11首連作「撫でる」/辻村陽翔
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表題:撫でる 作:辻村陽翔
恋人からチェーンメールが届く朝 いつも通りに靴を脱がせて
想像は季節外れのアカシアのその満開を補いながら
頭上には何かを運ぶ配管が駅のホームへ降り立つ僕の
手懐けるように撫でつつ髪の毛を乾かしていく美容師のひと
言うことを聞いてやらない 初冬の雲雀が落ちてくる枯野原
コンタクトレンズを外す手加減で君の白髪を確実に抜く
ない場所をエデンと告げて 洗脳は言葉ではなく舌でするもの
堂々と胸像が立つ廊下にも消火器の置いていない区間が
熱帯を冠する夜が増えていき雪の降らない晩年がくる
「例外の方が多い規則」と呟けば血管にまで染み入る冷気
遠景のクリスマス・ツリー 首筋の産毛が逆立ちゆく極月に
※
大晦日に108首会を行ったときとその近辺の日程で作った歌から一部を取り出したものです。斧乃木余接という、使役される側の存在のことを念頭に置いて書きました。気に入っているので読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。
引用や感想も、常にお待ちしております。