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香ばしい焼き色を付けたブロッコリー、ペペロンチーノ

階段を上りきったところで、白い羽が1枚舞い落ちた。先に行った方が落としたのだろうか。重力が違うかと錯覚するような遅さですれ違う。
「12月」を目にすると、秋は終わり、冬になったのだ、と思う。銀杏が黄金色の葉を瞬かせる景色をいつまでもカメラで追っていたけれど、年越しをどう過ごすかと話すようになっていた。

この頃は人や物事が遠ざかることが多かった。いくつもの出来事は電話越しに知らされ、直接お顔を見ることも叶わなずにいる。そういうときに空を眺め、月の光と夜の明るさを知った。夜空は真っ黒でなく、深い深い紺色をしている。カメラを向け、1枚撮る。月は肉眼で見るよりも小さく映る。そういえば銀杏の森で見た黄金色の葉の風も、結局1枚も残せなかったと思い出す。

フライパンにオリーブオイル、刻んだにんにく、唐辛子を入れて小さな火にかける。ブロッコリーは断面を下にして、フライパンにピタリと当たるように置く。チリチリ。表面が焦げる。香ばしさが立ち上る。スパゲッティの茹で汁と共に、茹でておいた鶏むね肉を細くして合わせる。茹で上げたスパゲッティ、ナンプラー、黒胡椒、オリーブオイルを絡め盛りつける。削ったチーズを雪のように積もらせる。

茹でておいた鶏むね肉がある。先日たたき売りされていたブロッコリーが、丸のまま家にある。どこかからやってきて、巡り合った皿。出会いは一瞬、景色として立ち上り、数分後にはもう消えている。しっかりと、お腹に収まっている。

「悲しみの秘儀」(若松英輔/文春文庫)
友人が「食べることは弔い」と話していた。「自分の中に他者の居場所を作ること」とも。種々の悲しみをも飲み込んで糧にする。そこから生まれる物語の話だった。

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