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YCAMの日々 2023

YCAMでの音楽イベント2日目、私は暇だった。
来客を待ち構えて仁王立ちする私の目の前を、
渡邉さんが何度も横切る。
(渡邉さんは大好きなナイロン100°の俳優さんにちょっと似ている)
渡邉さんは私の目の前で、必ず誰かに呼び止められる。
渡邉さんはその度足を止め、抱えたファイルを繰って、なにか指示をする。
指示を受けてその人は駆け出し、渡邉さんは再び歩き出す。
すごいなあ、こういう仕事は全部の進行が頭に入っていないといけない。
そして同時進行のイベントには、必ず想定外の非常事態が起こり、
予期せぬ判断を迫られて、それはもう大変なことになるのだ。
ところがいつも落ち着いて、少しも慌てず采配を振るっておられる。

夕方、休憩室にお茶を飲みに行ったら、若い女性がふたりがいた。
「お弁当、おいしかったですね」
うひゃあ、私?  知らない人に声を掛けられた!
首にぶら下げられたカードにはアーティストの記名。
かっこいい、、

何を隠そう私は影が薄い。どこにいても印象に残らない。
えっあの時、あそこに、君おったん?とよく云われる。
退職後カレー屋になろうと、
料理界の東大「大阪あべの辻調理師専門学校」に入学したが、
私が在籍したことを、担任の先生もクラスメートも、誰も知らない。

「ほんとにすごいおいしかったです。カレーがすごい煮込まれてて
あと、野菜の付け合わせがもうキレイで、色とりどりで。
あの赤い大根は唐辛子で色つけてますよね、それと紫キャベツに
ターメリックの黄色いキャベツの鮮やかなコントラスト。
あと、昨日ののり弁当もすごかったですねえ、
あんなまん丸いミンチカツどうやって揚げるんでしょうねえ、
あと、おいしかったんが苦瓜のお惣菜と、
あと竹輪にポテサラが詰まってるなんて、もうびっくりです。
どこのお店のお弁当なんでしょうねえ、もしお店近いんやったら、
この町の思い出におみやげに買って帰りたいです、、。」
、、、、、

キラキラしたおねえさん達はくすくす笑って、
それなら渡邉さんに尋ねたらよろしくてよ。
お弁当の手配はぜんぶ渡邉さんですから。
いやいやそこまでのことは、わっはっはっ、、
慌てて私は退散する。
引き込もりの私が会話するニンゲンは家族だけなので
緊張でドキドキした。

驚いたのは、その夜、打ち上げに行く為に
玄関でタクシーを待っていた時のこと。
渡邉さんが
「あっ、今日のカレーはね。ノットっていうお店で、
人気店なんです。みなさんの宿から近いですよ、
それから昨日ののり弁は、しまうま屋っていう居酒屋で
おいしい店でね、やっぱり宿から近いですよ、、、」
うわん、あのおねえさん達が伝えてくれたのかな、、。

もっと驚いたのは翌日の最終日
大城さんのブースの女性が、ささっと来られ、私の耳元で
「今日のお弁当はね、野菜料理専門のお店で、
ベジタリアンの灰野敬二さんをお連れした店なんです。
そしてね、その店には
あのミヒャエル・ローターさんも滞在中、通われたんですよ。、、」
私は心の中で号泣した。みなさん、みんなやさしい

夕方、私は名残を惜しんで各ブースを訪ねた。
沖縄出身の演奏家/美術家/レコーデインング・エンジニアの
大城真氏のブースでは久高島のイザイホーの音源と
カエルの鳴き声を録音したのを手に入れた。

思い出におみやげを一店ごと買い求めて、
言葉を交わした人達は、
この先会うことはなくても
もしいつかどこかで会えば、
笑顔であいさつするだろう懐かしい人達になった。
他の人々も名残惜しい気持ちは同じなのか
どこのブースも賑わい、
手伝ったブースのレコードはその日が1番の売り上げだった。

ネコが見た昨年秋のYCAMの風景です


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