おぼうさんは、伝染病
みさとの家は、大家族です。
おじいちゃんにおばあちゃん、おとうさんにおかあさん、それに三人のにいさんと、犬のポーがいます。
八月のお盆がちかづくと、みさとの三人のにいさんは、むずがゆいような顔をします。それをみると、みさとまで なんだか おへそのあたりがかゆくなってきます。
十三日の朝になりました。おかあさんは、みさとと、三人のにいさんをあつめると、
「あんたたち、けんは、中学生、ひろは、六年生、なおは、四年生。みさとも、二年生になったんだからね。きょねんのようなことはしないようにね。おばあさんが はずかしくて、お寺さんにいけないようなことだけわね」
あらたまった顔でいいました。
「わかってるさ」
けんにいさんが中学生らしく、きっぱりといいました。
ひろにいさんやなおにいさんも、しっかりとうなずいています。でも、みさとは、あんまりじしんがありません。
だって、あれはどうかんがえても、じぶんのきもちとはかんけいなく やってくるのです。でも、おかあさんに「どうなの、みさと」といわれては、うなずくしかありませんでした。
さて、十時になりました。
カラストンビのようなころもをきて おぼうさんが、キーコキーコと、自転車に乗ってやってきました。それをみただけで、三人のにいさんは、おかしくてたまらないような顔をしています。
ご先祖さまの法要をしていただくのです。ぶつだんをまえに、おぼうさんがすわり、おじいちゃんをせんとうに八人家族がかしこまってすわりました。
「なあーんまいだあー… 」
おぼうさんのおきょうがはじまって、十びょうもたたないうちに、けんにいさんのおなかがゆれはじめました。あついなかを自転車でやってきたおぼうさんは、ツルツルあたまにあせのつぶがひかっています。それをみつけたとたん、わらいのほっさがおきたのです。
おぼうさんの声が大きくなります。
おなかのなみがひろにいさんから なおにいさんへとうつっていきます。だんだん みさとのおなかも、おかしくなります。
けんにいさんのかたがゆれてきました。わらいをこらえているので、目からはなみだがでています。それまで、おきょうにおびえて、犬小屋でうなっていたポーが、おぼうさんがチーンチーンとやりはじめたとたん、くるったようにほえはじめました。
それをあいずのように、四人はふきだしてしまいました。ほーら、今年もわらってしまいました。
「あれは伝染病だから、しかたないんだ」
おぼうさんがあせをふきふき かえったあとで、ケロッとした顔で、けんにいさんがいいました。
それで うつるんだわと、みさともうなずきました。
「ほんとにいやになっちゃう」
おかあさんのこごとをききながら、みさとは、三人のにいさんがらいねんも、伝染病にかかるのをたのしみにしていることに きづいていました。もしかしたら、みさとたちにとって それは、夏のたのしい儀式なのかもしれません。