サンタさんの手
クリスマスイブの日、アルプスのモンブランに登った村田さんのおみやげ話です。
村田さんが、モンブランの頂上にたどりついたとき、そこには一足先に、お客さまがいました。登山者にしては、へんなかっこうだなとサンタクロースのようなふくをきたおじいさんをみたそうです。赤いビロードのふくが雪山にはえてきれいでした。
村田さんにきがついたおじいさんは、
「まっておったところじゃった。さっ、たすけてもらおうかな」
というと、白い大きなふくろのなかから、つのぶえをとりだしました。そして、
「これをふいてくだされ」
と、村田さんにわたしました。
一年一回の大仕事だというのに、あそびほうけたトナカイたちが、約束の時間になっても、あらわれないというのです。
「わしはもう年じゃで、このつのぶえをふくには、少々体力がない。そこで、あんたのような山男がくるのをまっていたというわけじゃ。さっもう時間がない。これをおもいきり ふいてくだされ」
おじいさんのやさしそうな目は、深いしわのなかにうまってしまいそうです。
村田さんは、わたされたつのぶえを、おもいきりふきました。つのぶえのすんだ音色が、遠くの山々にこだましました。
そのときです。シャンシャンシャン、シャンシャンシャンという鈴の音がちかづいてきたかとおもうと、目のまえの青空からサーッと風がふき、金色のツノをもった6頭のトナカイがそりをひいて あらわれました。
「やっときたな、わすれっぽいトナカイたちめ」
トナカイたちは、おじいさんにあまえるようにトントンと、足をならしておじいさんをみあげました。
「てつだってくれて ありがとう。さっ、これからいそがしいことじゃ。なにしろ世界中のこどもたちがまっているもんでな」
おじいさんは、うれしそうにわらいながら、村田さんの手をしっかりとにぎりしめました。
そのときの手のあたたかさがなかったら、おじいさんがサンタさんだなんてしんじられなかったかもしれないと、村田さんは、子どものような顔でいいました。
おわり