定番。ショートケーキについて①【ジェノワーズ編】
誕生日とクリスマスにはケーキを用意して祝うのが世の中の定番になっている。
ケーキと言うだけでもそうなのだが、ホールともなると特別感は相当のものだ。普段はなかなか食卓に並ぶものではない。
目当てのパティスリーへ予約を入れることもあるだろうし、手作りで祝うこともあるだろう。
ケーキの中で、多くのケーキ屋の店頭に並び、日本で老若男女に長く愛され続けているホールケーキといえば、やはりショートケーキ。そして事実、これまで私が経験した店のクリスマスケーキのラインナップにショートケーキが入っていれば、どの店でもショートの準備台数は群を抜いていた。
それだけ身近で愛されているからこそ、初めてのお菓子作りでショートケーキを選ぶ、という人は少なくないと思っている。そして、ネット上にもレシピは溢れている。
動画や動画付きのレシピは状態や混ぜ方などが分かりやすいので非常に参考になるはずだ。信頼性の高い動画を見極めるために、しかるべきサイトや、プロが出演しているもの、レビューの良いものをチェックすることをお勧めする。
ショートケーキの美味しさのポイント
子どもの頃、私の母が作るケーキの定番は「チョコケーキ」だったが、今思い返すと、とても商品にはならない代物だ。それでも私は大喜びで食べていたし、ねだって作ってもらっていた。
上手く膨らまずにずっしりとしたスポンジ生地(ジェノワーズ)は、妙な食べごたえがあって、舌の根元に残る植物性のクリームは、“チョコ味”とは口だけで、ココアで味付けされていた。ナッペ(クリームを塗る作業)はスプーンでされて、いびつだった。
家庭で作るケーキは、それでよいのだと思う。が、作る側としては別の想いがあるだろう。
それは「折角作るなら、世間一般的に“美味しい”と評価されるものに、少しでも近いものを作りたい」という想いではないかと思う。
では、おいしいショートケーキとは一体どういうものなのだろうか。
ショートケーキにおける美味しさとは
①生地がしっとり、ふんわりとしていて、キメが細かいこと
②クリームにコクがあり、なめらかであること
大きく指定するとこの2点に尽きるだろう。
なので、今回はジェノワーズ生地の作り方のポイントについて書いていこうと思う。
ジェノワーズの基本配合について
生地の配合はとてもシンプルだ。分量は別として、使う材料はホットケーキとさほど変わらないが、B.P(ベーキングパウダー)は使わない。卵の泡の力で膨らます生地である。
【18cm 1台分】 焼成温度 165℃ 焼成時間 25~30分
卵 3個
砂糖 90g
薄力粉 90g
バター30g
ネット上でのレシピを見比べると、砂糖と薄力粉の増減や、バターを減らし牛乳が加わったり、と少々違いはあるものの、このあたりの配合であり、問題はない。
ただし、これで、ケーキ屋と全く同じ味が作れるか、と言われればNOだが。それはなぜか?
その理由はまた別の時に説明しよう。
ジェノワーズのコツ
まずはオーブンの予熱と型準備、計量だ。
卵はそのまま立てていくので大きなボウルに。粉は振るっておく。深めのフライパンなどで湯煎を用意する。
クッキングシートを切った型紙は、(1)周囲 (2)底をふんわり乗せる の順でセットしておく。
①卵をほぐし、砂糖を加え、ハンドミキサーで立てていく。
卵が冷たいと泡立ちにくいので、砂糖を加えて少し混ぜた後、湯煎で熱を付けていく。卵が煮えないように、全体を混ぜながら。卵の温度は人肌~40度が目安だが、温度計がなくても大丈夫。指を入れてみて、ぬるいお風呂の温度だと感じれば良い。
これ以上は泡立たない、というところまで立てて、低速に切り替える。
高速で立てると一気に立つが、気泡は荒い。低速でキメを整えてやると小さな気泡がそろう。
低速で2~3分回すと目に見えてツヤが出る。これで死ににくい泡の完成だ。
※生地が死ぬ = 泡がつぶれてダレてしまった生地。焼いても理想どおりには膨らまず潰れてしまう
②ゴムベラに持ち変えて粉を合わせる。ここからの作業はスピーディーに。
粉ダマと混ぜすぎを避けるために、粉は2回に分けて入れる。1回目が混ぜきらないうちに2回目を入れて、テンポよく合わせていく。
ゴムベラを中心に入れ、ボウルの底と淵にしっかり沿わせながら、すくい上げる。右手が「の」の字を書けるように、左手はボウルを手前に回すと良い。
「混ぜすぎないように」と良くいうものの、ここで合わせが足りないのもNG。粉っぽさや、ボソボソ・ザラザラした舌触りになる。粉っ気が消え、再びツヤが出るまで混ぜてほしい。
良く混ぜていると次第に、周りより黄色が濃い部分がスジのように入ってくるが、それは死に生地なので注意が必要だ。
③人肌に溶かしたバターに、今作った生地の一部を入れ、しっかり混ぜてから、加える。
なぜなら油脂は泡をつぶしてしまうからだ。わざと一部生地を加えて、近づけることでワンクッション置き、手数少なくなじみやすくするためだ。
粉より少々ゆっくり丁寧に、ゴムベラで合わせる。合わさったら止める。
④型に流し、一度軽く落とし、大きな泡を消してからオーブンへ。
⑤焼きの見極めは、真ん中を指3本くらいで触って跳ね返す力があるか、また、中心に竹串を刺して生地が付いてこなければ焼き上がりだ。押した指の後が残ったり、竹串に生地が付いてくるときは、焼成時間を追加する。
焼きあがったら、型を10cmほど上から落とし、ショックを与える。すると、生地の気泡の中の熱い空気が入れ替わる。気泡に篭る水蒸気を避けられるので、生地は沈みにくくなる。
すぐに型から外し、ケーキクーラーに上面を下にして乗せる。これも生地を沈みにくくさせるために有効だ。
デコレーションするときには、焼き面は剥ぐので、網の跡がついたところで何の問題もない。
焼成後の取り扱い方
まずはしっかりと熱をとること。紙は乾燥防止の為、外さない。(写真↓ 上面は子供が剥いて食べてしまっていた)
焼いてすぐの生地は、ふわふわとスライスがし辛く、また生地は翌日がしっとりして落ち着くので、使うまではしっかりラップして冷蔵庫で保管を。
翌日以降の使用はラップして冷凍庫へ。解凍の際は一晩かけて冷蔵庫内がおすすめだ。
「重要」な生地作りでも、気負わずに。
ショートケーキの美味しさのポイントを左右するジェノワーズ生地は、ショートケーキを作る上での最初の工程だ。ジェノワーズが満足いくものに仕上がれば、その後の作業も楽しく続けることができるだろう。
しかし正直、回数を重ねなければコツをつかみきることは難しい。少量での仕込みとはいえ、パティシエという「職人」としての職業がある程度には、お菓子を扱うことは難しいことだからだ。
オーブンもそれぞれクセがあるから、温度や焼き時間の変化もある。
そんな中で、最初から完璧な仕上がりは目指さなくて良いというのが私の意見だ。一つコツを知れば、知らなかった場合に比べて確実に「美味しい」に近づくではないか。
逆にコツが分からなければ、何度作っても毎回納得のいかない仕上がりになってしまい、「ああ、自分は向いていない」と思う種になる。
お菓子つくりはそういうものだから、と割り切って、一つでも多くポイントを知り、楽しみながら、自分だけの、または家庭の味のショートケーキを作ってみてほしいと思う。
長文になってしまったが、それでも最後まで付き合ってくれた方に感謝。