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ライオン丸


 ちさとは、かずみちゃんの家の前をとおるとき、かならず いきをとめる。
 かずみちゃんの家は、大きい。それなのに門がない。だから、ひろいおにわがまるみえだ。むこうがみえるということは、あのライオンのような犬からも、こっちがみえるということなのだ。
 あのライオン丸(と、ちさとは、かってになまえをつけていた。あの犬に、五郎なんていうなまえは、にあわない)、あれさえいなければ……と、ちさとは、かずみちゃんの家の前をとおるたびにおもう。
 なのに、ライオン丸は、いつもおなじところにいた。だから、ちさとは、いきをとめる。いきをとめたまま、ニンジャになつて とおりすぎる。まちがっても、走ったりしてはいけない。
 ライオン丸が、ちさとの目のすみからきえ、道祖神がみえるところまでくると、ちさとは、からだじゅうにたまったいきを ぜんぶ はきだす。ぜいぜいと、かたでいきをしている ちさとをかずみちゃんは、あきれてみている。
「うちの五郎は、ほえたり、おいかけたりしないわ。それに、もし ほえたって、オリにいれてあるんだから、へいきじゃない」
 かずみちゃんは、「ぜったい だいじょうぶ」をほしょうする。 かずみちゃんは、しらないのだ。
 この前、ちさとがいきをして とおりすぎたら、「ウワン!」と、ものすごいこえで ほえられたことを。
 かずみちゃんには、わからないのだ。ライオン丸が、いくらバカでも、じぶんの家の子どもをたべたりはしないということがー。
 

 それに……と、ちさとは、おもう。
 もし、ライオン丸がふつうの犬なら、あんなてつごうしのはまったおりのなかにとじこめられているだろうか。
 きっと、あのライオン丸にはヒミツがある……と、ちさとは、おもいこんでいる。

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