちゃんとかあちゃんと健の三人でスーパーにかいものにいったのだ。めずらしくケイリンであてたとうちゃんは、小夜に、なんでも すきなものをかってやるといったのだ。
「ほんと、とうちゃん」
 目をかがやかせた小夜は、食堂の横の特売場でプーさんのぬいぐるみをみたとたん、
「とうちゃん、小夜 これにする!」とさけんでとびついた。
 小夜は、ぬいぐるみなど 一つも もっていなかった。かあちゃんがつくってくれたタオルのネコも、健がうまれたら とられてしまった。 

 とうちゃんは、チラリとねだんをみると、「こんな小さいのが三千円かあ」とつぶやくと、かあちゃんにかえしてくるようにいおうとしてあわてた。小夜がレジのおねえさんのところに もっていってしまったのだ。
 レジのおねえさんは、むじゃきによろこんでいる小夜に かせいしてやりたいようなきがしたのか、
「よかったね。かわいがってあげるのよ」
 もう小夜のものになったようにわらってくれた。
 とうちゃんは、しぶしぶ サイフのくちをあけた。そのときだ。健が、
「おしっこ!」
と、さわぎだしたのは……。
 とうちゃんは、さっさとサイフをしまうと、
「小夜、またあとで かってやる」
と、健をつれていってしまった。
 いつもは健をだいたこともないとうちゃんが……。


 そのときから、小夜の雨がふりやまない。
「また今度かってやるっていっただろ。いつまでも なくんじゃない!」
 とうちゃんのカミナリに小夜は、また いちだんと声をはりあげた。 とうちゃんの「今度」だけはあてにならないことをしっているのだ。

                        おわり


  

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